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第十六話 始動

プレイヤーを殺す理由は二つある。一つは略奪行為のため。もう一つはそれ自体が目的の場合だ。前者がもっともらしい理由に聞こえるだろうが、実際はそうじゃない。もちろん、アイテムのためにプレイヤーを殺すのは最もメジャーだ。多くのプレイヤーが賛同してくれる意見だろう。しかしだ。本当の真実はそうじゃないんだ。


殺す事がどういうことか、例えゲームでも理解できないだろう。一度か二度の体験で、ゆっくりと自分の感覚に沿って考えてみるんだ。そうすると、二つに別れる。なんて最高なんだろう。もしくはなんて最低なんだろうかってところだ。

重要なのは、心の声に耳を傾けることにつきる。常識や、それまでの体験、倫理思考、社会的な立場も忘却して考えるんだ。自分がなにを感じたのか。どう思ったのか。経験上、PK行為は宜しくないと大反対してるやつに限ってPKを殺す行為を正当化してる。本質はもちろん同じだ。アイテムがだとか資産の話なんかじゃない。決してな。


相手と退治した時、ワクワクする瞬間があれば、きっと考えは似ているはずだ。もっと闘いたい、もっと暴れたいってな。


それだけじゃない。人生の途上での挫折、恨みつらみ、やるせなさ、反社会的思考が芽生えた人間は少なくないんだ。人間は自殺までする動物だ。攻撃の極みだろう。理解すらできないよ。だが、わからなくもないってやつだ。内面的な暴力を外面的に、そして人生をより充実する結果に結びつけるためのものだ。PKってのはそういうものなんだ。


骨を砕く感触、肉を割く音、血しぶき、心臓が止まる瞬間が刃越しでも伝わる。そんな時にふと思うんだ。支配できたって。これまでの人生で、誰かを支配できたことすらなかった。そんな人生の途上で、これほどまでに素晴らしい体験ができて、興奮と熱狂を帯びた中、現実では買えるものは全て変えたし、過去の清算だって終わった。前を向くことができたんだ。怖いことはなにもない。その一歩が正しい方向であれば、このギルドへ勧誘できるんだ。


第十五話



「マッキ~何か変わりましたか~?」


ミルフィーと一緒に森林地帯でクエストをやってる最中、そんなことを言われた。

これまでに見たことも無いほどに樹木の背丈は長く、針葉樹林の文字のように鋭い葉っぱをつけた百年は生きたみたいな木の上にあるオールナイトの卵を取ってる時。登るだけでも十分ぐらいでヘトヘトになったけど、ミルフィーはちっこい体のせいか、あっという間に登っていた。大体20メートルは越えてる。正直下は見たくないし、森林地帯の眺めに思いを馳せる余裕もない。


「僕は僕だよ、なにあったって変わんないよ」


「そうですかね~」


「そうだよ、うう。あったあったこれこれ」


木に横穴が開けられていて、そこに三つの卵があった。ふと、自然の営みを想う。現実よりも野生で採ってる分、こっちの方が理にかなってると想った。鳥の卵で、ボーリングボールほどの大きさもあるけど、手にとってみると存外軽かった。これがとっても美味しいらしい。スクランブルエッグは絶品とのこと。


「さて休憩しましょうか~この辺りなら安全ですからね~」


「ってここで!?降りないの?」


「複数の監視があるみたいですからね~マッキーじゃなくって狙いは私っぽいです~」


「なんかやらかしたの?」


長いネトゲ生活、いろいろありそうだ。たぶんミルフィーみたいな人って我が道を行くって感じで結構いろいろありそうだ。


「違いますよ~。マッキー狙いで騎馬を射るなら先ず馬をって言うじゃないですか~たぶんそれですね~。複数っぽい挙動ですけどこれ単数ならかなりの俳人ですね~」


「俳人!?」


「現実をぶっちぎってここで過ごす時間が長い人のことです~。いくらゲームが凄くても現実が一番大事なんですよ~」


「あっはい・・・」


夏休みの宿題を忘却の彼方においやってプレイするゲームはいつだって最高だった。たしかに現実に我に返ると、泣きたくなってくる。現実、超大事です。そう思ってるけど、今年の夏休みも例年通りの気がする。自信を持って言えることだ。いや、うん、頑張ろう。じゃなくって。


