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1,5―閑話:ショッピング&マッサージ

まさかの閑話です。二章が始まってしまった後に出来たのですが、こうして間に挟むことにしました。

これはストーリー展開にはまったく関係ない遊びの話です。今までのストーリーに意味あんのかってツッコまれると心苦しい所がありますけれども。

ではでは、お暇な方はお楽しみ下さい。

 皆さん、私の隣には女性が居る。さぁて、誰でしょうか? うーん、分からないかな。じゃあ、ちょっとヒントだよっ。それはね、背が低い女の子なんだ。カレンかな? うーん、残念ながら違うんだなぁ。

 ヒナだよドチクショウ。

 子供向け番組みたいな実況を心の中で唱えつつ、子供向け番組みたいな乱雑な風景を眺める。我らが居住区『百花繚乱ひゃっかりょうらん商店街』は今、ちょっとしたお祭状態なのだ。ちなみに商店街の名前は気にしてはいけない、旅行者なら一度は驚く。

 

「くふふふ、久々に二人きりね、アキラ」


「ヒナと二人でも、嬉しくとも何ともないけどねー」


 隣を歩くヒナが薄く笑う。計画通りだぜククク、ではなくちょっとした微笑だ。

 ちなみにお祭とは、『露天商開放』の日だ。普段は商店街で営業していいのはきちんと店を構えた、商店街に貢献している店だけなのだが、一ヶ月に一度だけは他の地区で営業している露天商たちもここに集まる事になっている。理由はと言えば「お互いの相乗効果による経済の発展」やら「両者の結び付きを強くすることで地域貢献の促進」やら、つまりは仲良く稼ぎましょうと言うことである。

 今日は幸い日曜日(というか開放の日は日曜日に合わせられるのだが)、母さんもカレンもお店に追われていて、父さんも裏方でびしばし働かされている。私はというと、そんな事態を予測して平日の内に店番を手伝っていた。よって免除と言うわけだ。

 しかし幸せは長く続かないものである。


「で、ヒナ、どうして私を連れ出したの……?」


 そう、八時半まで熟睡して、起床後優雅にトーストを齧りながら「あー、今日は一日中寝るかなぁー」って気分で居たら、いきなりのヒナ強襲。そして30分弱で用意を済ませ、こうやってお出かけ。

 正直、まだ半分頭が寝ぼけてる。どないなってますねん、あんさん。


「何って……朝っぱらから一人歩きも虚しいでしょう? お買い物よ、お買い物」


 後半茶化すように、くふふふとヒナは笑った。茶化すといえばいつもそんな感じではあるのだが、まぁいつもより茶化しレベルが高いのだ。自分でも何言ってんのか分からなくなってきた。

 何はともあれ、現在地商店街である。呉服屋の目玉商品を隠すように、本屋の店外の棚を隠すように、模型屋のショーケースを隠すように、所々にシートを敷いたり椅子を置いたりして露天商が座っている。今日はこんな日、普段なら文句を言ってしかるべきだが、今は隠されたモノ達の代わりに露天商が客引きの役目を担うのだ。実際、話題性もあって売り上げは上がるらしい。

 とりあえず、『踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損損』という言葉がある、南野は「じゃあ俺は見る阿呆で良いや、疲れんの嫌だし」などと日和りきった事をぬかしておられたが、私は断然踊りたい派。つまり、睡眠を妨害してまでつれてこられたという経緯があっても、ここで楽しまないと我がアイデンティティの否定。

 というわけで――隣を歩くヒナにならい、私も辺りの露天をのぞく。


「ふぅん……なんだか、色々あるのね」


 銀細工や占いなんてベタなの、「露天」とは名ばかりのたこ焼き屋な軽トラ、その他小物など、様々な人が自分に与えられた、または鍛えていった技術を使い、ありとあらゆる商品がカオスに並べられている。直売やそれに近い分、何だか、何というか商売っ気みたいなものがあまりない。「商品が売れて儲かった」ではなく「商品が売れた」と、それが直接嬉しい感じ。いや、もちろん金が稼げるのは嬉しいんだろうけど――上手く説明できない。でも、この活気は商店街の一員としても新鮮な空気を感じる。


