死にたがり少女と名を言わぬ「天使」
「辛い」
いっそ、死のうかと思っていた。
そんな私が重い鬱になって、自分自身が嫌になって、死にたい消えたいと強く願い始めていた。
そんな時に起きた不思議なお話。
*
死のうと決意した前日、夢の中でとある問いかけをしてきた謎の人がいた。
「ねぇ」
「だ、誰?」
私が道の中で迷っていた時、一人の男性に出くわす。その男性は、口元以外、全身黒のローブにすっぽりと覆われていた。見た限り、まるで死神の様な格好だ。
「名は知らない方が君のためだよ」
「え?」
「それじゃあ、一つ、君に大切な課題を出すことにしようか」
「いや、だって……」
重い鬱を患って、明日死のうと思っている私に課題?
何言ってるんだこの人は。そう思っていたが、彼は私の話に一切耳を傾けず、べらべらと話し続けた。
「生きるのは辛くても死ぬのはもっと辛い人と、死ぬのは怖くても生きるのはずっと怖い人がいたとする」
「う、うん」
「君は、どちら側の人なのかな?」
*
「はっ!」
死神みたいな彼の一言に、思わず起きてしまった。
目覚まし時計を見たら、時刻は午後6時を回っていた。電気はつけずに常に真っ暗な部屋に、静寂が広がる。
しかし、夢の中の内容は、うろ覚えだけど、覚えていた。だけど、その時はあまり意識してなくて……。
「あぁ。眠れない」
寝過ぎてしまったせいか、変に眠れなくなってしまった。
ふと、枕元に置かれた睡眠薬に手を出そうとしたが、もうこれで何錠飲んだのだろう。このまま飲んだら救急車行きだ。それだけは避けようと思い、そのまま体を布団に預けるように仰向けになり、静かに瞼を閉じた。
*
それから私は、何も答えが見いだせぬまま、何週間か過ごしていた。相変わらず病院で睡眠薬と精神安定剤を貰う毎日は続いているが。
「結局何だったのだろう」
家に帰り、カーテンも閉めきった暗闇の中で天井を見上げながら、何故か夢の中のことを思い出し、考え続けていた。
多分、あの死神が言ったことが、結局頭の中から離れられなかったんだろう。そう思い、時間もあったので、珍しく色々と考えることにした。すると、ある考えが思いつく。
【相反しているけれど、どちらも正しいんじゃないか】と。
しかし、それと同時に、新たな疑問も不思議と湧き出てきた。【実質的に正反対のものが同等に感じられる】のは何故だろう。と。
それから、日が経つに連れ、行きつけの精神科医から、カウンセリングを勧められたので、それも受けることにした。
慣れてきた所で、何週間か前に起きた夢の話も、すべて打ち明けることにした。その中で少しずつだが、自分なりに考えたことがある。
それは、どちらも【その状態で居続ける事が苦痛で恐怖で仕方がない】ということだった。
それならば私は生き続けていてもいいから、流され続けてみたり、時々立ち止まったり、逆走してみたり、突然前を向いて突っ走ったり……。
「自分なりに、色々やってみようかな」
*
それを考えた翌日は、何故か閉めきったカーテンを少しだけ開け、陽を浴びていた。なぜこの行動をとったのか、今思っても分からない。
でもいいんだ。どう足掻いても、どうせ辛くて怖くて仕方ないのだから、これ以上喪う事でもない。
そして、その中でちょっとだけいい事をほんの少しでも楽しい事を見つけれたら海老で鯛を釣ったみたいで得じゃない!
いや、寧ろ、鯛が此方に飛び込んできたらすっごい幸運じゃない!
そんなポジティブに考えついた時は、不思議と何ヶ月かぶりに鏡の前で笑顔になっていた。そして、徐に引き出しにしまいっぱなしにしていた化粧道具を取り出す。
何故かその時は、病院で知り合った人(その人は風邪でたまたま通院していたみたい)に告白され、両想い記念ということで、初めてデートに行く約束もしていたのだ。
その彼はとても好青年で、天使のように微笑んで私に対しても、すごく優しく気軽に接してくれた。
その日の夜、再びいい考えが思いついたようで、布団の中でフフッと微笑む。
全く。今まで何を考えていて、全部を塞ぎ込んでいたのだろう。もうすり減って困るモノなんてないし、ミクロでもプラスにして人生を大往生してやろうじゃない!
死ぬ事なんてどうだっていいの。いつ死のうと問題はないでしょ?
「だって、既に捨てた問いには、意味がないから」
*
答えを導き出した私は、夢の中にある道の中で、再び彼に会うことができた。
そして私から彼に、こう伝えた。
「貴方のおかげで、全部が解けましたよ」
「ああ、おめでとう。良かった。君はやっと答えを見つけたんだね」
すると彼はニンマリと笑いながら、祝いの言葉をかけ、私を暗闇から救い出すかのように、そっと優しく抱きしめてくれた。
「うん。やっと、答えが解った。解ったよ!」
「そっか。なら良かった」
彼は徐にフードを外す。
「う、そ……」
私は思わず絶句した。何故なら死神の正体が、病院で知り合った彼だったからだ。
それからも、彼は微笑みながら、戸惑う私の頭を優しく撫でていた。