「それってやばくないの?」


「私かなり強い方なんで大丈夫ですよ~。あっ。み~~っけました~」


そう言うとミルフィーのぬいぐるみアバターからしたらかなりデカイおもちゃっぽい弓を背中から取り出して、弦を張り替えた。


「なにしてるの?」


「遠距離用ですね~。戦闘には向かないですけどスナイプにはこれより上は二個か三個ぐらいじゃないでしょうか~」


そう言って弦の張り直しが終わると、お札をぺたぺた貼っつけた。


「どこにいるの!?敵!」


「マッキーじゃ見えないですよ~レベルが足りないというよりも、遠距離アタッカースタンスのスキルを習得してませんから~」


そう言うと弓をきりきり引き始めた。頑張って目を皿のように探してみても、僕にはミルフィーの凝視する方角にはどこまでも続く背の高い木が並んでるだけだった。短く呟くようにミルフィーは一言放つと矢を持つ手を離した。


「倒したの?」


「いえ~カッフィーのアーティファクトコップを壊しただけですよ~。いちいちプレイヤーを相手にできないですよ~。力の差を見せつければ、勝手に相手が退いてくれるんですよ~」


「へぇー。すごいね」


凄くて分かりにくくて実感が持てない。自慢された時ちょっと反応に困ってしまうようなリアクションをしてしまった。


「あ。もしかして黒服を着たキツネのお面被ってる人?」


よくよく目を凝らしてみてみると、200やらそこらの距離で割れたコーヒーカップを持つプレイヤーがいた。そしてそいつの胸元に赤色の玉が出現し、僕たち目掛けて飛んできた。


「弱っちいです~」


ミルフィーは難なく赤色の玉を矢で撃ち落とした。


「よく見てください~撃ち落とした玉の断片、魔法の残骸は通常雲散霧消し、消滅しますが、物質として生成されてますね~。攻撃魔法の付与効果、敵対付与のデバフが発生しちゃって、火傷、恐慌、最悪は毒、即死レベルといった状態異常効果、準敵対付与に至ってはマーキング付与、マーキングされたプレイヤーの位置情報やレベル、種族、ジョブ、クラスといった個人情報を引き抜かれちゃったりするんですよ~」


説明しているミルフィーさんは、その間も的から目を話してない。


「私のことをアーチャー使いと認識するためでしょうか~。マスクで顔を隠してますし、もしかしたらカウンタータイプのウィザードかもしれませんね~。大事を取って殺しておくレベルです~」


それなら。


「サクっと殺しておこうか。ヴァミリヲンドラゴン」


魔法カードを取りだし、ヴァミリヲンドラゴンへ召喚を求めた。けど。


「召喚に応じてくんないよ・・・」


カードからの視線でなんとか自分でしろっていってる気がする。こんなぐらいでわざわざ呼ぶなって言ってる気がする。


「ここでそれを使うのは最悪の悪手ですね~。頭悪い子を地でいってる選択です~脳筋スタイルの脳死プレイングですね~」


「なんで!?」


酷い言われようだ。でもなんか脳筋とか言われてギクリとした。そりゃ確かに漫画の戦闘シーンとかでも主人公がよく頭脳派プレイとかやっちゃってると笑いながらこんなん戦ってる中じゃあ絶対ムリだろ~とか思ってるけど。人間には腕があって、手があって、拳も握れるんだからぶん殴ればワンパンじゃないかって思ってる。あ。もしかして僕って本当に案外脳筋スタイルなのかも。なんかちょっとショックだ。


「下がってきましたね~。どうやらマッキーの持つ虹色に光る魔法カードを見てビビった経緯からでしょうか~。一応警戒しつつ、町へ戻りましょうか~。あのレベルのプレイヤーはこんなアドバンス用のフィールドに来る必要もありませんし、どこかでマッキーの事が発覚したようですね~。疲労度を軽く回復しつつマッキーにサンドイッチを食べて貰いましょうか~」