「そうよ、アキラは来たの、初めてだっけ……」


「うん、そう。今まではこの日、手伝いばっかりだったから」


 まぁ、今日休めたのは父親が有休取れたってのが大きい。有休取ってやる事が店の手伝いというのがまた哀れなんだけど、技術開発顧問やら何やら大層な役職であまり帰って来れないのだから、たまには母さんにサービスもしてあげて欲しい。

 ちなみに、かくいうヒナも商店街チルドレンである。ちょいと怪しいお店がある区画との境にある喫茶店を運営する夫婦の子供で、私の家族と同じく二階に居住スペースがある(ていうか、ここのお店は大体そうなっている)。営業時間の問題(何故か12:00〜26:00)もあり、怪しいお店から頭冷やすために来る人もいるという、ちょいとアダルティな喫茶店だったりもするので、ヒナちゃん「身体は子供、頭脳は大人」である。

 まぁ、そのせいで幼馴染だったりするんだけど、小中と学校違うからそんなに仲が良いわけでもない。同じように小学校が違った英子とは交流を持っていたが、こっちとは疎遠になりっぱなしだったし。


「あ、あの店、何か良さそう……」


 すっと団子屋の前に並んである長机に近づこうとするヒナ。私も、その後ろをついていく。

 まぁ、つまり、何だ。三好もとい葵の友達でもあるし、幼馴染だから仲良くしようって感じだ。うん、これ以上仲の良い女友達増えたらますます女っぽいが、それはそれで保留。

 そこはどうやら、お手製の髪留めを売っているらしかった。黒地のピンにそれぞれ色鮮やかな花が舞っているモノが、規則正しく並べられている。その向こうでは、40を少し過ぎた頃の女性がヒナに向かってにこにこ笑っている。


「お嬢ちゃん、お友達とお買い物?」


「えぇ、そうです……おいくら?」


「全品250円均一よ、好きなだけ買っていってね」


 女性の言葉を待たず、ヒナが品物選びに没頭し始める。

 うぅん、何だろう、こういうささやかな飾りが女心を刺激するんだろうか。まぁ、ヒナはかなり変な髪形をしているとは言え(詳しく説明しようにも、どこをどうやっているのか見当もつかない。ありとあらゆる髪結いの技法を取り入れまくってるに違いない)、たまにはこういうの付けるんだろうけど。

 私もカレンにお土産として一つ……とか思っていると、目星をつけたのかヒナが一つのヘアピンを掴んだ。


「アキラ、これ、可愛いと思う?」


 持ち上げたのは、花に疎い僕でも分かるシンプルな形。桜の花を模した飾りに、花びらを模した飾りが二、三連なっている。私の主観で言わせてもらうと、確かにこれはちょっと華やかでいいかもしれない。

 しかし、ヒナも私に意見を聞くなんて……これじゃデートみたいだ。


「うん、いいんじゃないかしら」


「そうよね……」

 

 その動きは、僕には見えなかった。一瞬――あるいはそれより短い時間、葵が拳を振るうような速度。風が駆け抜けた、私の前髪が舞った――しかし左半分は、すでに前髪ではなく側頭部へと寄せられていたが。


「うん、可愛い」


 平たく言うと、ヒナが神業的速度と精度で私にヘアピンを装着させたのだ。今気付いたけど、他人にこういう事されるとちょっと髪の毛に違和感あるねどうでもいいね。


「オチは読めてたのに……読めてたのに……!」


 デートみたいとか、そりゃ違った。いや、確かに可愛いけどさぁ、確かにこれは気に入ったけどさぁ!


