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第十話 暴走する少年

人生に選択肢が無い人間も存在する。だから運命を信じてるって人も存在する。人間に自由意志は無いと主張する学者も存在してる。僕にすら選択肢は無いし、運命は決まってるって誰か決めるのか?僕にすら自由意志は無いんだって決めつけるのか。冗談じゃない。僕は僕の勝ち取ったもの、それに値札をつけるのは僕自身だ。誰だってそうなんだ。でも僕の場合それはちょっと違う。僕の値札には、流行や時代は無関係。僕の魂は、いつだってプライスレスで特別なんだ。わかってるさ。でも言わせて欲しい。僕のはとびっきりのスペシャルなんだ。―――それでも値札が付いてるのは、僕は、人は、とびっきりの残虐さを秘めてるせいだろう。僕もまた。誰かとやはり一緒の、人間なんだ。



第十話 暴走する少年



「ぶっちゃけさ」


龍宮さんが切り出した。渡り廊下を横切って、隣のクラスまで向かう道中。女子と話しながら歩いてる昼下がり、若干はドキドキが収まったものの、正直指はまだ震えていた。


「あっさいレンチューだなーとか思ってるでしょ?」


怖いぐらいの目線で、そんな事を言われた。ヴァミリヲンドラゴン目当てで擦り寄ってくるのは滑稽だと思うよ。笑っちゃうぐらい。でも。


「それでも、それを言っちゃうんですね、龍宮さん」


「まーね。でも、それはそれ」


「他人の意見は助かりますよ。正直持て余してるし、それに」


女の子にキャーキャー騒がれるのって、滅茶苦茶心地イイ。


「それでも、ちゃんとこうやって切り出してるじゃないですか」


「マッキーってさ闇の中を歩いてるよーだけど。本当の闇は、怖いよ。とっても」


「…」


返せない。闇の中。闇。暗黒。


「マッキーみたいな子ってたまに居るよね。クラスに数人。孤高が似合ってる人って。でもね。それは闇とはまるで違う。本当の闇ってのはね」


「僕を分かったように言わない……で」


雰囲気が変わった。どうして?もしかして、僕の聞きたかった事、今一番知りたかった事への前兆だろうか。


「佐伯さんの噂と関係ある?」


「東雲君、人の気持ちにはケッコー敏感なんだ。やっぱりっていうかね。そ。それの前フリ。心の準備をさせてあげてるんだよ。――トモダチだから」


トモダチときたか。どこかぎこちないその発音は、僕の知るそれとは違った印象を感じる。


「さっきさ。さやぽんが言ったよね。佐伯さん見かけたとき、思わず名前言ったの覚えてる?」


「覚えてるよ。仲いいの?」


「茶道部とギャルじゃ絶対合わないとか思うだろうけど、実際は違うもの。あの二人幼馴染なんだ。だから知ってる事もある。そうして、心配してることもね」


「前フリはいいからさ、どういう噂か教えてよ」


「今日ブキチョーでさ。あ、歌舞伎町の事ね」


「知ってるよそれぐらい」


以前僕の入ってるサークルというか同好会だかで、何回も行ってる。ゴジラタワーには映画館もあるし、お膝元には、新宿ロフトだってある。怪しげなサブカル満載のイベントバーだ。そして、日本一の風俗街。呪われた魂が集う墓地だって、誰かが言ってた。


「そこのクラブで、今日は貸切パーティやるんだって。ま。何をどうやるのかって、マッキーみたいな子にはわかんないかな」


「…」


沈黙で続きを促す。その間も僕らは歩く。歩き続ける。下駄箱を、廊下を、階段を。ずっと歩き続ける。


「ランチキ騒動やるみたい。お笑い芸人も加えて楽しい楽しいオクスリパーティ」


「…」


「そのパーティに佐伯さん行くみたい。うちの学校の子何人か連れて」


一瞬、闇に包まれた気がした。腐臭と爛れる蒸し暑さ、それに眩暈、目の前にあるぽっかりと二つ穴が開いた髑髏が、骨だけの手のひらで僕の頭をなでた。


「まーもう、まわされてるかもしれないけどね」


その髑髏が僕の心臓を握り潰した。


「さやぽんってさ。あーなる前って、佐伯さんと同じキャラだったんだよね。けどさ。悪い男にひっかかってさ、無理くり仕事やらされて。だからさ。幼馴染の事はめっぽう気にかけてるんだ。あの子、優しい子だから」