そういって樹上でピクニックのように簡易なマットを浮かせて、そこで軽く食事を取った。無茶苦茶美味しい。美味しい。美味しいんだけど・・・。


「まだそのドラゴン手放す気になりませんか~?」


「なんないよ・・・」


この営業がなければ更に美味しいんだろうって思う。


「言っておくけど、そもそもヴァミリヲンドラゴンを他の誰かの召喚に応じるとも思わないからね」


「重要なのは強力な武器があること、それ自体でも問題は無いんですよ~。核と同じで使用せずとも持ってるだけで手札になって武器になるんです~」


「二発も落とされたけどね」


「マッキーが持ってると、地球が滅びかねませんからね~」


凄い返し方をされた。正直言い返せない。ぐうの音もでない。


「そんなことやんないよ」


「今は、ですよ。やるかもしれない、その気になれば、この世界全てが滅ぼされてしまう。そんな危険性の有る兵器を一市民が所持しておくべきではないですよ~。個人的にはそっちのほーが面白そうではありますけどね~」


「どっちなんですか・・・」


ふと、頭によぎった。僕の治癒能力。この世界と間違いなくリンクしているであろう、僕の変化。ミルフィーさんには、それこそ知るべきではないだろう。


「でもマッキー~。本当に変わってますね~。高レベルプレイヤーには体内に流れるマナが見えてオーラって呼ばれてる現象があるんですが、マッキーは初めて会ったときは普通の無色透明で流れるテンポも普通だったし流動性も少なかったんですけど~今じゃ~」


「今は?」


「珍しい色ではないですけど、真っ白で流動性が激しく、まるでプロフェッショナルクラスのようなオーラですよ~」


多分、それはきっと。この世界に、僕の在り方を決めた結果が理由だ。


「これからは、もう一人の男として生きてくって決めただけだよ。少年時代はもう終わったって話」


「それってどういう意味ですか~?」


「誰かのせいにしないで、自分で考えて自分の生き方を自分で決めるって事。元々日本の成人は元服、大体15歳ぐらいだったかな?それで立派な男になるって考えだし。僕はもう16過ぎてるし」


「それってもしかして彼女ができたとかそーゆーお話ですか~?」


「全然そんなんじゃないよ!!それは成人してから・・・。親から独立してからちゃんと子供食べさせてあげてもうこの人となら一緒に死ねて大満足ってなってから!僕が言ってるのは精神的な話、実際どーあがこーが20歳未満は未成年だからね」


まぁ中には市役所と組んで戸籍を改竄して結婚させたカップルを知ってるけどね。今考えたら僕の知ってる立派な大人って結構無茶苦茶な人達だな・・・。僕の知ってる組織は、カップルは許されない。他は結婚だけだ。死んでも許されない。まぁ事実その通りなんだけどね。


「マッキーって結構しっかりしてるんですね~」


「まぁね」


僕ほどしっかりしてる人間は、ちょっとやそっとじゃ見つからないだろう。いや。高校のカップルが退学して結婚したのも案外あるし、割りといるのかも。


「僕も僕なりにどうしてヴァミリヲンドラゴンが手に入ったか考えてみたさ、やっぱり、なるべきしてなったんだと思うし」


きっと必要だったから。そしてこれから必要なのだから。


「さっき地球を滅ぼしかねないって言われたけど、逆かもしれない。僕なら。僕にしかできない、僕だからこそできる貢献ってやつもあるかもしれない。まぁ。もしその時が来たら、僕が全部なんとかするから、ミルフィーさんは遊んでていいですよ」


「それ本気で言ってます?」


「・・・なんてね。いざ死ねってなると、そりゃ無理だって話だよね」


やるけどね。僕は。すべき事はそれがどんな事でも、やるけどね。ミルフィーさんには、知られたくない。簿僕だけ僕の事をわかってればいい。共感も理解も必要なんて無い。僕だけでいい。きっと強さはそういうものだ。それは孤独なものなんだろうけど、もっと高いところにある。孤高ってやつだ。