「わたしは男って言ってるでしょ、ヒナ!」


 にやけるような笑みを浮かべるヒナを怒鳴りつけながら、私は引ったくるようにしてヘアピンを外した。



                 ***



 カレンへのお土産は、文目あやめの花を象ったものにした。ヒナに聞いて、これからの季節――五月の花を選んでもらっただけなのだが。購入後に聞いた花言葉は「希望」、私はカレンにどんな希望を抱かせてしまったのだろう。少女よ、大志を抱くな。主に私の下半身に関係がある事について。

 ちなみに百合の花もお勧めされたのだが全力で断って――結局、それなりに買い込んでしまった印象。いや、ほとんどはヒナが買ったんだけど、最後に「付き合ってくれたお礼」なんて言って、おすそ分けしてくれるらしい。らしいて言うのは、まだ受け取っていないからだ。


「私の家、来て。分ける物相談しましょ」


 なんて言われたのは10分前、何故か目の前には葵が居る。あと、何か変なモノ(?)もいる。

 ここはヒナの部屋。勉強机にベッド、本棚などと基本的に普通だが、人形の大きさが半端じゃなかった。量ではなく、大きさがだ。

 まず一個目、ベッドを越える背丈のクマちゃん(ふかふか)。二個目、天井から吊るされたサメのようなキャラクタ(気分は水族館)。

 そして三個目――前述した「変なモノ」だ。何だか、球体にぶっといムチのような根のような良く分からないものと鋭い歯を持つ口をプラス、それを緑色に塗る。材質は不明だ、でもなんか光の加減でテラテラ光ってるように見える。はっきり言おう、気持ち悪い。

 『隣町のローカル番組、連続TVドラマシリーズ「魔法教師サクちゃん」第二話の敵キャラ、ドリンダちゃんよ。友人に録画したのを見せてもらったんだけど、凄まじいまでのCGだったわ』とはヒナの弁。気に入ってんじゃねーか人形買ってんじゃねーか。


「えと……」


 で、ドリンダちゃんとやらについて考える事で気を紛らわしていたが、何だか葵が居る。

 今日は遊ぶ約束をしていたらしいが、ちょっと勘弁して欲しい。葵を嫌いになったとかそういうわけじゃないのだが、まだ葵と呼ぶようになってから日が浅いのだ。なんかもう、学校以外で会うのは緊張する。

 もちろん葵は私服だった。初めにあった時と同じ、ほぼ無地のシャツにジーンズの組み合わせ。女の子らしさなんてモノは皆無なのだが、学生服よりも無防備な上半身、その格好をしているのが自分を好いてくれてる女子、という事でドギマギだったり。あぁそうだよ、男子学生特有の認識マジックさ! 畜生、何だろう、性的な意味では特に葵を特別視出来てるわけじゃないのだが、何だかドキドキするような。


「えっと……久しぶり、っていうか学校で会ってるけど! あはははは!」


「あぁ、そうだな。うん、そうだなそうだな。あはははは!」


 間が持たない、無意味に笑いあう。何だこの状況、ただ黙っていることよりも気まずいかもしれない。

 ヒナに助けを求めようと、部屋中に視線をさまよわせるが……居ない? あれ、葵が部屋に入った時は居たのに。

 

「隣の囲いに家がかっこいい! あはははは!」


「あはははは! あはははははは」


 お互い冷や汗を流しながらも笑い続ける。なんだこれ、私たちは沈黙した瞬間に死ぬのだろうか、マグロが泳ぎ続けるように笑い続けなければいけないのだろうか。

 と、そろそろ自分達の正気を疑い始めた頃、いきなりドアが控えめに開かれた。


「あ、ヒナ! あはははは」


「お、どこいってたんだよヒナ! あはははは!」


「……何やってんの、あなたたち」


 眠そうな目のまま胡散臭いものを見つめる視線、という高度な表情は置いといて、ヒナは手に鍋を持っていた。鍋、と言っても何だろう。料理と言えば、ヒナはお店で出す中でも簡単な奴しか作れないはずなのに。

 ヒナは扉を足で閉め、鍋を入り口近くに置き、そして私に方へと近づいてくる。何だろう、若干にやけている。


「アキラ、今日は『生殺し』を体験させてあげるわ」


「は?」


 生殺し、ってあれか。目の前でウレシー事が起きててもまったく参加できない屈辱か。

 ヒナは私の声が聞こえなかったかのように勉強机の方へ。嫌な予感がする、嫌な予感しかしない。


「葵、アキラを抑えなさい」


「え、あ、う――分かった!」


 分かった、じゃねぇよ! どれだけヒナを信頼してるんだお前!

