モノ申ス。
「こんにちは。昨日はどうも。」
「あ。どうも。こんにちは。」
遥が話しかけると佐田は頭を下げた。
「阿川結の代理で受け取りに来ました。プレゼント包装でお願いできる?」
「代理?何かあったんですか?」
「まだ長引きそうだから、受け取りを頼まれたのよ。」
…イケメン君だけに、キツいこと言いたくないなあ。
結のことがなければ、文句無しにイイ男なのだ。ラッピングする様子も、イイ男がやっていると、本当に絵になる。
「お待たせいたしました。」
「かわいい包みね。」
「ありがとうございます。ところで、ご容態の方は…?」
佐田が心配そうにきいてくる。
「君は心配しなくても大丈夫よ。」
「え?」
「結には、家族がいるんだから。君はショップ店員としての気遣いは充分果たしたわ。」
…これで、気づいて!キツいことを言いたくない!
遥は祈る気持ちで足早にレジから離れる。見送りをしてもらわなくてもいいから、その場を去りたかった。
「あの、それって…。」
見送りにかこつけるように、佐田が追いかけてきた。
「それって、結さんにとって、ご迷惑ということですか?」
佐田が悲しそうに訊く。
「…結さん?少なくとも、君にそう呼ばれることは望んでないはずよ。」
「あ…。」
言われて初めて、名前を呼んでいたとに気づいた佐田だった。
「結の友人として、お節介させて。真面目なあの子が混乱するようなことはしないで欲しいの。それに若く見えるけど、子持ちのオバサンよ。君の遊び相手にはふさわしくないわ。」
「そんなんじゃ…。」
「じゃあ、失礼するわね。」
言いかける佐田を振り切るようにショップを離れた。
「言いすぎたかな…。」
…いやしかし、“結さん”はおかしいわよ。いいの。いいの。
思い直して、車に乗り込む遥だった。
「ああ。助かった。ありがとう。」
翌日の朝、遥から包みを受け取ってホッとする結。
「阿川さん、病室ヘは、あまり来てないの?」
「接待もあるし、なかなかね…。」
「そっかー。さみしいね。」
遥としては、阿川がもう少し足を運んでいれば、佐田があんなにうろつくこともなかっただろうと思う。しかし、阿川は社内ではトップクラスの商社マン。仕方ないのは結も遥も承知だ。しかし、こういう時ばかりは…。
「イケメン君、相変わらず来てるの?」
「そういえば、一昨日以来、来てないな。」
「そう、よかったね。」
…よかった。さすがにあそこまで言われて、来る人いないよね。
「ところで、瑠花ちゃんのプレゼントって、誕生日済んだばかりだよね?」
「バレエの発表会のご褒美なの。もう今週末なんだよね。見に行けるといいんだけど。」
「外出できないの?」
「一昨日の発作のことがあるから、許可が出るかどうか…。」
「そっかー。見に行けるといいね。」
ーコン、コン。
ノック音がしてドアが開いた。恭志だった。
「どうしたの、こんな時間に?」
「今朝はお客さんのところに直行でね。…遥ちゃん。久しぶり。」
「ご無沙汰しております。」
遥が笑顔で言う。
「今ね、遙に届けてもらったの。瑠花のワンピース。」
「そうか。ありがとな。もう発表会だったね。」
「今週末なんだけど、外出許可が出るかどうかわからないの。恭志、行けそう?」
「ああ。なんとか行けるよ。」
「よろしくね。ところで春樹、どうしてる?メールは時々来てるけど。」
瑠花は母とやってくるが、春樹は塾に遊びに多忙で、なかなかやってこないのだ。
「まあ、何とかやってるよ。メシもちゃんと食ってる。」
「そう…。」
「おっと。もう時間だ。遥ちゃん、ゆっくりしてって。」
恭志がドタバタと出ていった。
「阿川さん、相変わらずご多忙だね。」
「まあね。」
「阿川さん、あの年齢で部長職なんてすごいよね。」
遥も社内結婚なので、社内の事情にはそこそこ詳しい。
「そして結は、その若さで部長夫人だもんね。なんかすごい!」
「何だかねえ、よくわからないよ。」
そんな呑気な会話をしている頃、病院のエントランスで物陰から恭志を見ている人物がいた。
「やっぱりあの風格には勝てないな。惚れ惚れする。」
佐田だった。懲りずにやってきたが、恭志を見かけて反射的に隠れてしまったのだった。