「う~ん。うん。そうですね~」


妙な影を感じた。世界と僕が切り離されたような。隔絶された境界を感じた。ずっとこのまま僕は一人孤独で死んでくような。それが当然なんだけど、それってとっても悲しいことだなって。多くの人がそうであるように、やっぱり死ぬのって、悲しいなぁ。


ミルフィーさんにそんな事を思ってるとき、腕を掴まれた。けどミルフィーさんの白くてちっこい手はかなりちっこいので、僕の二の腕をつねるような格好になっている。痛覚機能が解除されるレベル20オーバーなら間違いなく、痛いと思う。


「私のギルドに入りませんか~?」


そんなことを言われた。どうしろって言うんだ。ギルド。いや、でも。


「いいよ、なんか」


「ダメです!そういう感じはよくありません~。一昔前の私みたいに、世界にまるでなにも期待しないようじゃダメなんですよ~!絶対に!」


「そ、そっかな・・・」


ふと。妙な懐かしさを感じた。いつだったか。自分の母親に箸の持ち方を注意された、叱られた時のような

。その叱り方に、妙な母性を感じたのか?僕は。その声質に。


「そうです!」


もしかしたら、もしかしたら僕の変化に気付いてくれたのだろうか。ヤバイ。一人で生きる精神的な男になるって決めた矢先で揺らいじゃってる。


「いい。大丈夫。まだそういうのは決まってないから。でも。気を使ってくれてありがと」


言われただけでも、かなり嬉しかった。


「一度や二度の失敗じゃ、諦めませんよ~。そうですね。一応マッキーの生存確率をあげておくためにレクチャーしてあげましょう~。それなら知っておくべきことが山のようにありますからね~」


「う。な、なんですか。それ」


「クイズ形式にします~。正否に問わず真剣に考えた分だけ、マッキーの今後の生存確率は上昇しますからね~。それではいきますよ~四つの選択肢から選んでください」


「クイズ形式なら分かりやすそうだけど・・・レクチャーって」


四つの選択肢か。真剣になれってか。早くも野々村真になれるチャンスは無くなったわけか。


「いいだろう、やってやる!」


僕は黒柳徹子だ。徹子なんだ。答えようと思えば正解するんだ。パーフェクト賞を目指すんだ。視聴者には海外旅行がプレゼントされるんだ、視聴者は裏切れないんだ。


「ダンジョン踏破中、前方で戦闘応酬が発生してました~。一対一です~。どちらもマッキーよりレベルの高そうなプレイヤーキラーの赤文字です~。マッキーが取るべき行動はどれ?」


いきなりガチで難しそうなのきちゃったよ!!


「1、逃げる~、とりあえずとばっちりは御免です~。死んだら終わり~」


「妥当なとこだよね」


「2、プレイヤーキラーを倒せばお宝とカルマポイントざっくざく~。片方が勝った後に漁夫の利攻撃でズルして楽して頂きかしら~」


「え!?」


「3、僕はヴァミリヲンドラゴン持ってるマッキー様だよ?どけよお前ら。死にたくなかったらな・・・!!ひ、ひぃ~~。さぁどれでしょうか~」


「真剣に考えさせる気まるで無かったよね!?」


「あと55秒です~」


「制限時間あるの!?」


っく。まずい。早速ボッシュートの予感。一回目で黒柳徹子ミスったら今週はもう視聴者プレゼントがしょぼいのになっちゃうよ!


3は無い。3は僕のキャラ的にない。ありえない。やってみたい気もするけど、現実的に無理だろって話。1は超現実的だ。2これはありそう。これが現実的か。でも、安全を最優先とするなら、リスクはとれない。行動の目的が踏破なのだとすると、最も正解に近いのは。


「1だ。死ぬ危険性は冒せない。それに敵がどれだけ強いのかも不明だ」


「・・・・・・・・・・・・」


ミルフィーの顔が、だんだんと迫ってくる。だんだんと。怖い。これマジで無言の圧力が半端じゃない。小学生の僕なら泣いてたレベル。ぬいぐるみが無言で迫ってくるとかどんだけなんだよって思う。


