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第十四話 ハロー、ニューワールド

世界の皆さん、我々は平和になりました!犯罪率の減少・・・!RealにおけるVR世界の通貨参入による空前のバブル・・・!ストレス社会からの脱却、究極の自由・・・!我々はもはや自由の定義を社会的、金銭的、或いは移動時間による制約を根本から否定し、今正に歴史は塗り替えられ偉大なる進化の突端を目撃し、そしてそれらを感じる事ができるのです・・・!全ては、Realによるものなのです・・・!


今はあなたは体験するでしょう・・・!自由の持つ偉大なる自由の本来の意味を・・・!人生を・・・!現実を・・・!


ここでは全てが自由なのです!美味しい物も、愛すべきパートナーも!心ときめくお気に入りの空間も!どう過ごすべきか!迷う必要がありますでしょうか?私ですか?アメリカの国務長官として激務をこなす日々の中、最も今熱い時間を過ごしていますよ、妻には内緒でね・・・!


フリーダム。この世界にはその全てがあります。そしてあなたにはその役割が存在しています。そしてあなたは世界の中心にいます。Real。世界の進化の先へ、共に目指しましょう・・・!続きはRealで・・・!


第十四話 ハロー、ニューワールド


佐伯さんの思いを振りきるように僕はRealへダイヴした。

血の臭いが取れないからって一緒に浴室へ入るのはマズかったかもしれない。そうじゃなくても、かなり危うい展開だった。次も生き残れる保証はない。でも、僕はそれが必要とされるなら、やらなきゃいけないこともある。今回はきっとそんな稀有な事柄だった。


正直、今の頭は芯の方から熱を帯びててスパークしてるように目覚めている。現実で起きた出来事を、真っ正面から捉えていて、それでいて、僕は正しいという道を進んでる。他人がどうこうじゃない。僕の人生で誰かが介入し破壊されることなんてまるでない。それが悪なら悪でもいい。こんな世界に、刹那的快楽を追い求めてる人間に、正しいことと間違ってることを教えて欲しくはない。・・・それが親ならきっと意味は違ってくるんだろうけど。


Realでは、もうひとつの世界で生きられる。欲望と混沌の渦に、それから夥しい光。ドキドキしたり、ワクワクしたり、心臓はドクドクと脈打ってる。ハロー、ニューワールド。夢と絶望の世界へ、僕はダイヴする。別に僕に限った話じゃない。男なら、誰でもそうだろ。笑っちゃうぐらい単純な話、目立ちたいものなんだ。夢じゃない、星になりたいんだ。


第十五話 ハロー、ニューワールド


久々に接続してみると、ベッドで寝ていた。木製で作られた部屋の一室には、クリスタル細工の工芸品が飾られている。暖炉も無いし、ベッドとクリスチャンラッセン風のイルカの絵画と、・・・いや、棚には工芸品、といっていいのだろうか、変なアーティスティックな模造品だろうか。単純にヘンテコな綺麗な水晶が飾られている。


そういえば、パーティの渦中に放り込まれて、バッドトリップした挙げ句に昏倒した気がする。ヤバイドラッグなのだろうか。ここじゃコカイン以上の快楽が得られるオクスリもあるらしいし。___注意しないといけないだろう。


「誰も居ないか・・・うん?」


枕元に手紙置かれていた。


二階で待ってるよ。


それだけ。その一文がなんとも奇妙に思えた。今時手紙だなんて。あのお爺ちゃんだろう。おもしろいジイチャンだ。


「ま。行ってみるか」


特に何も考えずにドアを開いた。驚いた。外はガラス細工の建物だった。なんともいえない圧迫感を体感しつつ、上の階段を見つけて上った。クリスタルのせいか、目がやけにちかちかして光ってる。


「体内、体外共に、マナと呼ばれる魔力が存在している。それを使いこなせるのが、魔術師と呼ばれる存在だ。上手に扱うと、ダイエット効果に長寿効果、心身の強化の他に、特殊な、超常現象も故意に引き起こせる。君達が先に見た事例もそうだが、これを上手に扱う事こそ、人生を強い意思で歩むという事につながるわけだ」


5、6人の大人数の大人が、ジイチャンを中心に車座に囲んで何やら講義めいたものをやっていた。


「Realの魔術道かな・・・?邪魔しちゃ悪いし、聞いてみようかな」


僕も車座に座ってみた。皆結構熱心に聞いている。おっかない事に、腰に鉈やら刀やら弓やらまで引き下げている。しかも頭は狼もいるし、顔中にペイントをはっつけてるおっかない人までいた。


「魔力を操作する一例を見せたが、先のよう、対戦闘を主眼に置いたものではない超常的なものをご覧に入れよう」


デイヴィーじいちゃんが手のひらを上に向けると、そこから炎が勢いよく吹き出した。


「すげぇな・・・!」


「ありえねぇ!」


そういう声があがってどよめいてる。


「現実世界よりも、ここはマナが特別濃い。だからこの威力に上がったが、今の君達では精々ヤカンに湯を沸かす程度になるだろう。しかしそれは問題じゃない。Real世界において、レベル制度と平行して使用することがどれほど脅威になるか想像してほしい。・・・やぁマッキー。君も講義に参加するかね?」


