再会。
「チーフ。お客様がお待ちです。」
佐田が納品された商品のチェックをしていると、スタッフに声をかけられた。売り場に行くと、一人の女性が手を上げた。
「勇人!久しぶり!」
「…どちら様ですか?」
「あたしよ!石野優香!忘れちゃった?」
「え…?」
驚きで声が上ずる。久しぶりなこともあったが、驚くほど老け込んでいたのだ。服装も小綺麗とは言いがたく、可愛らしかった学生の頃の面影はほとんどなかった。
「こないだ、通りすがりに見かけてね。話したいと思ってたの。」
「何か用?」
「え…?」
「何か用かって訊いてんの。俺、仕事中なんだけど。」
「勇人、冷た~い!せっかく会いに来たのに~!ねえ、休憩はいつ?待ってるからお茶しようよ。」
「さっきから売り場で大きな声で、やめてくれよ。」
身勝手なことを、大きな声でポンポンと言う優香に対して、佐田は明らかに苛立っていた。スタッフや客の視線も異常に気になってなおさら苛立っていた。
…昔の優香は、こんなに身勝手だっただろうか?ワガママなところは、あった気はするけど、こんな風だっただろうか?
気づけば、思い出も記憶もあやふやで、優香のどこが好きだったのかさえ思い出せない。
「いいじゃない。久しぶりの再会だもの。お茶しようよ。」
…ふざけんな!
「お客様お帰りです。」
佐田がスタッフに声をかけると、スタッフが一斉に声を上げる。
「ありがとうございました!」
優香は、その勢いに飲まれて、追われるようにショップを出ていった。
「チーフ。先ほどのお客様、良かったんすか?」
「いいです。気にしないでください。」
「でも…。」
「忘れてください。ディスプレイを手伝ってもらえますか?」
「はい…。」
佐田の“触れられたくない”というオーラにスタッフもそれ以上訊くことはなかった。
翌日も、その翌日も優香は何回かやってきたが、スタッフの機転により、二度と取り次がれることはなかった。
佐田にしてみれば、今さら何の用だ、という気持ちと、失望だけだった。そして何より、優香が会いに来たことを、嬉しいどころか、迷惑さえ感じていた自分に驚いていた。時間が残酷なのか?佐田が変わったのか?…どちらにしても、もう優香には会いたくなくなっていた。そして何かが吹っ切れた。佐田の中で長い間、追いかけていたのは、優香の幻想だったことがわかったからだ。
しかし、優香の幻想を通して見ていたとはいえ、結のことを思うとまた何とも言えない気持ちになる佐田だった。