「・・・・・・ファイナルアンサ~?」


そうきたか~~。


「ふぁ、ファイナルアンサー」


「正解です~マッキーの回答でほぼ合ってますね~。重要なのは、敵のレベル、強さの指数がまるで未知ってところです~。一対一に見えたとしても、後から援軍が来たり、マッキーと同様に漁夫の利を狙ってるプレイヤーが存在しているかもしれません~。これは1を取るべきですね~。戦闘はあくまでも最終手段であるべきであって緊急性が然るべきです~」


「フフン」


ちょいドヤ。


「続いて第二問~。戦闘において最も大切なのはどれでしょうか~?1、レベル、2、人数、3、戦う場所、4、気合い、5、持ち物、さぁどれでしょうか~」


4だ。4だろ。4しかないだろ!4だ!4!4~4以外ぜったいありえないだろ!4に決まってるだろ!ほらいけ、それいけ!!


「4は無いかな。1のレベルか2の人数、3の戦う地形だって重要だろうし、4の気合いも体調って意味合いじゃ割と無視できない要素のひとつじゃないかな。5のアイテムだって当然そうだし、このなかで一番ってなると」


レベル、かな。いや、人数も。4対1とか絶対勝てる気しかないし。いや。まてよ。たしか。そう。


「3の戦う場所だ、アウェーでは明らかに不利過ぎるし、待ち伏せからの奇襲攻撃はレベルを凌駕しやすい。なにより、殺されない前提で戦うとするなら、殺されないような場所で、逃げる前提で戦うべきだ」


そうだ。さっきの戦闘の応酬のように。なるほど。だから。か。あの狐のお面も。あの状況で僕がヴァミリヲンドラゴンを召喚しても、逃げ切れたのか。あの距離。だからこそ。僕は脳死プレイングだと言われたのか。


「大正解です~。もしかして月刊の専門紙を読んでますか~」


「そうそう。載ってたんだよ。天候も大切で、雨天状態の雷使いは、格上の複数人数でも無双できるとかね」


「100%勝とうと思って戦うプレイヤーよりも、100%負けないと思って戦うプレイヤーの方が遥かに殺しにくかったりします~。この世界において、殺されない技術は、そのまま強さに直結するんです~。まず敵の息のかかった場所で戦わないこと、これが大切ですね~。うちのメンバーでは調子にのったプレイヤーが殺される事案が発生しましたけどね~。マスターの癖に~」


「マスター殺されちゃったの!?」


「好意で復活させてもらってなんとかなったみたいですが、いいですか~?人間、調子に乗ったら必ず痛い目にあうんですからね~?自信は必要ですけど、アホな子みたいになっちゃダメですよ~」


「あはは・・・」


「でもマッキーが専門紙読んでるなら若干の知識があると思っていいですね~。本当に調子にさえのらなければ、ずっとそのままの状態を維持しつつ、上を目指せるんですからね~。死んだら元も子もありません~」


「わかってるさ」


本当に。十分に。


「わかってなさそーだから言ってあげてるんですよ~」


「よく分かるよね」


「こう見えても、マッキーよりお姉さんですからね~」


「どれくらい?確か社会人なんだよね」


「6つか7つぐらいですね~。社会人ちゃんとやってますからマッキーみたいな若人から悲しい感じで物言いされるとモチベーション下がっちゃうんです~」


「大人だなぁ・・・」


「じゃないとここには居ませんよ~」


「大変だよね、大人って」


「私には大人と子供の線引きなんて曖昧なようにも感じますけどね~。子供でもタバコ吸って働いてる場所もあれば、親の金でまかなって働いたこともない大学院生もいるわけですし~。たまたま。じゃないでしょうか~」


