勘ぐられても…。
「その後、いかがですか?」
佐田が結に問いかける。
「今日は外出して、仕事に行ってきました。帰り際に発作が起こって、先ほど落ち着いたところです。」
「そうですか。検査の方は?」
「まだハッキリしてません。…あ。もう行かないと。」
時計に目をやると、3時まであと10分足らず。結は急いで席を立つと、佐田も立ち上がった。
「お持ちします。」
結のボストンバッグをひょいと持ち上げて、結の手を取る。
「いや、あの…。手は、いいから。」
「あ。…すみません。」
慌てて手を引っ込めると、並んで歩き出した。これでは、佐田に付き添われて戻ってきたように見えなくもない。知り合いに見られたくないと思っていた矢先に声をかけられた。
「結ー!」
振り返ると、遥だった。視線は佐田に向けられている。
「遥…。」
本当は来てくれてうれしいはずなのに、このタイミングは気まずい。
遥は結の肩を引き寄せると小声で言った。
「ちょっと、このイケメンさん、誰?」
「服屋の店員さん…。運ばれた時の。」
「なんで一緒に歩いてんのよ?」
「スタバで偶然、会っただけよ!」
「偶然、ねえ…。」
遥がニヤニヤしている。
「勘ぐらないでよ。期待するようなこと、何もないから!」
「…あの。時間、大丈夫なんですか?」
佐田の声に結がハッとする。
「あ。いけない!」
小走りで病室へ急ぐ結と、追いかけるように急ぐ佐田。遥から見ると、ただの店員と客には思えない。
「それでは、自分はこれで失礼します。」
佐田は病室の入り口でボストンバッグを結に手渡すと、帰って行った。病室に遥と二人きりになった結は、興味津々だ。
「やっと会いに来たら、えらいところに遭遇しちゃったみたいね。ただの店員さんにしては、ずいぶん親しげじゃない?」
「そんなんじゃないってば。おかしなこと言わないで。」
「結は本当のところ、どう思ってるの?」
「どうって、別に…。」
「ホントは、まんざらでもないんじゃないの?」
痛いところを突かれて黙り込む。
「難しく考えなくてもいいじゃん!本音はどうなの?」
…こんなこと、話していいのかなあ…。
「かっこいいとは思ってるの。でも、近づいて来られて困惑してるの。」
「え?どうして?」
「運ばれた時、付き添ってくれたんだけど、手を握っていたの。それにほぼ毎日、朝か夜に来てるの。」
「結は若く見えるからねー。子持ちの主婦だってこと、知らないんじゃ…?」
「知ってる。恭志とも、ここで会ってる。」
「阿川さん、何も言わないの?何回か会ってるの?」
「別に何も…。会ったのは二回だけ。」
「ふーむ…。確かに、引っかかるね。」
「そうでしょ。最初は、店で発作が起こったから気を遣ってくれてるのかも、と思ってたんだけど、どうもおかしい気がするんだよね。」
「うーん…。あまり良くないわね。」
最初は興味津々でニヤニヤしていた遥も心配そうな顔をしている。
「早く退院したい。佐田さん、時々、手を触ったりするから、なんだか…。ショップに行くのも、なんだかイヤだな。」
「行かないようにすれば?」
「それが、瑠花の服が取り置きしてあるのよ。そうだ。遥、取って来てくれない?。」
「よし、わかった。」
「ごめんね。よろしくね。あと、プレゼントだから瑠花には秘密にしてね。」
翌日、遥は佐田がいるのを確認してから、ショップに入っていった。遥はもちろん、無言で受け取ってくるつもりはない。一言くらい言ってやる気である。
遥は、佐田に近づいて行った。