 しかしそんな事を口に出す暇も無く、さらに言うと欠片の抵抗すら許されず、私は床に組み伏せられた。背面にはカーペットの感触、前面にはヒナの体。立ち上がらないように押さえてるのは全て膝など――つまりやぁらかい部分に触れさせていないのは見事であり残念と言っていいが、顔が近かった。


「……えっと、どうにか、ならない?」


 その声、吐息が葵の髪を揺らす。つまり、葵は目を合わせないために下(というのもおかしいが、私の主観的に)を向いている。表情は見えないが、どうやら声が聞こえないほど焦っているらしい。

 などとそんな、奇跡的に降りかかった甘酸っぱいイベントを味わう余裕すらなく、私の体はヒナによって変革されていった。

 まず足首、縄で縛られた。太もも、縄で縛られた。下腹部、縄で以下略。臀部、以下略。そして以下略。

 つまりは、全身という全身が縄で縛られた。ていうか、机の中に入っていたのは縄だったのか。そんなモノ何で持ってるんだろう。ちょっと気になる。


「葵、もう離れていいわよ……さ、はじめましょ」


 そしてヒナは最後に、私にアイマスクを装着させた。



                    ***



 オイルマッサージというものを知っているだろうか、いや何も知らない人の方が少ないだろう。私も存在を知っているだけで細かい事は知らないが、とりあえずオイルを身体に塗りこんで美容などに役立てる、という事ぐらいなら分かる。

 では、スパイスマッサージは知っているだろうか? これについては私はちょっとした知識を持っている。何せ、今日は聞きたてほやほやなのだから。

 スパイスマッサージ。それはまぁ平たく言うとスパイスとかフルーツとかハーブとか、後は精油とか、そんなモノを使って行うオイルマッサージっぽい行為らしい。発祥の地はインドらしいけど。

 

「葵、上、脱いで」


「うぁ……でも、アキラが、居るし……」


 何故今そんな話をするかというと、まさに行われる寸前だからだ。

 畜生! 動け私の身体! 開け眼! 日頃の運動の賜物だろうが偶然だろうが、突然眠っていた吸血鬼とかサイヤ人の血が目覚めたって良い! 動け、動けよ! ここで動かなきゃいつ動くってんだ! ここで動けないなら、私は今まで何の為に生きてきたっていうんだ! 動けええぇぇ!


「ち、チクショオオォォォ!」


「うるさい、アキラ」


 奇跡的に母の呪縛を振り切って暴言を放てたが、今度は猿ぐつわを噛まされてしまった。やべぇ、これで縛り方が亀甲縛りならかなり危ない監禁拘束だ。

 しかし、とりあえず視覚と味覚と触覚を封じられているのなら、聴覚で実況中継するしかあるまい。視覚と触覚はともかく味覚で何をするつもりだったんだ、という質問には答えられません。

 という訳で、唸れッ! アキライヤー!(説明しよう、アキライヤーとは数キロ先の物音すら聞き分ける奇跡の耳なのである嘘である)

 

「ね、葵。アキラはもう動けないし喋れすらしないわ。ちょっと裸になるぐらいいじゃないの。……別に胸を比べるわけじゃないんだし」


「うぅ、いやでもそれでもわざわざこんな状況でやる必要は、ってヒナテメェ胸ってどーいう意味だ!」


「え……いやね、ただ体格と見合わないと不便ね、っていうお話」


「……ッ! い、いくらなんでもヒナには負けてねーよ! そりゃ、梓とか英子とかには負けるだろうけど……」


「ふふふ、いつまでも中学生の時と同じとは思わない事ね……」


 アキライヤーを集中させて、とりあえず音声だけを拾っている所存であります。見えるのはアイマスクの漆黒の闇、感じるのはフワとチクが微妙に入り混じったカーペットの感覚。もう私には耳しかないんだ……。

 と、ヒナの台詞が途切れた所で衣擦れの音が聞こえた。ちょ、ま、まさか……!