白のローブを着ていて、なんだかインドチックな感じだ。講義か。どうしようか。そもそも何になりたいとか考えてもいなかったし。ウィザード系統には憧れてたけど、戦士系統も結構気になるし、今じゃヴァミリヲンドラゴンを持ってるからモンスターブリーダー系統も必須かもしれない。


「個人的には君とは対等な立場でいたいものだが」


はっとした。この一言が、なんだか僕のあってないような自尊心を刺激した。


「ちょっと食事でも取ってきます」


「それがいい」


なぜかしらちょっとムっとした。偉そうにされたのがなんだかシャクに触ったのかもしれない。年金暮らしはいいよね。なんて思いながら、妙に綺麗なフロアを歩いて滑りそうな勢いのピカピカ階段を降りてメインストリートに顔を出した。


クリスタルの石畳を歩きながら、点々と輝きを追うように、妙な懐かしさを帯びた西洋中世の宿場街をほとほと歩く。空は鉛色で、街の中心には怖いぐらい巨大な大樹が堂々と存在している。あれが世界木だっていわれれば納得するほどの大きさは、ゲームならではだろう。道行く人々のキミョウキテレツ摩訶不思議なファッションにも慣れてきたところ、階段を降りると広場にでた。


「なんか、いい感じだな」


そして椅子とテーブルが並べられ、優雅にお茶をしているPC達。楽しそうにお喋りしてたり、本を読んでたり、なんか勉強してたり。現実のスタバでも同じ光景をよくよくみている。ゲームの中でもやってんのかって思っちゃう。だからこそ、なのかもしれないけど。いかに自由度が青天井でも、プレイしてみる人間はやっぱり変わらないものかもしれない。


なんて事を考えてると。


「こんなところにいたんですか~」


聞き覚えのある間延びした声の方を向くと、居た。目線をかなり下げると、かなりでっかいぬいぐるみみたいな感じのアバターが。ミルフィーだったっけかな。このプレイヤーの名前。ヴァミリヲンドラゴンを狙ってるかわいいとんでもないPC。


「あ。ああ」


一瞬ドキリとした。まるで何年も会ってないよう人に、町中で急に声をかけられたような感じがした。まるで懐かしい感じだ。


「息抜きでね」


「笑えない冗談いいますね~」


どういう冗談に聞こえたのか、一瞬考えたけど、よくわからない。


「ここのお店はかなり高いんでオススメできませんよ~」


えっ?そうなのかな?


「どれくらい高いの?」


「日本のマック感覚で言うとですね~Realは物価が大体三倍ぐらいしちゃいますけどここはその更に十倍ぐらいですね~」


「えっ」


「一杯五百円のジュースがここでは千五百円ぐらいで更に十倍で一万五千円ぐらいですよ~」



「高いよっ!」


思わず頓狂な声をあげてしまう。


「ここお店はこのタウンを牛耳ってるオードナーファミリーの直営店ですからね~一見さんお断りでたまに好意でつくってもらえる星四のお店なんですよ~」


「へ、へぇ~。牛耳ってるってなんかマフィアみたいな言い方だね」


「実際に牛耳ってるんですよ~本当に~。じゃないとここまで町並みの外観が保たれませんよ~」


外観の町並み。


「そうなの?」


「ですよ~。巨大歓楽街とか行くとマックとかナイキとかグッチとかがひしめきあってますからね~。一応初期の村は自治厨連中のお偉いさんが取り決めで変わらないって事にしてるんですけどね~。あっ。そ~ですね~。とりあえず奢りますから座ってみましょうか~」


「い、いいよ!お高いんでしょう?」


「ヴァミリヲンドラゴン持ってるマッキーにとって問題じゃありませんよ~」


「それとこれとは話が違うよ!それこそ冗談の類いだよ!」


「ちなみに現実よりも味覚は鋭敏化されていて涙が出たり声が出なくなったりでもうホントにハッピーになっちゃいますから~」


「どんな料理なんですか!」


キャラに現実を忘れてしまったけど、確かミルフィーは社会人だった。僕よりも年上で敬語を忘れてしまっていたに今ようやく気づいてしまった。


「ためしにあそこの薬屋でアップリティーでも飲んでみましょうか~」


「えっ」


そういうと僕の返事も待たずにとことこと広場の先の脇、路地裏に入ると、二つのティーカップを持って戻ってきた。


「どうぞ~、百聞は一見にっていいますから~」


うっ。奢られてしまった。その事に対して申し訳なさが立つのが僕の思考で、次に口に出すのはありがとうだった。


「ありがと、それじゃご遠慮無く頂きます・・・・・・うわ」


ヤバイ。一口飲んだだけで、ピーチパーティー。擬人化した果物と野菜達が裸でキャンプファイアーしてた。これドラッグなんじゃないかってぐらいヤバイ。そもそも、こんなフルーティーな飲み物って存在するのか。夢と幻げ織り成す白昼夢レベルで、ウマイ。


