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1−1:肉食と猛禽は争いあうが運命(1)

久しぶりの更新です。なんかこのペースが身につきそうで怖い。

ちなみにタイトルの読みは「うんめい」じゃなくて「さだめ」。語呂の関係で。


そういえば、カテゴリに「らぶえっち」が入っているので期待している方、いらっしゃるかもしれません。

そんな方にお詫び申し上げます。今さらですが、そんなにエロくなる予定はありません。

あっても少年漫画程度だと思ってください。「これちょっとヤバイんじゃね?」ってレベルのは多分書きません。

いやね、「犯す」とか普通に言ってますから、ヤベェんじゃないかと……年齢制限付けるほどでもないと思いますが……。

 文月ふづき 桔梗ききょう

 桔梗の花言葉は誠実――だったと記憶している。母から聞いたので、曖昧だが。

 間違っていたとしても合っていたとしても、とてもこの人に合った言葉だと思った。

 彼女は強さに執着する。

 彼女は傍若無人である。

 ただ、彼女はこと約束や誇りにおいては、意外なほどに誠実だった。

 見下ろし、群れず、律儀で、強い。行動の端々に自信と強さがある。

 彼女はわしだ。

 私の身近にいるあの狼とはまた違った漢らしさを持つ、最強に近い所にいる女性。

 あぁ、前置きが長くなってしまった。私が言いたいのはただ一言だ。

 

 誰か助けてくれ。



                ***



 あれからしばらく経った。


「よーぅ、彰。昼飯タイムだ貪り食うぜー」


 洋太が、いつもながらにやる気なさげな足取りでこちらに向かってくる。ちなみに目が死んでいる。


「いつもながら生気が感じられないわね、洋太……」


「憑かれてるんだよ」


 疲れているのか、じゃあ仕方ない。


「で、学食? 行くなら行くで、お供するけれど」


「いんや、今日は朝からコンビニ寄ってきた」


 ドサドサドサーっと私の机の上にぶちまけられるおにぎり約6個ほど。そのまま洋太は踵を返し、自分の席から椅子を持って往復してくる。

 洋太は一人暮らしらしい。自炊も出来るとのことだが、早起きが面倒くさいからと昼は常にこんな感じだ。

 私は逆に家族と暮らしていて、しかも自分でもある程度は作れる。母さんに任せてもいいのだが、無茶苦茶可愛いクマさん弁当箱(ピンク色エディション)に詰められるので基本的には自分でだ。

 

「ま、さっさと食べましょ」


 私はカバンから無骨な四角いだけの弁当箱を取り出す。日本男児とはこうあるべきだ!

 と思いつつも情けなくスカートの乱れを直していると、見覚えのある顔が近づいてきた。

 洋太も気づいたようで、ふと呟く。


「お……ヒナか」


 毘奈ひな 美々(みよし)、クラスメイトABCの一員であり、少し前の規模縮小な三人戦隊ヒーローモノで言うとブルー辺りに位置する少女である。

 話は飛ぶが、ウチの学校は放任至上主義だ。点さえ取って目立った問題がなければなんでもかんでも進学できるという、教育機関としては色々終わってる感じの学校だ。まぁ、この時代の私立だと仕方ないかもしれないが。

 という訳で、制服改造超自由。不良も変人も変態もオールウェルカム。

 この学校内においてかなり普通な洋太でさえ、中身がちょっとアレで、しかも細かい制服改造(ボタンを既存の物以外にしている)が行われていると言えば、多少は理解が得られるだろうか。


「あら……お二人さん、お熱いわね……くふくふ」


 弁当箱片手に近づいてきて、いきなり笑う毘奈。「くふ」と言う笑いも何だかなぁと言う感じなのだが、文句をつけても意味が無いので黙っておく。

 