「…」


「マッキーも、そーゆー顔するんだ」


良くない空気を吸った気分だ。思わず咳き込む。足がふらつく。そんな日常なんて。あったのか。そういうものが。存在していたのか。この場所で。学校で。僕の生活の一部である授業風景に、溶け込んでいたのか。―――僕が、まるで見ようとしていなかったもの。それ自体。


「ちなみにこれは本当。ガチでね。ささぽんの友人、っていって二十歳越えのバイト仲間なんだけどさ。彼女って高級コンパニオンもやっててさ。話が流れてきたんだ。ここまで。今時怖いねー。噂ってやつは。もうマッキーまで届いちゃった」


「そういう言い方ないでしょ、キレそうだよ」


全てにおいてすら、今ほど怒ってない。


「なんでこんな話を歩きながら言ってるか、分かる?ただの友達同士でこれからずっと使い古されてくネタの一部がどーしてマッキーに届いたか。分かる?」


この話を、このタイミングで、今。


「だからこそだ。ありがと。すべき事が分かった」


鈴木野。鈴木野だ。


「まず、鈴木野だ。アイツに聞かなきゃ始まらない…!」


「かーれーはっ学食じゃんよ?いつもどーりに。ってかクラスこっちだけど?おーい、放課後一緒に遊ぶんじゃなかったかー?」


あまりに怒ってるせいで、腕の血管が膨れて爆発しそうだ。もう半ばキレてるかもしれない。


「どーした?窓から学食のほー見ちゃって。行きたい?でもダ~~メ」


そう言って沸騰しかかった僕の身体ごと丸ごと引っ張り、僕は盛大にバランスを崩して、見事に僕の頭はAとかBじゃないっぽい二つある女性ならではの不思議器官に突っ込んだ。


「約束は約束。守らないと、だ。いかに、力を持っててもマッキー君は末樹君なわけだ。分を知りなよ。これもうガキの問題じゃないからね。マッキーはマッキーのまま、これからもそうであり続けてもらわないと困っちゃうよ」


耳の傍でそんな事を言われた。飛散した唾液の一部が耳奥までぶっ飛んで変なじめじめとした嫌らしい感覚を僕に与え続ける。


「おーーっと」


そう言って僕の肩へ力を入れて押し戻した。


「往来の廊下じゃヤバイとこだったね。見られでもしたら大変なことになっちゃうね。マッキーもそこんとこ分かってる?アッは」


なんなんだこの人は。なんなんだコイツは。いや、今すべき事は。


「マッキーには関係無い話だったかな?」


「無くは無い」


「どーしてよ?」


「どうしてって」


そりゃ、カワイイし。クラスになった時からちょっとカワイイなって思ってたから。多分彼女になってくれたら死ぬまでハッピーライフが続くだろう。残業二時間コースのサラリーマンでも、炭鉱夫でもやってやるよ。男なら、誰でもそんなときめきを覚えるものだろう。僕の場合は佐伯さんだった。でも、それはあくまでも。そう、多くの男がそうであるように、それは夢でしかないものだ。現実になり得ることだなんてあるはずはない。限られたイケメンが市場を独占してるドラマの世界なだけなのだ。僕には手が届く世界じゃない。―――そう信じてた。今の今まで。


「ほうっとけないだろ」


「だよねー。わかるわかるー。んじゃ行ってくれば?」


「ありがと」


隣の教室で龍宮さんと分かれて、向かうは学食、鈴木野だ。

足は自然と早くなり、鼓動が高まる。戦闘を意識する。狩猟民族って、もしかしてこんな感じなのだろうか。僕はこれまで人生で体験したことのないモードに入った。それを強く実感した。気がつけば当然、目の前で駄弁ってる鈴木野グループ五名が目の前に見えてきた。