「そんなたまたまに一喜一憂するのもバカらしいって話でオチるんだね」


「困ったことあるなら、相談に乗りますよ?」


「今はまだいいよ。僕達敵同士だし」


「昨日の敵は今日の友って言いますし~」


「もっと仲良くなったらね、改めて考えてみるよ」


「ガードが堅いんですね~マッキーは~」


「殺されたくないからね。逃げるしかないんだ、先ずはね」


「それでは早速ボーエンに戻りますよ~。警戒だけしてください~。私のために~」


「あいよ」


なんだか。妙に打ち解けた気分だな。まるで分かり合えたような、それが氷山の一角なのだとしても、なんだか救われた気分になった。帰り道は、そんなふわふわとした暖かさで満ち足りた気分で帰ることができた。


「ミルフィーさんはどうしてこんなゲームやってるの?立派な社会人なんでしょ?」


「好きな人がこのゲームをやってるからですね~」


一瞬、黒い焔が僕の心を焦がし付けた。


「・・・私レズですから~」


そう言ってニヤリとわざとらしく口角をあげた憎たらしい笑いかたをされた。妙に腹立たしい。それはきっと自分に向けてだ。


「帰りはゴールデンホットドッグとバニラバニラのカッフィークリームを御馳走してあげますからね~」


要らないよ!


「ありがとうございます!」


頭じゃ拒否してても口が勝手に反応を終えていた。しかしそれがいい。


ボーエンの大きな一本木が見えて、水晶の半透明な町並みがオレンジ色に輝いてた。もう夕日は迫って、この時間、闇は進み、やがては黒に染まるなか、美しさに輝いてた。なんだか懐かしいと思ったら、そうだ。夕刻の日。公園からまた一人家へと戻ってく中、僕は一人で、最後の一人で、家に戻る。鍵っ子で。それでもまだ母さんが家に居るときは、珍しくキッチンに立っていたり。本当に幼い頃は、家にちゃんと居てくれた。なんでこんなこと考えてんだろうか。お姉さんだと言われて、僕は、やはり。ミルフィーさんに、母性を感じている。のか。不思議な暖かさの正体か。無意識に。僕の空っぽで空白を埋めるべき場所は、そんなむなしい場所であって。それがなんだか悔しくって。涙すらでてくる始末だ。恥ずかしいから鼻水をすすって全部飲み込んだ。


「お。いたいた。ウィーッス。やっぱり目立つからな。トワイライトのミルフィー嬢ちゃんにシノノメマツキ君か。俺はジルクトアの門番なんだけど。当主がお二人に用件があってな。シークレット賞を引き当てたラッキーボーイだろ?これ。預かってるからさ。とりあえず開けてくれよ。封筒な。要警戒だろ?門の中に入ってな」


「なんですかー?えーっと。うわ。これ十万円分の為替小切手ですね~」


「僕のなんかミルフィーさんのより0が一個多いんですけど・・・」


「返しにいくなら案内するよう言われてる。お礼をするのに道案内も頼まれてる。現実で用事があるなら現実に戻ってからでも結構だ。ここで用件を済ませたいってのなら48時間俺がここで待つことになってるんだけど、早めに帰って子供の顔を見てぇな~って思いつつ待ってるが、よ。どーするよ?俺に戻すのは無しだぜ。直接旦那様に手渡しで返すなり礼なり言ってくれよ」


銀色の甲冑を着込んで、中世の騎士のようにフルフェイスで顔まで見えない。一体・・・どういうことだ?


「実は近々発表するけどボーエンの地下拡張工事中にプロクラスのダンジョンを発掘しちまってな。未踏未発見、それも完全な私有地でな。非公開でのメンバーを募ってる。あー。一応ここからは独り言な。世界を塗り替える終末レベルのアイテム発生でここ24時間以降ホワイトハウスのレベル5の電話が鳴りっぱなしだ。三日以内に評議会で選択される。破壊か保護かそれ以外は期待はできない。マトモに死にたかったら国務長官に会うべきだ。彼はメンバーの一人でもあるし、お前ら寄りだからな。既に破壊工作を始めてる一派も三つある。残された時間はあまりないぞ。死ぬか進むか、今決めろ」

「・・・疲れたからぐっすり眠ってバッチリ目覚めた後、とかじゃダメですか・・・?」


「特殊部隊の作戦の一つ、幾つもある事例の一つはよく使われるパターンがある。・・・使用道具は枕だ」


「ヒぇ」

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