「こんにちは、毘奈。英子えいこと委員長は?」


あずさは正にそのいいんちょのお仕事……英子は、いつもの放浪癖」


 AとCは居ないらしい。なるほど、だからこっちに来たのか。


「んじゃ、こっちで食うか?」


「ご相伴にお預かりします……」


 ぺこり、とお辞儀して弁当箱を私の机に置く毘奈。そしてそのまま椅子を取りに行った。

 後姿を見ても十分に分かるぐらいに背が低い。多分、私とカレンの中間ぐらいではなかろうか。

 ブレザー、ボレロはたまたワンピースタイプと原型からして何でもありの制服の中から、彼女は伝統的なセーラー服タイプを選んでいる。

 ただ、上着の裾が驚くほど長い。こうして見ていると、スカートをはいていないように見える(実際にははいている。超ミニだが)。袖の折り返しから襟部分までとことん長く、印象としては布に埋もれているといった所。

 その印象をさらに助長しているのは、プレゼントの包装のように飾り付けられた頭のリボンだ。正式になんというかは知らないが、複雑に入り組んだ髪形をしている。


「さぁ、食べましょ?」


 と、いつの間にか椅子の準備を終えていたようだ。

 こちらを見つめてくる瞳は、かなりの半目。眠いんだか胡乱げ何だか分からない、もしかしたらこれが素なのかも知れない。

 

「それじゃあ、まぁ、いただきまーす」


「いったーきやーす」


「いただきます……」


 全員で手を合わせ、お弁当を開封(洋太は1,2,3の手順に従ってぺりぺりと)。

 毘奈は二段になったお弁当箱を控えめに広げ、はしの後ろをちょこっと握って、小さくご飯をとって食べていた。

 この埋もれている感じといい、仕草といい、なんだかヤドカリっぽいんだよな……本人に言ったら怒られるだろうけど。


「南野。梓が居なくて残念?」


「ごふぁごぱぁ! 何を仰りやがりますかこの小娘は!」


 毘奈の一言で、普段は行動全般に生気が感じられない洋太が口角泡飛ばしまくりで叫び返す。というかご飯粒飛ばすな。


「なんでいきなりいいんちょの話になるんだっつーの!」


「くふくふ……頑張れ、南野」


「応援してるわ、洋太」


「だから何で!?」


 ちなみに、洋太は委員長である椎名 梓の事が好きである。Loveの方で。

 隠しているつもりなのだろうが、態度がバレバレすぎなので当の本人以外は大体知っているという悲しい現実なのだ。

 

「映画にでも誘えば? あの子、意外とそういうベタなの好きよ」


「だから委員長の事はどうでもいい! それより、今公開している映画を教えろ!」


 分かりやすいなぁ、洋太。

 と、そんな感じに平和で穏やかな昼食時間。そして無遠慮に鳴り響く電子音。


「何だこの80年代ソング……?」


「え、ちょ、渋い! チョイスが渋い!」


「誰だこんなの入れてる奴!?」


 教室中で上がる声を聞き流しながらマナーモードにし忘れていた携帯を開く。みんな失礼だなぁ。

 表示されたのは見知らぬ番号。だがこのまま鳴らしっ放しもなんなので、とりあえず通話開始。


『アキラ!』


「わお、三好?」


 何を隠そう、電話の向こうの相手は三好葵だった。何を隠そうの用法が正しいかはこの際スルー。


「なんで私の番号知ってるの? まだ教えていないはずだけど……」


『舞ちゃんから聞いた!』


 何しくさってやがりますかあのアマ。いや、別に教えちゃいけない事はないんだが、何かムカつく。

 と、そんな事よりも三好だ。どうしてこんなに焦っているんだろう。


『今すぐそこから離れろ、アキラ!』


「へぇあ? 私、まだお弁当食べてる最中なんだけど……」


『えぇいもうまどろっこしい! オレが今すぐ行くから、変な奴が来ても付いて行くなよ! 絶対だぞ!』


 そこまで一方的に言い放ち、(多分)走り出す三好。何なんだ一体。


「ちょっと三好? 三好!」


 呼んでみるが、返ってくるのは無機質な電子音だけ。一方的に切られたよ。ホント、何なんだ?