「・・・ウマイ」


そして。


「・・・ありえない」


旨さ。


「現実とはまるで異なるRealとの境界を一番に実感してもらえるのが、この料理の美味しさなんですよ~」


そう言って、一口舌で味わってとってもハッピーになった僕を尻目に、ミルフィーは一気に一口で飲み干した。


「バフがかっちゃいますね~ちなみに言っておきますけど~」


「バフですか?」


「補助効果って意味のネトゲ用語ですね~。感覚が研ぎ澄まされたり、冒険には必須なのですよ~」


「そうなんだ・・・」


「それにしても、ウマイよ・・・」


Realヤバイよ、マサルさん。すごいよ、ほんとに。


「ちなみに、飲み終わった後のコップはこうするんですよ~」


そう言ってミルフィーはコップを手元から落っことした。地面に落下すると、綺麗で小さな火花をあげて消えていった。エコだ。


「環境に良さそうだね・・・すごい」


「これも魔力で作られた形成物ですからね~。ちなみにこの町ボーエンでは食器全てが魔力によって作られた工芸品、いわゆるアーティファクトが義務付けられてますね~」


「アーティファクト、へぇ~」


「この町のオーナーファミリーの実質トップがトミー国務長官なんですよ~。ちなみにマッキーが泥酔した挙げ句昏倒しちゃったパーティーも主催はファミリー側だったみたいですよ~」


「へ、へぇ・・・」


あまり思い出したくない記憶だ。


「というわけで~レベル上げしちゃいましょうか~」


「話題が変わるの早いですよ!」


「さっさとマッキーにはアドバンスを卒業して痛い目みてもらわらないと困ります~」


「ストレート過ぎるよ!」


僕が突っ込むと同時に、お洒落で超高級カフェのお店から大きな鈍い音が響いた。


「えっ」


目線の先には、大きな足のついた象のようなデカイ獣と同じくらいの大きさの甲羅があった。二つはカフェの店の上空で睨み合ってる。


「あれは召喚獣ですね~。現在Realで確認されている稀有な存在で象みたいなのがFPSプロゲーマーのギルド、フォートナイツのニンジャ・ウルトラでガメラみたいな亀をモチーフにした巨大な盾は偉大なるギルドの一つのブリテン・ブリリアントの召喚獣ですね~」


「けっこースゴいね」


ヴァミリヲンドラゴンほどじゃないけど。


「どっちもヴァミリヲンドラゴンをお持ちのマッキーにとって遥かに格下でしょうけど~我々一般キャラクターにとって非常に脅威をもたらす現在Realにおける最高戦力ですね~。例外として世界唯一のドラゴンライダー」


目の前が急に暗くなった。


「あれです~。ラフィア・ハートネット。今じゃ世界唯一じゃなくなりましたけど、世界最強の自治厨ですね~。いずれも関わるとロクでもない目に合うんでさっさとレベル上げしてドラゴン私に奪われちゃってください~」


ドラゴン一人のカッコいいPCをのっけて世界木を中心にボーエンを旋回している。


「あ、ああ・・・」


市街地で召喚獣ぶっ放すなんてどんだけだよって思っちゃう。なんかとんでもない世界にやってきたっていう感覚がひしひしと実感してくる。


「意見がなにやら割れちゃってるみたいですね~ヴィップ特別の部屋からですよ~」


生唾を飲む。


「まぁ僕のヴァミリヲンドラゴンなら皆まとめて蹴散らせちゃうけどね」


憧れじゃない。夢でもない。既に僕は星になった。スーパースターになるためには、後は光輝くだけなんだ。


「軽口言いますね~」


「彼らの時代は終わったよ。今はもう僕の時代さ」


デカイ召喚獣を見上げながらも、言ってやる。ヴァミリヲンドラゴンを持ってるんだ。お前達がいかに力という力を顕在させて畏怖を与えようとも、もうそうはいかない。これからは、もう通用しない。


「それも大体一瞬ちょっとぐらいで終わっちゃうと思いますけどね~。油売ってないでさっさとレベル上げいきますよ~」


格好よくキメたつもりが、ミルフィーにもってかれた。そうしてミルフィーの言葉を追っかけるようにレベル上げに向かった。僕の僕による僕だけのRealライフも悪くない、けど、誰かに付き従って導かれるように手を引かれるこの感覚、ネトゲなんだろうけど悪くない。だからこその楽しさがここにあった。この感覚は大切にしたい。僕がミルフィーに殺されるまでは。




「次やったらどうなるか、二人とも理解してる?」

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