「な……! お、お前まさかそれは噂に聞くブラジャーか! え、ちょ、ま、な? う、裏切り者ー……?」


「混乱している所悪いけれど、一応まだ背も伸びてるし、そりゃね。ふふ、正真正銘、まな板な葵には酷だったかしら?」


 ぐおおおぉぉぉ! とりあえず、あれだ! 透視能力だ! 今すぐ透けろ、アイマスク!


「ぐ……ッ! な、なんで俺だけ……英子も梓も、俺より身長小さいくせに大きいのに……ヒナにまで追い抜かれたら、俺は……」


 沈んだ声。いやいや、大丈夫ですよ。ワタクシ、小さいのも好きですよ。


「くふくふ……そんな貴女に、耳寄り情報」


 そこで、ヒナの声が少し小さくなった。内緒話をするように、それでも私には聞こえるように。

 本当に、本当に生殺しだ。葵はきっと混乱しすぎて、私が部屋にいるというのも忘れているんだろう。


「このマッサージ、もしかしたら豊胸効果があるかも」


「……え、マジで?」


「体験してもらったお客様の十人に一人が効果を実感しています。効果には個人差があります」


 思いっきり健康食品系の売り文句だった。どう考えても『もし効果が無くても文句は受け付けないよ』の姿勢だった。


「そ、そうか。十分の一の確率か……よし、やる!」


 そして、葵は単純だった。あぁもう可愛いなコンチクショウ。

 続いて衣擦れの音、おそらく葵だ。かなり見たいが、もう透視などという馬鹿な真似は考えないでおこうと決めた。

 人間、大切なのは努力だ。石の上にも三年という言葉がある。というわけで、カーペットにこすり付けてアイマスクの紐を切ってやる! どれだけかかってでもなッ!

 次は柔らかいものを叩きつけるような音。葵が勢い良く布団に寝転んだのだろう。く……千切れろアイマスク!


「う……な、なぁ、水着とか無いのか? これ、下着すら穿かないって、スゲェ落ち着かないんだけど」


「私と貴女じゃサイズが合うわけ無いじゃない。それとも、下着ごとベタベタにしてしまいたい?」


 ギブミー! ギブミープリーズ透視能力!


「あ、いや、それは困るけど……あぁもう! じゃあ始めてくれ!」


「くふふふ」


 少し水の音がした。今なら分かる、音の正体は鍋の中にヒナが手を突っ込んだ音で、鍋の中身はマッサージに使うオイルが入っているのだろう。

 今日、私たちが出会った露天商は変わった人だった。普段は町外れでマッサージ店を営んでいるのだが、時たま自分の店で使う用具を売り歩いているらしい。買えばそのマッサージ店のサービス券が、という言葉を聞いて飛びついたヒナ(実は、ポイントカードとかそういうのに弱い)はいくつか買ってしまって、しかしこのハーブやらなんやらを混ぜ込んだオイルの使い道は思いつかなかったのだろう。ヒナに姉妹は居ないし、母親とはする側になるのもされる側になるのも気まずいだろうし。

 おそらく、これはヒナが考え付いた最も有効な利用法だ。ヒナは私と葵を積極的にくっつけようと思っているようなので始めはそのために私を呼んだのだろうが、どうやら遊び心のほうが勝ったらしい。

 

「うぁ……冷た、くはないな……」


「温めてるしね、だからお鍋に入ってるの」


 どうやら始まったらしい。肌に触れている音なんかは流石に聞こえないので、やっぱり会話のみでお楽しみ下さいなのか。ぎぶみーぷりーず透視能力。

 