「くふ、アキラ、そんなに何度も私の名前呼んじゃって……」


「分かって言ってるんでしょうけど、あっちの三好ね」


 下の名前がミヨシなんだよな、このヤドカリ。

 と、それは置いといて、三好の言っていた事が気になる。さて、この中で考え得る状況をレッツシミュレートしてみよう。これは二重表現となりかなり正しくないが、まぁ気にしたら負けだ。

 可能性1、不良の報復。可能性2、三好ですら恐れる超人登場。可能性3、どっきり大成功。可能性4以下、未定。

 ……結構やばくね? 三好の性格上、3はほとんどありえない。となると2は……この学校にそんな何人も壁蹴りできる人が居てたまるか。除外。

 じゃあ1じゃん。まごう事無き1じゃん。完全無欠に1じゃん!


「こんな不良が来るかもしれない所に居られないわ! 私は逃げる!」


「死亡フラグね……」


 条件フラグが立ったらしい。死ぬらしい。

 しかし不良に犯されるよりはマシだ。ゲイなら……良いというほどの事でもないけど、あんな奴らを相手にするのだけは嫌だ。

 私は、客寄せパンダじゃない。私は、一個の人間だ。

 

「おーい、彰」


 立ち上がり、靴(それが当然であるかの如くローファーなのだが、気にしたら一刀両断)を整えている私に向かって、洋太がいつも通りのだるそうな声で呼びかける。


「出掛けるんなら弁当は不便だろ? これ食べれ。交換だ」


 洋太は器用に器用にお手玉のように、残ったおにぎりを私に放り投げてきた。堅守を誇る捕球力(嘘)でキャッチ。

 ありがとう親友。超親友。この荒みきった現状では、もう涙が出る。

 言葉に出して感謝すると女言葉になって情けないから、頭を軽く下げるだけで済ませておいた。

 さて、行こう。三好もここに向かっているだろうし、途中で合流する事になるだろう。


「くふ、頑張れ、アキラ」


「じゃーなー。死ぬなよー」


 二人は軽々手を振り、それぞれの食事に戻る。なんか男と女が一人ずつ残った訳だが、あいつらでは色っぽい話題なんて欠片も出ないんだろうなぁと名推理しておく。

 私は二人に背を向け、一歩を踏み出し――そこで扉が開いた。

 あれ? 嘘、速い。周りを見渡すと、クラス中全員の目が扉に集まっている。私も、恐る恐る目を向けてみた。

 果たして、そこに居たのは不良ではなかった。女の子――というには、女性と言った方がいいか。

 とにかく、多分ウチの制服を着た女性が、いきなり叫ぶ。


「福井 彰は居るか!」


 その声は教室中を渡り、窓ガラスを震わせ、窓際に立ち誇る木を揺らし、そこから鳥を飛び立たせ、私に尻餅をつかせた。

 つまりは大声だった。これ以上ない大声だった。


 ちなみに後から分かった話だが、正解は1よりも2の方が近かったらしい。



                   ***



 オレがそこに辿り着いた時、既にアキラの姿は無かった。


「遅かったか……」


 呟いても後悔が消えるわけじゃない。あぁもう、どうしてオレは先輩なんかに話しちゃったんだろう。

 バカ、自分のバカ。


「あれ、アオイ?」


 入り口に立ち尽くしているのがそんなに邪魔か、と多少ひねくれた思考で顔を上げる。

 そこに居たのは、ヒナだった。


「ひ、ヒナァ……」


「情けない声、出さないでよ。貴女が悲しいと私も悲しい」


 よしよし、と自分よりも背の低いヒナに頭を撫でられる。ヒナとは小学校の頃からの付き合いで、いつもオレの方が迷惑をかけてしまっている。

 どうやら、ヒナはお弁当を食べ終えた所みたいだ。真後ろにはアキラの友達の――えぇっと、南野が居る。

 というか、見られた。情けない声を出して頭撫でられてるの、見られた!


