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1−5:エピローグはお風呂場で

下品と二度ネタが止まりません。どこで方向性を間違えたんでしょうね、はは……

 白い煙が立ち込め、仄かに青い電灯が照らす風呂場。勢いのいいシャワーの水音が響き渡る。

 黒い髪に染み入るように上方から降り注ぐ湯、そのままあるいはタイルにつたい落ち、あるいは体を濡らしている湯と同化する。白い泡が溶けて洗い流されていき、その下の別の白さを持った汚れなき肌が露になった。前屈みになりシャワーを止めた、それと同時に胸辺りに留まっていた水滴が薄く上気した肌をなぞってゆく。


 ……いぇーい、こんな艶めかしい説明が出来る自分の体に失望だー。あはははー……。ちなみに汚れなきってのは嘘じゃないぜ、まだ綺麗な体だぜ、悲しい事に。


「ふぅー……いい湯、いい湯」


 ザバーッと全身の力を抜いて湯船に入る。中学生の頃からほとんど背丈が伸びていないので手足を伸ばしてゆっくり入れるのだ、その部分だけはこの体に感謝しよう。

 とりあえず足は脱力させたまま、このままじゃ落ち着かないので長い髪を縛りにかかる。外じゃ絶対そんな事やらないが今は人目がないので妥協。後頭部で団子型に結んだ。

 

「カレンが入るのはまだね……じゃあ、もう少しゆっくり……」


 本来、私は長風呂な性質たちなのだが、流石に裁縫修行に明け暮れるカレンを待たせるのは気が引けて20分以内には出る事にしている。まぁ、長風呂が女っぽいと言うのも理由の一つだけど。

 しかし今日はどうやら熱中しているようで、生活区域である二階にカレンが上がってきた様子は無い。風呂場からは階段を上り下りする音が聞こえるのだ。

 よっし、そうと来れば久々の長風呂だ。ていうか髪もう一回洗おう、なんか気持ち良いし。


「ふはぁ〜……」


 一息つきながら、こんな事なら入浴剤入れれば良かったななんて思う。いつも初めに入るの私だから、あんまり入れないんだよな。

 さて、普段ならここで鼻歌でも歌う所なのだが、残念ながらそんな気分にはなれない。

 今日だった。文月さんに拉致られ、葵に助けられ、そして……


「あ、お、い……葵……」


 顔が熱くなる、やっぱり恥ずかしいわこれ。女子を名前で呼ぶのなんて、特別な場合以外ほとんどなかったし。

 いや、これは、特別な場合なのか……同い年で名前で呼べる奴、あとは英子ぐらいだぞ……。そう考えると、やっぱり葵は特別だ。男友達も女友達も人並みに居るが(ファンは別として)、それらの誰とも違う。

 英子は腐れ縁だ、ヒナは相談役だ、委員長は普通の話が出来る友人だ。そして葵は――きっと、憧れだ。「憧れの人」という意味ではなく、「自分もああなりたい」という意味での。

 憧れが恋に変わるかもしれない――なんて、聞こえはいいけれどよく分からない。それでも私は気持ちに出来るだけ応えようと決めた。


『好きでも嫌いでもないんなら、“好きになる努力”をしてみなさい』


 今日はヒナにこんな事を言われた。

 つまり、そういう事。私が葵と呼ぶようになった理由は好きになるための努力、その一環なのだ。

 好きになれるかどうかは分からない、でも頑張ろうと思う。あんな綺麗な女の子が私の事を好いてくれるなんて、これって多分人生に一度あるというモテ期だ、多分。

 結論を急ぐ事は無いのだ。これから色々な事があるだろうし、その内に答えを固めれば良い。そう、出会った時のように不良と喧嘩になったり、今日のように拉致監禁されたり、今のようにいきなり風呂場の扉が開け放たれたり。