「おい。鈴木野」


「お。東雲。んだよ」


東雲じゃないグループのお友達は僕を軽く睨んでる。あまり友好的なグループじゃないようだ。


「ちょっといいかな、あっちで話そう」


「あ?っち」


舌打ちして鈴木野は立ち上がると、学食前のベンチを指差した。とても嫌そうな顔だ。僕が頷くと歩き出した。


「んだよ。ってかお前ヴァミリヲンドラゴン当てて女子にワーキャーされてたじゃね?」


「だから?質問があるんだ」


学食の外扉横のベンチに並んで座った。蝉の音がじりじりと響く。不思議と暑さは感じない。けど、脳が沸騰しそうだった。こんな感情の名前すら僕はまだ知らない。


「今日歌舞伎町でパーティやるらしいな」


「おい。おいって。それこんな場所で言うなってぇ」


僕の口を塞ぎにきた。湿った鈴木野の手が不快だ。すぐに払いのける。きょろきょろして周りの様子を伺う鈴木野は、まるで万引きを今からやるぞと意気込む小学生のようだった。多分、例えるならそんな感じだろう。万引きはやったこともないしやるつもりもないけど、鈴木野の異常な態度は目に見えて明らかだった。


「マジで、それどっか聞いた?」


本気で凄んで僕に言ってきた。


「そうじゃないだろ。な。クラスの女子も連れてくんだって?」


「オイそれマジ止めろよ!!!」


叫ぶような本気の大声で叫んだ鈴木野の顔に、驚いた。


「ここじゃヤバイ。校門の外で話そう」


自分の出した大声でこちらを見ている人へ一瞥を加え、鈴木野は立ち上がり、校門へと真っ直ぐ向かう。どこか奇妙だった。違和感を感じた。そうだ。不思議な感じがしてた。今分かった。鈴木野は、浮かれたり、ワクワクしてたり、楽しそうにしてたり、そんな顔をしていなかったのだ。もっと言えば、深刻そうな顔。更に言えば、悲痛そうな顔つき。


「んで、なんだよ。お前も混ざりたいってワケ?」


学校の外の校門扉。なるほど。ここじゃ完ぺきに死角なわけだ。本来ここは通常の学生が居ていい場所ですらない。


「違う。……どーゆーわけだ。どういう事でそうなったのか。説明してよ」


「んじゃどーしてお前その話知ってんだっつーの!!マジやべーんだよ、俺もお前も!!わかってんのかよ!!」


壁ドンとはこの事だろうと思う。目でけん制され鈴木野に壁ドンをされつつも、低いドスの利いた声で威嚇してきた。


「なぁオイ!!分かってんのかよ!!!!それ誰かに喋ってみろよ!マジ終わるかんな!!」


不思議と、動揺やひるんだりはしなかった。むしろ落ち着いてる。何故だろうか。以前の僕なら間違いなくひるんでた。目を逸らしてた。不思議と目が離せない。


「校長に言う。なんなら警察にも話そうか?僕が納得するように話せよ。だったら僕の心の中だけにしまっとく。秘密だ。漏れない。だから話せよ」


「ふっざけんなよ、マジざけんなよ…話せるかよ…」


「言えよ。お前の顔さ。さっきから、喋りたくってしょうがないような顔してるよ」


「うっせーなぁッ!!」


壁ドンした左手が、握りこぶしになった。


「やってみろよ。騒ぎになるよ」


「くそったれが!!なぁオイまじやべーんだよ。俺とかお前とか学校とかのレベルじゃねーんだよ、マジわかっか?それ言ったらうちがやべーんだよッ!!妹もな……わかっかかよ!」


「お前の事情なんて知らない。言うか、言わないか。言ったら、それは秘密だ。絶対に誰にも言わない。約束する。いいか。約束だ。お前もサークルに入ってただろ。誓うよ。僕の大好きな鳳凰院愛に誓う」