「しかし葵……相変わらずいい体してるわね」


「んっ……なんか、セクハラみたいな言い草だな」


「そういう変な意味じゃなくて。何ていうか、健康的っていうか」


 時々葵が身動ぎするのだろう、シーツが擦れる音がやけに大きく響き渡る。あぁ、何だこの居ちゃいけない雰囲気。そこに自分がいる興奮。


「ふふ……あ、一応前も」


「ひゃあ!? ちょ、ヒナ、お前、何……ッ!?」


「豊胸効果を狙うならこっちの方がいいかなって。あ、そうだ。豊胸効果は未知数だけど、デトックス効果はあるらしいわ」


「ひっ……いや、効果なんてどうでもいいから、ちょ、そこから、手ぇ退けろ……」


 ……生殺しとはこういう事か、ヒナ。目は見えないのでもちろん分からないが、おそらくヒナは葵の背後で、私ににやにやとした笑みを向けているのだろう。

 正直、今の私はきっと自分で思っている以上にアレな事になっている。この戒めが解ければ、すぐに葵を襲ってしまいそうな気すらする。


「はいはい、次は下のほうね」


「や……ぁ。なんで、そんな、ゆっくりと……ちょっと待って待って、本当にエロオヤジみたいな……」


「そんな事言われても、ちゃんとマッサージしなきゃだしね。はいはい、そんな股閉じてないで。内腿の方が出来ないじゃないの」


「も、もういいってそこはぁ……。気持ち悪いってぇ……」


「くふふ、気持ち良さそうにしながら何言ってんの」


 結局、この状況は一時間ぐらい続いた。主観的には、地球の誕生からジュラ紀ぐらいまで永遠の暗闇の中だった。



                   ***



 あの状態から開放されたのは、マッサージが終わってさらに10分ほど後だった。なんかシーツが汚れたとかで交換したり、葵が服着るのに意外と手間取ったりで、私の存在が忘れ去られていたのだ。

 そして現在、私は家まで帰るところ。おすそ分けしてもらった分をスーパーの袋へ詰め、祭の後な風情漂う商店街を歩き続ける。あれだけ露天商がひしめき合っていたのが嘘のように静まり返り、ただただいつものようにまばらな人影。あの雰囲気も新鮮だったが、やっぱりこの微妙に落ち着く世界が私は好きだ。

 しかししかし、そんな街並みだけで落ち着けるほど私の心は涼しい状態では無い。熱く燃え盛っている。

 原因はと言えば、葵が帰った後のヒナの台詞だ。


『買い物の時にきちんと見てなかったアキラは知らないでしょうけどね、ガーリックには強壮効果、クミンには興奮作用が、オニオンには催淫効果で、コリアンダーとデイルには媚薬効果があるの』


 つまりは、そういう事だった。そう考えると服を着た後でもしばらく赤い顔をしていた葵の事も深読みできて、それはつまりあれでうぎゃー南無三。

 ちなみにその後、こんな会話も。


『ヒナ、貴女ってば葵にそんなモノ……ま、まさかそっちのケが……!』


『えぇ、実体験はないけれど、多分私は両刀だと思うわ』


 ヒナ、侮りがたし。もし私が葵を本気で好きになったとして、その場合の一番の障害はヒナかもしれない。私と葵の関係を応援してくれてるたって、多分葵が悲しまないようにって事だろうし。

 そんな事を考えている内に(そんな事の内容は八割方、あの声を脳内補完して妄想で姿を作り出す作業だが)家が見えてきた。いつも通りのどでかい看板で「エンジェルファッションHUKUI」、そしてその下にはカレンが。

 どうやら私の帰りを待っていたようだ。黄色地に色使いの激しいシャツにスカートと、ある意味かなり少女然とした格好で、文庫本をペラペラ捲りながら店の壁に背を預けている。


