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1−2:鷲の袂に囚われて

今回、結構フィーリングで書いてます。

 固い物に頭をぶつけた時のあの痛み。鳩尾独特のあの痛み。床に雑魚寝した時の体の痛み。顔の方に感じる生暖かさ。

 目を覚ました時、私が感じた感覚箇条書き祭。


「起きたか、福井彰」


 かなりくぐもった感じで声が聞こえた。やたらと偉そうな、「我こそが覇者」って感じの無遠慮な声。ちなみに女声。

 さて、状況を整理しよう。あの時、私は……


1、謎の女性登場

2、怯ませた隙にボディブロー一閃(もちろんやられたのはこっちだがな!)

3、ブラックアウト


 番号付けるまでもねぇ。単純明快すぎる。


「ん……私、どうなったの?」


 誰とも無しに聞いて見る。というか、くぐもった声は間違いなくあの女性の声だろうし(あんな偉そうな声は、他に中々聞けるもんじゃない)、事情の説明ぐらいしやがれクソヤロウって感じだ。


「うむ。現在進行形で私の胸にうずまり中だ」


 何言ってんのこの人!?

 しかしそうなると謎の生暖かさも人肌ヒャッホウな具合でそしてここはどこだか知らないが弾力ヒャッホウでもしかすると連れ去られたのかビッグメロン!(大いに混乱)


「って――訳が分からない!」


 とりあえず跳ね起きてみた。無理だった。

 ……いや、なんか知らないけどよくよく体勢を考えてみれば、自分は仰向けだった訳で。

 つまり、この女性は私に覆いかぶさりながら胸を顔に押し付けているというおそろばらしい(恐ろしく素晴らしい。即興造語)シチュエーションなのですか!


「という訳で福井彰、嬉しいか? 興奮するか?」


「アドレナリン最高分泌です」


 素直に答えてみた。気分的にはもう「貴女の奴隷です」。

 しかし、次の瞬間、腹部に痛み。続いて、二発目。


「ぐはっ! ちょ、貴女、何でいきなり殴――!」


 殴られているのだった。適度に調節されているのか、痛いとは言え悶絶するほどのものでもないが――逆に言えば鈍い痛みが連続なので、あながち楽ともいえない。

 ていうか、痛ぇ。マジ痛ぇ。


「ふん。胸の件は言及しないのに、こちらには文句を言うとは、性格がうかがい知れるな」


 人とは、幸運は容易く受け入れるが不運は格別嘆くものである。

 哲学的なようで実は思いっきり当たり前のことを返そうと思ったが、口が開けない。なんか喋ろうと思っても「かふっ」って感じに肺から空気でていくもん。鬼のような連続パンチにおける弊害(むしろ並害と書くのが正解)だもん。


「かふっ――どうして――ぁう――私――こんな――くっ――目に――」


 息も絶え絶え、痛い。しかしそれでも脳内で考えをまとめられるのは痛みが適度なおかげだ。

 だがしかし、そんな痛みを許容できるほど私は優しくない。女性を屈服させるのは好きだがさせられるのはいやごめん何でもない。


「てい」


「む」


 拳を掴んでみた。向こうもこちらを侮っていたのか、無茶苦茶簡単に掴めた。

 相手が拳を引こうとするが、そうはさせるか握力全開。結果、拮抗した。


「……ふふふ、軟弱者と思っていたが、中々やるようだ」


「こう見えても、鍛えてるの」


 たまに走り込んだりもするのだ、腕立て腹筋背筋もするのだ。男性ホルモンが促進されやしないかと淡い希望を抱きながら。努力はいつか実ると信じている。

 さて、そんな事をしている内に柔らかい質感は離れていった。くそう勿体無い。


「……で、どういう状況なのかしら?」


 内心がっかりしているが、顔に出す彰様じゃゴザイマセン。ゆっくりと起き上がって座り――危うく魂の奥底に刻まれた調教によって女の子座りしそうになったが、胡坐をかいて座る。


