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入学式から幾日か過ぎ、私と光は黄金先輩の部活に入部した。
朝は毎日光と共に車通い。
教室では隣の席の桃城くんと話したり他の子達と友達になったりと交友を広げた。
放課後はあの部屋でアンティークに囲まれお茶をしている日々だ。
立て続けに攻略対象に遭遇したので警戒していたけれど、新しい攻略対象者と出会うこともなく平和に過ごしていた。
ここ数日は確かに平和だった。
けれどその平穏も今日は期待できそうにない。
サロン利用可能者を集めたお茶会が今日のお昼に開かれるらしいのだ。
「桃華……そんなに嫌なの?」
サロンへと向かう道すがら光が首をかしげ聞いてきた。
「私はあまり大勢の人が集まる場所は好きではないと知っていますよね?」
「でもサロンの集まりなんてお夜会なんかよりは全然少ないよ?」
そうですけど……会うじゃないですか確実に、攻略対象者たちに!
サロン利用しないから参加免除してもらえませんかね……?
「……同世代の人たちは初めてなので」
「それもそっか、慣れるまでは僕と居たらいいよ」
頭に軽く置かれた手が二度三度と撫でて離れていった。
「モモと光がこれで付き合ってないんだからびっくりだよな」
反対側を歩く桃城くんが溜息をついている。
桃城くんもサロン利用者、というわけではなくサロンへ行く道の途中にある購買まで一緒に歩いてきたのだ。
「幼馴染です、なぜびっくりですか?」
私の問いに眉間を抑えて首を振っています。
答えるつもりはない、と。
「モモに過保護な光もほどほどになー」
「過保護というほどでもありませんよ?」
「はぁ……」
そういえば、私のことを桃華と呼んでいた桃城くんはいつの間にかモモと呼ぶようになった。
教室でもいろいろと世話を焼いてくれている。
というか、だいたい一緒にいる。
女の子とお友達になるのに少し時間がかかったのは桃城くんが近くにいたからだと思う。
購買で桃城くんと別れ、サロンへとついた。
入学から初めて来たけど……随分重そうな扉だ。
両サイドに立つ生徒が私たちの顔を見て扉を開いてくれた。
……サロン利用者の顔は覚えてるってことね。
光の一歩後ろに立つようにしてサロンへと進む。
あそこに見えるのはシャンデリアですね。
そして向こうにあるのは製造ナンバーのついたとある工芸家の国宝級グランドピアノですよね?
なんというか……派手な部屋。
椅子もホテルのロビーにあるようなソファーだし。
花瓶なんて割ったら家が建てられるくらいのお金が発生しそう。
なんて、部屋の様子に視線を走らせるのも一瞬のこと。
すぐに上座に座る、現中等部生徒会長の元へと歩いていく。
通りすぎる途中にも先輩方や良家のご子息ご令嬢がいるので二人揃って挨拶をしながら進む。
「「本日はこのような場を設けていただき、ありがとうございます」」
声を合わせて揃って礼をする。
「ようこそ限られた者の集う場所へ、心行くまでくつろいでいくといい」
「「ありがとうございます」」
なんというか……貴族思考な人だ。
生まれに誇りを持つのは大切なことだとは思うけど。
入学式で名乗っていたから名前は知っているけど今後関わることのない予定なので会長とだけ記憶しておこう。
彼は攻略対象者ではない。
サポートキャラというかイベントを攻略する過程で踏み台にされるキャラだ。
主にあの‛庶民'を見下した態度が引き金でおこる。
光と会長から離れ空いているテーブルに並んで座る。
周りの人とは少し離れたピアノに一番近い席だ。
「さすがに桃華も水無月の姫と言われるだけの事はあるね」
「……どういう意味ですか?」
にっこりとほほ笑む顔をそのままに首を傾げて見せれば、光は楽しげな笑みを浮かべた。
「その笑顔と態度の事だよ?あれだけ嫌がってたのにね」
周りに人がいないからってここでそれを言いますか。
「一応お招きされているので最低限の礼儀ですよ」
外でにこにこしといて損はないから、とはお母様の受け売りだ。
「外向きの桃華は人当たり良いもんね」
「それは家の中では悪いということですか?」
さっきから失礼なことを言う。
私は最低限の水無月桃華としての義務を果たしているだけであって、ここに来て特別なことをしているわけではない。
もし普段より笑顔が上手く作れているのならそれは私の成長であって、けしてここまで攻略対象者に会ってないから機嫌良く順調に事を進められているわけではない、と思う。
「家の中では口調から違うでしょ?」
「それは……そうですが」
他人との会話手段を敬語に完全に変えたとき家の者にも同じように敬語で話した時に泣いてやめてくれと言われれば、敬語で話すわけにもいかないでしょう。
光は言いよどんだ私にテーブルの上のチョコレートを差し出した。
「はい、甘いもの好きでしょ?」
「はい……いただきます」
チョコを受け取り口に含めばほろりと広がる甘味に作ったものではない笑みに頬が緩む。
これは、おいしい…………
「桃華の実は単純なところが僕は好ましいと思うよ」
馬鹿にされている気がするけど、もう一つと渡されたチョコが先だ。
「お二方、すまないがこの席に座ってもかまいませんか?」
光以外に聞こえた声にテーブルの上のお菓子たちから視線を上げると、素晴らしく美形な男の子が三人立っていた。
「かまわないよ、桃華もいいよね?」
「ぁ、はい……構いません」
ここでまさか相席することになるとは……
「すまない、お二方の邪魔をするつもりはなかったのですが」
「………帰ろうよ」
「………」
三者三様というか一気に来たのね、攻略対象者の皆さん。