「カレン」


 声をかけると、まるで初めから分かっていたかのように自然な動作で文庫本を閉じる。そしてそのまま無表情に、しかし結構な威圧感を伴ってこちらへと歩いてきた。


「今日、無理だった」


 無理、とはカレンと一緒に露店を回れなかった事を言うのだろう。いつもながらに言葉足らずな従妹で困る。


「ご、ごめんね。確かに今回はカレンの休憩時間に合わせれば行けたでしょうけど……ヒナに連れて行かれたのよ」


「言い訳は、許さない」


 かなりご立腹の様子だ。しかし私としても事情があったし、何よりもカレンと回るよりアッチにいた方がいい目を見れたと言うか……。

 うん、ここは貢ぎ物大作戦だ。


「ごめん、じゃあ言い訳しない。でも、カレンの事忘れてたわけじゃないのよ……ほら」


 ヒナの様な神業は無理だけれども、カレンは止まっていてくれるので楽だった。ツインテールも長い後ろ髪を使っているわけで、つまり前髪は豊富に余っていて、つまり楽々装着完了。

 うん、なかなか可愛い。「希望」という花言葉の不吉さを差し引いて可愛いと思える。なんかこう、カレンって普段から髪形弄らないから(出会った頃からツインテ、ずっと黒ゴム紐)新鮮だ。


「アー兄、卑怯だ」


「うんうん、卑怯には屈しておく内が華よ」


 そうして、普段から無口無表情なカレンは、少しだけ俯いて、少しだけ嬉しそうに笑みを零した。あぁ、250円の元手は十分取れた、あと五倍くらい高くてもよかった。

 そうして、やっぱり恋人にしたいというよりは妹みたいなカレンの頭を撫でて、私は一つの事を思いついた。先に断っておく、私は葵に対して性的に特別扱いしないのと同じで、ぶっちゃけ女は皆女という認識である。だからこの行為に深い意味は無い、浅い――というより、浅はかな意味があるだけだ。


「カレン、お土産ついでになんなんだけど、今日は友達にマッサージのやり方を聞いてきたのね。スパイスマッサージって言ってね――」


 この後の展開は、皆さんの想像にお任せしよう。





え? 目隠しが無い状態+カレンとのマッサージを含む完全版? へっへっへ、つまりは今の五倍以上に文章が膨れがってもいいという事ですねってごめんなさい嘘ですやらないです。

今回、どこで歯止めをかけるか迷いました。目隠しナイス、ちなみにアキラを含むあの部屋の様子を想像できれば幸せになれるかもしれません、シュールです。


実はこれ、飛焔先生の発案が元です。とは言っても、「スパイスマッサージ」という知識を頂いただけでこんな大変に変態な内容にしてしまったのは僕ですけど。この場を借りて、飛焔先生に感謝を。

このような閑話、これからもちょくちょくやっていこうと思いますが、既に大筋が決まっている話じゃないのでけっこう融通利きます。なので、ちょっとした企画をやってみようかと思います。


題して、『ウルガルの話考えようぜ』! ドバーン!(効果音)


まんまですね、えぇ、いい企画名が思いつきませんでしたとも。

これはつまり、読者様がウルガルで「こういう話を見たいなぁ」とか、単に「○○が○○したら……」というシチュエーションだけ等、そういうのをコニにメッセージや感想で送って頂けると、その通りに書くかもしれないという企画です。

ただし落とし穴が複数。


・ちゃんと一話で終われるような話じゃないと受け付けられません(ダメな例:アキラ達のクラスに転入してくる謎の女の子、彼女の正体とは!? 答えは最終回で!)

・一応、コニの気分次第です。Aさんから送られたものとBさんから送られたものが合体したりなども在り得ます(例:「プールに行く」+「葵VS可憐のマジバトル」+「コニの妄想」=「プールで葵と可憐が競泳」)

・エロティカルに過ぎる内容は無理です。「えー、番外でノクターン(なろうの18禁版)行けよー」も受け付けられません、こんなんでも一応未成年ですので(例:例を挙げることすらできない……!)


とまぁこんな感じです。多分、最終章行くまで受け付けます。まだ出てないキャラも多いですし……っていうか、思いっきり序盤ですし。

では、まぁそんな感じです。別に「ネタが……ネタがねぇ……ッ!」と苦悩している訳でもありませんので、特に興味が無い人は今までどおりテケトーにお読み下さい。暇潰しにして頂くのが作者一番の願いだったりします。

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