「そうだな、まずは自己紹介しようか」


 うむうむ、と目の前の女性は目を閉じて納得の頷き。そして大きな胸に手を当て、すぅっと息を吸い込んだ。

 やべぇ、なんか教室での出来事がデジャヴ。


文月ふづき 桔梗ききょうである!」


 直前に耳を閉じていたからよかったものの、またもや馬鹿みたいな大声である。鼓膜ではなく、直接脳に伝達されたかのような衝撃。

 その声量は金属の扉を震わせ、バスケットボールを揺らし、重ねたマットを微妙にずらし、多分、建物の基礎もちょびっと揺れた。

 というか。

 というかここ、体育倉庫だ。


「体育倉庫だったのね……道理で人が居ないと……」


 体育倉庫に男女一組、キャッキャウフフな状況になっても良さそうなものだが、この文月という女、仏頂面である。

 仏頂面がよく似合う面構えだった。

 改めて面と向かってみると、力強そうな女性であった。改造して、春だというのにノースリーブになった学生服の袖から見える腕は、三好とは違いきちんと筋肉が見て取れる。ただ、それも筋肉質というわけではなく、しなやかな印象だ。

 上とは違い、緋色のスカートはやたらと長く、裾が地面につくかつかないかの所で大きく広がっている。袴のようなデザインだ。まぁ、靴は意外と常識的に体育館シューズだったが。

 そして何よりも驚いたのが頭。ヘッドホンをカチューシャ代わりにして髪を留めるという、謎ファッションだった。おかげで少し長い髪は全て後ろに流れ、精悍な顔つきを余計印象立たせている。

 まぁ、そんな感じだ。私を誘拐した女の見た目は。誘拐、誘拐だぞ誘拐。


「貴女ね、いきなり教室から連れ出すということが許されるとでも……」


「安心しろ、私は生徒会副会長だ。根回しはしておいた」


 世も末である。


「大声出すわよ」


「私に敵うと思っているのか!」


 いや、勝負じゃねぇよ。そしてアンタには敵わねぇよ。

 とりあえず、なんか色々と無駄そうだ。文月――というか副会長って事は先輩で、先輩だから文月さんは、人の言う事聞かないっぽい。

 いや、それ以前に……彼女は、一体いかなる目的を持って私を連れ出したのか。


「あぁ、そういえば福井彰、さっき胸を押し付けていた理由を教えてやろう」


 と、真面目な事を考えているのに至極気が抜けるというか天国とんでっちゃいそうな事を言ってくる文月さん。ようやくピンクイベントか?

 と、思ったが、文月さんは仏頂面のままだった。そしてそのまま私の襟首を掴み、中空高く持ち上げる。思ったほど苦しくはない。

 百獣の王ですら獲物ですって表情だ……前にもこの表現を使った気がするが。

 確かその時は、三好がとても怒っていた時で。あぁ――なんだかこの人、顔つきや体つきは結構違うんだけど、三好に似てる。雰囲気と言うか、全身にまとうオーラと言うか。

 だから、だからってさ、思い出したからっていきなりこれはないと思うんだ。


「さて、あれは貴様が信頼に足る男か試してみた訳だが――おい、彼女が居るというのに、何を他の女に欲情している?」


 三好とは方向性の違う怖い顔だ。なんかもう、無表情の極み。細めた目で、真摯にこちらを見つめてくる。いやごめん可愛い表現使っただって怖いもん。訂正、猛禽類のように鋭い目が、捕食するようににらんでます。

 さぁて、ここで冒頭の冒頭に戻る訳だが――誰か助けてくれ。



                  ***


 ヒナと南野が教室から出て行った。オレは取り残されたまま、奇異の視線に晒されている。

 そりゃそうだよね。いきなり走り込んできてあんな事叫んで。二人は出て行って。オレだけ残って。

 あぁ、馬鹿みたいだ、オレ。どうしてあんな事を言っちゃったんだろう。

 福井 彰。多分、今まで会った誰よりもオレの事を理解してくれている人。

 そうだ。オレだって好きでこんなに背が高く、そして、その、胸がちょっとアレだったり、やってる訳じゃないんだ。可愛い服だって着たいと思う時もあるし、可愛らしい仕草が似合えばどれだけ幸せかと思う。

