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サロンデビューした日の午後のこと。
授業の間の放課をクラスの女の子達とすごしていると`彼等,の話題になった。
「桃華様はお昼にサロンに顔を出されたとお聞きしましたわ」
「まぁ!サロンに?」
「さすが桃華様ですわ!」
周りの女の子達が口々に誉めてくれるけど……一体何故そんなに称賛されるのだろう?
「いってきましたが……サロンに何かあるのですか?」
首を傾げて尋ねれば、女の子達の頬が赤くなる。
「桃華様……お美しさも流石ですわ」
「サロンには王子達も行かれたと聞きましたの」
王子達も??王子とは?
……いや、心当たりはあるけど。
「王子とは……どなたの事ですか?」
苦笑と共に聞き返せば、そういえば桃華様と彼等の話題をすることはなったと頷かれた。
「碧の王子こと、松宮輝石様」
「蒼の王子こと、睦峰優様」
「紅蓮の王子こと、赤城龍雅様」
「あとは久東光様も橙の王子と呼ばれていますわ」
やっぱりあの人達か。
入学して日も浅いのにもうそんな呼び名がついているのね。
……本人達は知らないんだろうな。
「確かに三人ともいました。光もです」
答えればきゃあきゃあと女の子達のテンションが上がった。
うーん……よく笑う子たちだな。
「よかったらサロンの話を聞かせてくださいませんか?」
恐る恐るといった様子で言う女の子に微笑み頷けば他の子達からも感謝の言葉が返ってきた。
光とサロンで見た三人のことを中心に彼女達に話をする。
サロンのことを、と言われたけど聞きたいのは王子の事だってことはわかりきっているのだからサロンの様子なんかは話の端に出る程度だ。
皆の反応が良いので話すのは面白い。
そんな話をしているうちに放課は終わり授業が始まるからと私達は解散する。
また聞かせてほしいと頼まれたので、サロンに行った日は彼女達に情報を提供するとしよう。
席に戻り気づいたけど……
さっきの中に桃城くんの名前はなかったな。
王子のなかに含まれていないのかな?
放課後は相変わらず教室に迎えに来る光と共に部室棟へと向かう。
最近は通いなれてしまった廃棄物の間を通る道のりに複雑な気分になるけど気にしないことにしよう。
部室の扉をノックして開くと黄金先輩はまだ来ていないみたいだ。
明るい部屋の背面を占める窓に近より外向きに開くと心地よい風が吹き込む。
うん、やっぱりこの部屋は特別だ。
ちなみに窓の外には学園の裏庭が広がっている。
裏庭といっても立派な庭園であることに変わりはなく、季節の花達が咲き誇り美しい景色に今日も癒された。
「桃華?お茶入れるけど飲むよね?」
「はい、お菓子はフルーツケーキを持ってきています」
部屋に溶け込んだアンティーク調のテーブルにつけば光がティーカップを持ってきてくれた。
「また黄金先輩が変なものを拾ってきたみたいだね」
光の視線を追うと奇怪な形のじょうろ?が置かれていた。
ちなみに私達がはじめて先輩にあったときに抱えていたおかしなものは頭のない猪の貯金箱だった。
…………家具の趣味はいいと思うけど変わったものを見つけると収集する癖があるらしい。
収集した物は一週間は部室におかれ、そのあと持ち帰られるのか忽然と部室から消えている。
「お?二人とも今日は早いなぁ」
「「おはようございます」」
先輩が新しい鉢植えを抱えて現れた。
あれは……なんの花だろう?
蔦植物?………え、今うごかなかった??
気のせいだよね?
いつもと同じようにお菓子とお茶でくつろぎつつ、花を愛でる。
「今日は私が水やりをしに行きたいです」
部室以外にも緑化委員会(仮)の管理する花があるためそちらの世話をすることも大事な部活内容だ。
「ええで~」
「一人で大丈夫?」
ヒラヒラと手を振る黄金先輩とにっこりと笑いながら聞いてくる光。
「大丈夫、です」
さすがにそのくらいできますよ!
「……過保護な騎士やなぁ」
先輩にも苦笑されてしまった。
さて、と。
水やりツアーにいきましょう。
学園のいろいろな場所にある黄金先輩の鉢植えたち。
それを回って水をあげなくては。
部屋の片隅の変なじょうろは遠慮して、普通の銀のじょうろを片手に部室を出る。
部室棟の中を回り終え、特別教室棟へ向かう。
部活の時間は十分にあるためゆっくりとした歩調で鉢植えを回っていく。
特別教室棟の中はまだ授業で使うことは少なく普通の新入生ならまだ知らない場所ばかりなのだろうけど……
私はこの水やりツアーのおかげでそろそろ部屋の配置を覚えられそうだ。
「こほっ………ケホッけほ…」
誰かいるのかな?
廊下の奥の教室から咳き込む声が聞こえてくる。
調子が悪そうな声に心配になり近寄って扉をノックする。
「大丈夫ですか?」
声をかけても咳き込む声がやまない。
これは……助けたほうがいいのではないかな。
「扉、開けます」
宣言と同時に扉を開ければ、ここは理科室?か実験室のような場所らしい。
部屋の奥に進むと機材の積まれた机の奥に白衣を着た誰かが蹲り咳き込んでいた。
「大丈夫ですか?薬などはありますか?」
隣にしゃがみ背中を撫でれば白衣の人の指先が少し離れたところにある鞄を指差した。
薬があるということですね?
「鞄を開けることを許してください……これですね」
鞄にあった吸飲薬を持ち白衣の人へ渡せば、薬を飲んでくれた。
しばらくすると咳も落ち着いたみたいだ。
大丈夫そうになったので背中から手を離すと、はじめて白衣の人がこちらに視線を向けた。
………あ。
この人の顔を見たことがある気がする。