「ったく、さっきのは何だったんだろうな……って、三好さん、なんで俺を睨むの」


「何でもない。何でもないから近づくな」


 大体、この人、普通に男だし。男の人は嫌いです(一部例外アリ)。

 

「なーんか嫌われたっぽいなー……ヘイ、ヒナえもん、説明プリーズ」


「そんなに便利でもないけどね……えっと、さっきの人は文月 桔梗。私と三好の先輩よ」


 やっぱり来てたんだ、先輩。

 一個年上の先輩、文月 桔梗と出会ったのは、中学校に進学してすぐの事だった。入学早々男と間違われ、「目付きが悪い」という理由で体育館裏に呼ばれたオレは、とりあえず応戦して普通に勝った。

 その時、オレを助けようとしていた善良な先輩が居たのだ。強く、気高く、でもちょっと抜けている桔梗先輩は、全員を倒した後に現れて――なんというか、敵を勘違いした。

 そのままバトル後、先輩にとっては友情が芽生えたらしい。オレは痛かっただけなんだけど、それでも先輩とは時に戦い、談笑し、過ごしてきた仲だ。


「……そういいえばアオイ、何で時々先輩と戦ってるの……?」


「オレが強いから、と言ってた。意味わかんねぇ」


 まぁ、確かにあの人の戦闘能力じゃ並みの相手は塵みたいなものだろうけど。

 

「つーか、その文月先輩? その先輩が、どうして彰をさらうんだ?」


「そうね、私も気になってた。あの人、微塵でも意味があったら実行するけど、完全に意味が無い場合は何にもしないし」


 さらわれた。

 一言が、重くのしかかる。あぁやっぱり、と思う反面、泣きたいような気持ちになる。

 どうして私は、あんな軽はずみな事を言ってしまったんだろう。でも、良い言い方なんて思いつかなかったから。


「オレがアキラを好きだって事、知らないよな?」


 ボソボソと、二人にしか聞こえないように呟く。顔を伏せているので、向こうからも表情は見えないがこちらからも見えない。


「一目惚れなんだ。だから会ってすぐに告白……そりゃ困るよな、こんな男女に、いきなり、迫られてもさ、ハハ。アキラは返事を保留して――」


 二人の顔は見えない。でも、言葉をさえぎる気も無いようなので、続ける。 

 

「それを、先輩に冗談めかして言っちゃって……勘違いして! オレがアキラに騙されてるって勘違いして!」


 舞い上がりすぎていた。正直、男と女の仲なんて、こんな中途半端なものでも初めてだし、自制が効かなくなっていた。

 昼休憩の業務連絡のようなメールの後、オレがわざわざ『そういえば、やっと私も恋をしてみました。でも、告白の返事すらなく保留されるのは、いくらなんでもひどいですよね』なんて送らなければ。『そんな性根が曲がった奴は私がたたっ切ってやる』なんて返ってこなかっただろうに。

 

「……そう。そうなのね、アオイ……なるほど。それなら私は半分、先輩に賛成」


 考えに没頭する中、ヒナの声だけが意識に潜り込んできた。反射的に顔を上げる。


「どうして!」


「貴女、本当に純だから」


 そして、ヒナの顔を見て、驚いた。

 半目をきっちり見開き、怖い、思い詰めたような表情になっている。何なんだ、何なんだろう。なんでいきなり、ヒナまで。


「アキラも、どうせ勝手が分かってないからね……お互い嫌いじゃないにしても、このままじゃ駄目よ、色々と」


 ヒナ。どうしてそんな事言うの、ヒナ。

 

「南野、付いて来なさい。先輩を探すわよ」


「飯食い終わったからいいけど、次の授業までもうあんまり時間無いぞ? どうする?」


「サボりなさい。下手するとアキラ、冗談抜きでヤバイから」


「……了解。あぁメンドクセー、こっちは憑かれてるってのに……」


 二人は話を勝手に進め、勝手に教室から出て行った。どうやらオレはいらないみたい。

 アキラの事が好きなのはオレなのに、どうしてオレがのけ者にされるんだ。

 




タイトル関係ないだとか、先に名前だけ出てるキャラを消化しろとか、カレン出せとか、シリアスんなとか、色々言いたい事はあるでしょうがスイマセン。この話はどうしても最初の方に入れたかった……!


ヒナの口調が短編の時のABCと違うのは気にしないで下さい。短編時は濃いキャラにする訳にはいかなかったという苦肉の策なので、こっちが本来の彼女です。



……ファミリアを読んでいる人には「見覚えは無いけど意味は分かる名前」が登場しましたね。設定面ではファミリアの脇を固める話なので、読むと1,17倍(当社比)楽しくなります。

逆にファミリア読まないとこっちの設定がよく判らないという事態にならないように気をつけないと……。

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