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完全に日が落ちた町は提灯の灯りと屋台の明かりに照らされ人々の賑やかな声で活気に満ちどこか普段とは違う艶やかな町の雰囲気に特別な夜であることを感じますね。
「水無月桃華」
「う……お迎えありがとうございます」
「お前は何なんだ全く」
夕飯からしばらく射的とか金魚すくいもしたいよね、という流れになりましてまた人波に混ざったわけですが、早々に迷子ですよ。誰がって?私がですよ!!!人多いんですもん。皆さん背が高いからいいですけどね、私は人並み平均的なので人混みでは回りが見えないんですよ?と心のなかで言い訳してもしょうがないですね。周りに気をとられてついていかなかった私が悪いですすみませんでした。
さて、迷子になった私の第一発見者はなんと赤城様です。申し訳ないですねーーよりによってこの人ってところが罪悪感に拍車をかけてます。
ため息吐かれましたよ。舌打ちされなくなったのはここ数ヵ月の成長ですね。新密度上がってるみたいで何より。
「ご迷惑をお掛けしました」
「フン……久東が心配している戻るぞ」
「また、怒られる…そうですね今度は気を付けます」
光が怒ってることまちがいない。
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赤城様が片手で電話をかけつつ片手で私の手首を確保して連れていかれた先はお社のわきにある空きスペース。ここで他の皆さんを待つんですねわかりました。
「桃華!君って子はどうして毎回問題を起こすのかな??」
「反省してます」
激おこですね。
不注意で迷子になった私が悪いですちゃんと聞きましょうか。
「にしてもモモ達随分仲良くなったんだな~」
「?なにがですか??」
「手つないで歩けるほど仲良くなったみたいで良かったな!」
「……?!!これは違う!こいつがぼさっとしてるから!」
あーこの手首ですね。桃城くんが合流すると同時に離されてはいましたけど、見てたんですね~
「……手繋いだら…迷子にならない」
「へ?あ、はい」
睦峰様が手を差し出してきました。手を繋ごうってことか。差し出された手を握れば握り返してくれた。あ、赤城様がまた怖い顔していますよ。相変わらず睦峰様の事好きすぎですね。
「優は水無月嬢の事ほんとにお気に入りですね」
「桃華を捕まえておいてね」
保護者が何か言ってます。
さて、睦峰様は大あん巻きの屋台に行きたいみたいですからお供しましょうか。
わたしはカスタードがいいですね。白玉入りならあんこにしましょうか。
「俺も俺も!」
「桃城くんもあん巻き食べたいのですか?」
「ん?俺は隣の串カツがいいな」
睦峰様とつないでいる反対の手を桃城くんがつないでくれました。厳重な護送ですねぇ。
「水無月嬢はあのままでいいんですか?」
「桃華にはそういう感情は一方通行だから苦労すると思うよ」
「なるほど、経験談ですか?」
「どうだろうね?でも人たらしなのは昔からだよ」
「優があぁですからね説得力がありますよ」
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「ここ、特等席なんです」
「毎年お世話になってるね」
花火の打ち上げまであと少しとなったころ、私たちは神社に戻りお社の裏手にたつ大きな倉の屋根裏に忍び込んでいます。
「いいのですか?こんなところに入ってしまって…」
「大丈夫です!毎年のことなので神主様も見て見ぬふりしてくださいます」
「え、許可とってないのかよ」
「暗黙の了解ってやつだよ」
皆さんを案内した私と光で代わる代わる答えればやれやれと、いった雰囲気で見返されました。大丈夫ですよ小さい頃からここに登っているのも、登るのを見越した神主様と家の人がわざわざ梯子を下ろしておいてくださるからですし。そのためにこの倉には電気が通ってますから足元も危なくないんです。屋根裏にしては綺麗に片付けられ窓のそばには敷物が敷いてありますし。私と光の夏祭り限定の秘密基地は昔から大人にはバレバレでした。
去年までは広かったこの場所もさすがに6人でとなると少し手狭です。皆が思い思いの場所に腰を落ち着けたところで窓の外に視線を向ければ、見下ろす景色は花火に彩られました。
「スゲー!!綺麗だな!!!!!」
提灯明かりの灯る町並みと見下ろす川からうち上がる花火が視界いっぱいに広がるこの景色は、私たちの特等席です。
「去年まではこんな大勢でここに来ることになるなんて思わなかったね」
「そうですね、こんなにお友達が増えるなんて思いませんでした」
「よかったね、桃華」
「はい」
去年までは家に呼べるお友達は光しかいなかったから。このお祭りに一緒に来るのはいつも光で、こんな風にたくさんの友達を家族に紹介して変わらず一緒に過ごしてくれるようになるなんて、ね。
「『来年も一緒にきたいね』」
隣にいる光が花火を背に振り替えり微笑む姿に感じた既視感。ここは、そう、だったんですね。なぜ今まで気づかなかったのか。この景色は彼の『久東光』のエンディング場面。浴衣の光が記憶の中の少し大人びた『久東光』と重なって酷く感情が乱れる。
窓の外に視線を戻した光の横顔に、私だけがここに取り残されたような、そんな心地になる。
そうか、『夏祭り』のイベントはこれだったのか。
ヒロインが夏休みに浴衣の彼らと過ごしたのは、『水無月の夏祭り』だったんだね。