「ッッッ!?くそったれ!そーくるかよ、マジでぇ……。くそ!!くそくそくそ!!くそったれが!ああいい。ああわかったよ。くそ!!パーティがあるんだよ。俺らのグループのな。それも上の開くグループの主宰だよ。ラッキースタークラブ丸々一夜貸しきってな。知ってっか?俺が何に最近やってっかってよ」


悲痛な顔で、更に言葉を続ける。顔が近いし唾も飛んでくるが我慢する。


「プッシュ、プッシャーだよ、小遣い稼ぎでやってた。この学校のぼんぼんの受験生相手にな。そんな目でみるんじゃねーよ!!しょうがねぇだろ……お前まだ童貞だろ?一発二発やっちまったら変わっちまうよ!それも極上の………いや、オマエは変わらねーか……んでよ。バックにいるヤクザがよ、呼んで来いって言われたんだよ。JKだよ!JK!俺の彼女も……佐伯もな」


僕の顔面はそこで崩壊しただろう。とんでもない変顔を晒した地球上のチャンピオンの自信はある。何言ってるか信じられない。ありえない。それでも鈴木野は言葉を続ける。


「んだよ。佐伯とはRealで仲良くなってさ。んでよ。一度ヘマやった時、チームの幹部にケータイを押さえられたんだよ。その時佐伯の顔も見られてさ。連れて来いって。あいつらマジでヤバイんだよ。じゃねーと妹さらうぞって笑ってたけど、連中暇つぶしに女さらうヤツらだ、マジイカれてる」


オマエもな。みたいな目で先を続けるように促す。目のまぶたがピクピクと動いてる。暴力的な気分になってくる。胸糞悪い話だ。最悪の特上、日本東京は今最悪の高校生のイベントってやつじゃないかだろうか。


「んじゃ相談すりゃ良かったじゃねーか!!」


「無理だろ!!!………軽い気持ちでよ。アウトロー感覚でやってたら、もう膝まで浸かってて……さ。それにもう俺は仲良くこよしのグループに入ってない。それが俺の決めた生き方だってことだろ!俺の人生なんだよ!!!わかるか?童貞にはわかんねーよ!!」


「…わかるよ。続けろよ」


「そういうところがきにくわねーんだよ!!東雲ぇ!!くそったれが!ああおい、えっとああ、そう、そうだ。それでよ、生け贄とか言うらしーんだよ。若い奴が己の好きな奴を持ってきて生け贄にさせちまうんだ。連中が言うには、良心の火葬っていう儀式、俺の場合は付き合ってる佐伯になった。じゃないと妹も、家も燃やされる。俺は二度手伝った事があるからわかんだ」


「なにやってんだよ、それ」


「うっせーなぁ!!わかってんだよ!!!それがチームのきまり、ルールなんだ。そーやって団結力を高めるってな」


「んで、お前佐伯さんとか学校のやつもつれてくのかよ」


「ああ、もう!わかってるさ。一晩ぐらいいいだろ!!人生かかってんだよこっちは!!」


「お前がやってるのは、人の人生を……」


壊してる。犯罪だ。お前は犯罪者なんだよ!って言えない。


「わかってるよ、わかってる、しょうがないじゃないかしょうがねーよ…」


「逆の立場なら、鈴木野と同じような事をしてたかもしれない。もしもの世界があるとしたら、それはキリなんて無い」


「なんとでも言えよ………相手はヤクザだ。シャブも女も売ってる。本物だ。人情なんかありえない。わかってる、お前よりもよほど分かってる。このこと内緒にしとけよ。一番大好きな誓いは絶対だ。お前だから話したんだからな」


