元カノのことなど。~佐田勇人の記憶~
学生時代に、つきあっていた石野優香は、阿川結さんとそっくりな外見なのだ。手にしていたワンピースをすすめたのも、優香によく似合う系統のデザインだったからだ。
同じ専門学校の同級生で、グループでワイワイやっているうちに付き合いだした。半年ほど付き合った頃、夏休みを利用して優香が足の手術のために入院した。バイトや友達との約束に明け暮れて、あまり足を運べなかった。そんなある日、やっとのことで顔を出したとき、病室で知らない男とキスしているところに遭遇してしまった。
「あなたが悪いのよ!私が、どんな気持ちで入院していたと思ってるの!遊び歩いて、やっと顔を出したのが2週間後って、あんまりじゃないの!」
優香は、謝るどころか、怒りを爆発させ、そのまま俺は病室から追い出され、卒業まで一言も口をきくこともなく、卒業を迎えた。その後どうしているのか、友達に聞けばわかるんだろうけど、俺も知りたくなかったし、友達も気を遣って、俺に優香の話題をすることはなかった。
唯一、入ってきた情報といえば、相手の男がバイト仲間だったということだけ。
今思えば、ほんの少しの時間でも、顔を見に行っていれば、あんなことにならなかっただろう。友達とのつきあいばかりじゃなくて、バイトだって、夏休み中なら、バイトの少し前の時間に病院に寄ることだってできたはずだ。
その後、俺だって彼女ができたりもしたけど、そこまでのめり込むこともないままだ。優香の存在が俺にとって大きかったんだろう。
そして、そんな優香にそっくりな阿川さんに出会って、息が止まるほど驚いた。もう俺に微笑むはずがないだろう彼女が、俺に微笑んだのだから。
そしてさらに驚いたのは、意外に年上だということ。すごく若く見える人だから、結婚していることにも驚いたけど、まさかお子さんがいるなんて思いもしなかった。ご主人もスーツの似合う大人の男性で、俺にはかなわないと思った。でも、どうしてだろう。阿川さんに、結さんに会いたい。
もしかして、入院していた優香をほったらかした罪滅ぼしをしたいのかもしれない。
優香と重ねても仕方ないのだけど、思わず手に触れてしまったりして、俺はどうかしている気がする。しかし、気になって仕方がないのだ。