7
六人掛けのテーブルに私と光が並んで座り、その正面に三人が座る。
一気に美形密度の増したこの辺りに女子の視線がちらちらと向けられているのを感じる。
慣れているのか三人も光も動じないけど。
……もちろん私もこの内心の冷や汗を表に出したりはしない。
「僕たちはここに来るのが初めてだから知ってる人もいなくて二人でいたんだよ」
「そうでしたか、我々も今日が最初なんですよ」
光と最初に話しかけてきた眼鏡の男の子がにこやかに会話をする中。
「「「………」」」
私とほか三人は無言を貫く。
笑顔を装備したまま二人の話を聞いている私。
帰りたいと呟いていた色素の薄い髪と無表情だけど可愛い顔をした男の子はお菓子をもくもくと食べている。
無言で立っていた男の子は相変わらず一言も発さず眉間の皺と組まれた腕が不機嫌を体現している。
……なんだこの空間は。
「見たところお二方も一年生なのでしょう?」
「そうだよ僕は久東光、Aクラスだよ」
自己紹介が始まったみたいだ。
「水無月桃華です、Bクラスです」
お二方、と呼ばれているということは私にも聞いているのだろうと思い続けて名乗る。
「私は松宮輝石と申します、Dクラスですね」
Dクラスってことは隣の隣?
廊下とかで見たことあったかな?
私たちの会話を聞いていたのか、お菓子を食べていた男の子も手を止めた。
「…………睦峰優Dクラス」
表情が薄いだけじゃなく声も平坦で少し小さい。
それだけ言うと用は済んだとばかりにお菓子へと視線が戻された。
「赤城龍雅だ」
なぜか睨まれたのだけど……何か彼にしただろうか?
「龍雅もDクラスなんですよ、彼の機嫌はいつもだいたい悪いので気にしないでくださいね」
松宮くんの補足説明に赤城くんは舌打ちを返している。
『松宮輝石』丁寧な言葉遣いと物腰に惑わされることなかれ、腹黒魔王と名高いキャラクターだ。
成績がいいだけではなく回転も速い彼の頭は侮っていると確実に痛い目に合う。
攻略対象者であることをのぞいても注意の必要な相手だと思う。
『睦峰優』色素の薄い茶色の髪と可愛い顔で人気の高いキャラクター。
人見知りが激しく感情の起伏も基本的には少ない。
しかし懐くとどこまでも甘え、一歩間違えればヤンデレと言われる程になる。
『赤城龍雅』唯我独尊を地で行く俺様男子。
笑顔の貴重さは国宝級とまで言われる。
熱い男であることと何事にも真剣に取り組む態度は男女どちらからも尊敬される。
と、浮かんでくる知識を整理してみたけど……
見ればわかることばかりのような気がする。
松宮くんの言葉と笑顔は少し怖い、武道で鍛えた勘が告げているから本能的な怖さなのかな。
……ん?睦峰くんが小さく身動ぎした?
あーあのチョコレートがおいしかったのか。
うん、わかるよその気持ち。
「……ほしいの?」
「あ、すみません……」
見ていたら目が合った。
どうやら欲しがっていると思われたらしい。
確かに少し羨ましく見てはいたけど。
チョコを受け取り食べれば、やっぱりおいしい。
このチョコのメーカー調べて取り寄せるとしよう。
「……こっちのマカロンも美味しかった」
ピンクのマカロンを睦峰くんに渡されたのでそれも食べる。
「おいしい……です、ありがとうございます」
このマカロンも取り寄せ決定。
「優が懐くとは…水無月嬢はすごいですね」
「桃華お菓子食べれてよかったね~」
保護者二人に生暖かく見守られていることも知らず、私と睦峰くんはお菓子を交換しつつ食べているのだった。
ちなみに、赤城くんは黙々とコーヒーを飲んでいる。
そんなに飲んだら午後の授業はうとうとせずに済みそうだね。
「ではそろそろ昼放課も終わりそうですから我々はお暇します」
「うん、また来週ね~」
松宮くんの言葉に他の2人も立ち上がり一礼の後出ていった。
手を振り見送った私たちだがあることに引っかかった。
「また来週とは何のことですか?」
「毎週水曜日はここで会おうって話してたの聞いてなかったの?」
聞いてない。
いつの間にそんな取りきめを……
「桃華もここのお菓子気に入ったみたいだしいいでしょ?」
決まっていることの許可を求められても……
「うん、お菓子食べていいなら頑張ります」
2人でサロンを出て廊下を進む。
一息に三人も出会うことになるとは……