そう言って、背を向ける。


「おい、佐伯さん騙して、今夜つれてくのか?」


「騙す?騙してなんかねーよ。ワケ言ったら納得してくれたよ。不思議だよな。女って。よくわかんねーよ」


多分、今僕は主人公らしい言葉を言うべきなんだろうと思う。絶対に。


「四人だ、うち二人は金で買ったけど。正行っていんだけど、そいつの彼女も。俺の兄貴分が、佐伯の相手をするんだ。その後に俺が入れたら血で真の兄弟になれるってな」


「…」


「おい、東雲、やめろ。両手で俺の肩おもいっきり掴むの止めろよ。ここじゃ目立つ、だから止めろよ」


「…」


「お前そーゆー顔…やっぱすんだな。俺も昨日、自分の部屋でずっとそんな顔してた。なぁ。東雲」


そして悲しい顔で言った。


「カッコイイって思ってたもんがさ。実際はずぶずぶに腐った臭いもんだってわかってさ、大人になってくのかなぁって思うんだ。俺らだってさ。初めはAV一つ観るのだって、世界が終わるんじゃないかってぐらいドキドキしたよな。俺の時は小五だった。今さ。もう罪悪感もねぇ。どんな人間が関わって、どんな人生生きてきて、こんなロクデモナイディスクを作ったんだろうだなんては思わない。なぁそうだろ?そうしてずっと過激になる一方だ。俺が童貞を捨てた……いや、失った時さ。正直変な気持ちだったよ。そこに罪悪感だってあった。けどさ。今はもう無いんだ。これはヤク売った時や、ヤバイ仕事を手伝ってる時だってそうだった。―――みんな慣れてくんだよ。それが大人になるって事だって分かったんだ」


「…」


「そんな顔すんなよ、東雲。お前には悪意が足りねーよ、もっと怒ったりさ、非難したりしろよ。じゃないと、俺が報われないだろ?」


「…」


「一晩だ。たった12時間もあればそれだけで終わる。それは永遠にも思える12時間になるだろうって思う。けどな、それでもたった一晩なんだ。これまでの事を考えたら、そう大したことじゃないさ。東雲、お前にとってもな。オッ被らせて悪かったな」



鈴木野が去った後も、しばらくそこに居た。じりじりと蝉の音が聞こえる。クーラーの効いた部屋から出たせいか、額から汗が流れ落ちている。ようやく少しだけ暑いと感じた。


きっと僕は、いや誰もが無力なのだろう。大きな力に、強い力に、世界平和が実現して、戦争の無い世界が実現しても、こうやって弱者はただひたすらに強者に食われる。食われ続けてく。終わることは無い。死ぬまでそうだろう。それが世界だろう。これが社会ってやつだ。今日に限った事じゃない。今に限った事じゃない。ずっとそうなのだろう。僕には分かる。これまでがそうだったのだから。だからこれからもずっとそうなのだろう。


初めはちょっとカッコ良くて悪いことをやってみようと思っていたに違いない。それが捩れて拗れてこういう結果に行き着いた。原因、因果は些細なことだった。それが引き金で、この結果に繋がった。未来をそれからも紡がれてくのだろう。終わることも無く死ぬまで。


僕に何が出来るって言うんだ。警察に言う?場所や日時が変わるだけだ。それにおそらく何も変わらない、僕は言えない。誰かにこの話は漏らせないという前提になるわけだ。


「死ねよ」


僕自身に。僕自身の良心に。僕自身のルールに。それを殺さない限りには、生き残れやしない。

生き残りたかったら、ルールを破るべきだ。僕は誰かに相談するだろう。何故なら。決まってる。もちろんだ。


「…」


しかし。どうすればいい?何ができるかじゃない。どうやればいいか。手段の問題だ。このどす黒い胸糞悪い最悪を破壊尽くすにはどうすればいい?


「…」


悪には、悪を。僕の知る限り、悪を熟知をしている人物は、一人しかいない。



多分、僕にはこの問題を処理できる能力があるだろうと思う。不思議と僕の脳髄と魂は、思考に勇気を与えてくれる。僕にできない事は無い。そう教えてくれている。しかし。それでも。


例え血で手が汚れるような事になったとしても、何もしないという最悪の選択よりはよっぽどマシだ。想定できる状況ですら、最悪のシナリオですら、僕は超えられる。怒りが、僕を立ち止まらせない。


僕は生まれて初めて、世界を壊したい気持ちになった。

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