「って、うぉい」


 一人ノリツッコミ。持ちネタにしようかしらん。

 とまぁそういう訳で、どうやら私は思考にはまりすぎて階段の音に気づかなかったらしく。目の前、というか首を曲げたら視線の先にはカレンが居て。湯気で、よく見えなくて。


「……アー兄の、えっち」


「これは違ががっ!」


 噛んだ。そりゃ噛みもする。だってカレンなのだ。

 百合百合しい狂気を持ち、暗殺術っぽい物を使い、今は解いた髪が何気に胸を隠してたり、でも自己主張したての胸がきちんと確認できたり、私でも抱き締められそうな矮躯とか、人間離れした白い肌とか、おぉそういえば下はどうなっているんだろう兄代わりとして確認しなき――


「わぷっ!」


 シャワーを顔からぶっかけられた。視界がぼやける……が、この程度で私は屈しない! ここで目を閉じたら一生後悔するかも知れない……おとこってのはなぁ、チャンスを逃さねぇ生き様を魅せるもんなんだよ!


「そこを許すのは、アー兄が覚悟を決めてから」


 頭を掴まれました、がっしりとアイアンクローな体勢。視界が閉ざされました……おとこってのはなぁ、逃げ時を見逃しても駄目なんだよ!


「ごめんなさい」


 という訳で謝ってみました。しかしそのまま拘束は緩むことなく――代わりかなんか知らないが、優しい指が胸を撫でた。なんかぞくってする止めて止めてオトコノコの事情で湯船からあがれなくなるッ!


「アー兄……私、お金貯めるから。旅行と、手術の……待ってて」


 別の意味でぞくっときた! やっぱり本気だよこの娘! 全力で私の生殖能力を奪う気だよ!

 

「カレン……私にそういう気がないと何度も言ってるでしょ……?」


「大丈夫……汚いモノを失くして、綺麗な体になるだけだから……」


 私は綺麗な体です! 純潔です! 

 そのまま何か、カレンと押し合いへし合いになる。何だこの状況は――とか思っていたら、余計ややこしい状況になった。


「む、やはりここか、福井彰」


 文月先輩だった。開け放たれたままだった風呂場の扉から、文月先輩が顔だけ出していた。


「ふっ、ふ……ふづっ、ふぢゅきさん!?」


 噛んだってレベルじゃない、やっばい体が上手く動かせない。

 ていうか何だこれ。レズの従妹に風呂場で襲われて、その場に今日自分を拉致した学校の先輩が登場。はは、すっげぇよこれ人生の内で一度どころか輪廻転生の内で一度ありゃいい方だ。

 

「って、文月先輩! なんでここに!?」


「うむ、葵にお前の家を聞いてきたら、親御さんが『風呂場に居るけど気にしないで大丈夫』と言ったのでな」


 かあさーん。

 とかまぁ、現実からランアウェイしている内に文月先輩は風呂場に入ってきた。もちろん裸ではなくTシャツにジーンズとラフな格好だ、髪留め代わりのヘッドフォンは健在だが。


「うん、そういう訳でな、今日の件を謝りにきたのだ。いやすまない、今後は葵と一緒に仲良くしてくれると助かる」


「落ち着いて話してないで、出て行ってください!」


 オトコノコ的情動は収まったものの(恐怖の一声で)、裸を見られて平気なわけがない。向こうには見ても平気な理由はあるが、こっちは裸を見せる機会なんて少ないし。

 しかし文月さんは、まったく意に介してくれない。あまつさえ、こんな一言を。


「まぁ、いいではないか。私は既に一番見てはいけない部分を触ってしまっているのだし」


 と、禁忌の一言。なんで禁じられてるかというと、目の前に居る人がブラックになってしまうという事で。視界がクリアになる、そしてまず目に映ったものは華奢な背中。背中向けるのは早いなカレン。

 なんかカレンの敵が一人増えた瞬間だった。


「貴女……名前」


 名前を聞きたいのだろう、言葉足らずな従妹で困る。いや、今は口数より抑揚が欲しいけど。マジで怖いけど。

 しかしそんなカレンにも怯まず、文月先輩は胸を反らす。戦うのなら正面からと、相手を誠実に睨み、誰よりも気高く、自分こそが世界の覇者といった調子で。

 猛禽類の瞳で、文月 桔梗は風呂場全体を揺るがす大声を放った。


「文月 桔梗である!」





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