 でも、オレは父さんの後を継いで道場主にならなくちゃいけなくて。そんな言い訳で、子供の頃男っぽく振舞って――結局、それが板について変われなくなってしまった。

 彼も一緒なんだろう。だから、恋人とかそういうのは勢いだけでまだよく分からないけど、助けたいと思う。

 恩返しとか、共感とか同情とか、そんなのじゃなくて。純粋に助けたいと思う。

 だからその為に、足を踏み出そう。オレは、強いんだから。アキラを助けなくちゃいけないんだ。


「待てよ、ヒナ!」


 少し大きな声を出すと、ヒナは教室のドアからひょこりと首を出した。あぁ、やっぱり待っててくれたんだ。


「一緒に来たいの? 貴女、考えなければいけない事がたくさんあるでしょう? ここは私たちに任せなさい」


 いつも通りの半目で、淡々と言葉を繰り出す。一言一言が心を揺さぶる。

 確かに、猪突猛進はオレの悪い癖。告白だって、自制が効かないまま言っちゃったんだし、考える事はたくさんあると思う。でも、今はそれよりも。


「うるせぇ! あいつは、オレが助けるんだ!」


 あぁ、やっぱり猪突猛進中。もう喉から先に責任が持てない。でも、飛び出す言葉は紛れもなく本心。

 ヒナは何度か頷いた。吟味するように、頭を捻りながら、こちらへとゆっくり歩いてくる。

 そして私の目の前に立った所で――その拳を振り下ろした。


「馬鹿娘。自分でいた種なのに、何棚上げしちゃってるの」


 チョップ。小気味良い音も何もない、ただ優しく頭を撫でるような感触だけが髪越しに伝わる。

 いっつもこんなのばっかりだ。ヒナには、いっつも迷惑をかけちゃう。


「とりあえず、しばらくは貴女とアキラを離しておきたかったんだけどね……くふ、まぁ私と南野じゃ先輩には敵わないから、連れて行くのも止む無しって感じ」


 ヒナはいつもの半目のまま、少し唇を持ち上げた。付き合いが浅いと分かりにくいかもしれないけど、これは優しい笑顔だ。

 ヒナの後ろを見ると、いつの間にか南野もそこに居た。何だか、存在感が希薄な男だ。アキラとは違う意味で今まで会った事のないようなタイプ。


「んじゃ、行きますか。というか、とっとと終わらせてーよ」


 極めて投げ槍に南野が呟く。

 それに答えるように、ヒナが胸ポケットから携帯を取り出しながら呟いた。


「ん、それじゃあ行きましょうか。場所は分かってるし」


 え、ナニソレ初耳。


「何で場所分かってんの?」


「くふくふ……ウチの部活にはね、学校内なら全てを把握しているというキングオブ一年生が居るのよ……」


「貸し作るのはメンドーだけど、ま、しゃあねぇっつうことで。何かやらされるっぽかったら、三好さんも手伝ってくれよ?」


 なんだか、すごい人が居るらしい。この二人共通の知り合いで、全てを把握している人間。怖い。

 

「という訳で、体育倉庫らしいわ……ま、先輩もベタよね」


 言いながら、ヒナはクルリと身を翻して教室を出、階段の方へと歩を進める。急な動きだったので少し遅れながらオレも、そして面倒くさそうに南野も。

 

 しばらく無言。一回まで下りた所で、南野が急に足を止めた。


「……」


 無言で空中を睨み、ハエでも払うかのように手を動かしている。新手のパントマイムみたいだ。


「おい、どうしたんだよ南野?」


 あくまで目線はこちらに向けず、南野は答えた。


「えぇ、ちょっとこっちにも事情が……だから、違――っ!」


 なんか、急に叫んだ。びっくりだ。

 ヒナは一応立ち止まっているが前を向いたまま。オレと南野の間には深い壁……まぁ、俗に言う気まずい沈黙。


「あー……」


 先に口を開いたのは南野。


「ちょっと頭痛がするんで、二人だけ行ってくれ。俺は保健室に行く」


 その症状はきっと頭痛じゃない。心因性の何かっぽい。

 口に出そうとするも、上手く言葉に出来ず「あー」なんてごまかすような吐息のような者が漏れるだけ。やっぱり、男の人は苦手です。

 結局、口から出たのは無難な一言。


「えーっと、大丈夫か?」


「寝たら大丈夫だと思います。憑かれてるだけなんで」


 どうやら相当な疲れらしい。急に叫ぶほどの。


「ま、まぁお大事に……」


「行くわよアオイ。そして南野、埋め合わせはいつかするように」


「うぃーす……」


 ヒナは特に気に留めていない様子だった。もしかして、こういう事はよくあるのかな。

 オレ達の背を向ける南野。逆の方向に、ヒナも歩き出す。

 そして最後、南野の声が聞こえた気がした。


「だから両手に花とかじゃねぇっつの。ありゃ、友達の友達みたいなもんだ――あぁもう、メンドクセェ」


 誰かと話しているような、変な独り言だった。





何でかキャラに対する好評となれば「アキラ可愛い」が多い気がするので、ヒロインも可愛くカッコよく書かないと。

頑張れ、ヒロイン。

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