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さて、久々に少しピンチかもしれません。


こんにちは夏休み中の水無月桃華です。


ここはとあるお嬢様のお屋敷の一室。

お誕生日会に招待されたので来たのは良いものの……

通されたお部屋に他の招待客はおらず、良い笑顔の主催者がおりました。


「桃華様とこうしてお話のできる機会が持てるなんて(わたくし)光栄ですわ」


色素の薄いセミロングの髪を緩く巻き、ピンクのリボンでハーフアップにしている姿は、その笑みと相まってとても可愛らしい。

可愛いのだけど………この子、目が笑ってないんですよねぇ。


「私の名前は夏目クルス、お顔を合わせるのは初めてですわね」


「はい、私は水無月桃華です。ご招待ありがとうございます」



夏目家は世界的なブランド会社を一族で営んでいる。

中々に大きなお家だったと記憶している。

ところでどうして初対面の夏目様のお誕生日会の御呼ばれに応えたかといいますと、お察しかとは思うのですが『夏目クルス』この人も知ってる名前でしたね!

そろそろお腹いっぱいですよ!!!!!


黄金先輩と同様、二周目以降の遭遇となるお方です。

出会うのは先輩と同じくらいの確立、即ちレアキャラですが。

で、極力回避していく方針の私がなぜ自ら赴いたかというと、この人に関しては好感度がゼロの状態でご機嫌を損ねるわけにはいかないからだ。

主に私の死亡フラグ的な意味で。


回数を重ねるごとにクリア条件が上がり難しくなる仕様だけならまだしも、相手によっては主人公を想った人によって葬り去られるルートも出てくるのがこの『君プリ』というゲームの怖いところだ。

もちろん『水無月桃華』はその対象となるのだが場合によって主人公もデッドエンドが待ち受けている。

御分かりだろうか、この『夏目クルス』そのテンプレの人物だ。



「今お食事を運ばせますわ、どうぞ寛いでくださいませ」

「ありがとうございます」


入学からここまで、見かけなかったから中等部の間は大丈夫だと思っていた。

その判断は甘かったみたいだけど。

なぜ呼ばれたのか見当もつかないという後手に回る結果になってしまった。

むしろ貴女はどこで私を知ったのですかな??桃華はとても気になります。


「桃華様は私の事をご存じでして?」

「お名前は存じております」


おぅふ、どうにもこうにも愛想の欠片もない言葉しか飛び出してこないのは日ごろのハイブリット生活の応酬か。

顔はふんわり笑顔で固定のはずだけど、これでは上手く笑えている自信がないわ。


「ふふっ桃華様のその物言い素敵。私、頭がいい人って大好きなの」

「……お褒めに預かり光栄です?」



どうしよう、なんか良く分からないけど好かれた?のか???

料理の味もわからない程に緊張しながらの食事は初めてかもしれない。

そして私にはこの子が良く分からない。

近くに光もいないしお兄様もいないのがどうにも心細い。

家に帰ったらお兄様に思いっきり甘えることが今決まった。


くすくすと可愛らしく笑う夏目様の促しで運ばれてきた昼食に手を付ける。

毒が仕込まれてないかとかそんな心配はしていないけれど……

まじまじと見られながらの食事はやっぱり居心地が悪い。

同時に行われる感覚としては尋問に近い談笑もとても疲れる。


私の趣味や好みのお茶の種類なんてどうでもいいでしょうに。




*****




「本日はお招きいただきありがとうございました」


「こちらこそ、ですわ」



蛇に睨まれたカエルよろしくな心境のまま過ごすこと数時間。

とてもストレスでした。


お屋敷の門まで送ってくださった夏目様に会釈をして車へ乗り込む。


「また学校で、会いましたらよろしくお願いしますわ」

「はい、今度は我が家にもお越しください」


開いた窓越しに手を振ってくださったので振り返し運転手へ出すように告げる。

角を曲がるまでそのまま見送ってくださったのは嬉しいのだけど…それ程好かれたということであればいいなぁ。


ついつい零れた溜息と一緒に体の力を抜く。

とても、つかれた。


「お嬢の新しいご友人ですかい?」

「そう、だといいのだけど」

「お嬢と過ごされたのでしたらきっと皆お嬢のとりこに決まってまさぁ」

「……ふふっ、貴方たちくらいだと思うけど」

「なんてったって俺たちのお嬢ですからねぃ」

「ありがとう」



相変わらずの身内贔屓だとかは置いといて、家族に愛されているのがわかるのは嬉しい。

私には人よりたくさんの家族がいて幸せだなーと、しみじみ思う。


「夏目の家ってうちと取引とかあった?」

「夏目ですかい……取引はないと思いまさぁ」

「……そう」


接触の理由がわからないな。

学内で目立ちすぎた、とかかな?


ひとまずは考えたところで無駄と判断する。



家についたらお兄様に構ってもらうとしよう、そうしよう。





*****



「ただいま戻りました!お兄様!!」

「ん、桃華おかえりなさい」

「桃華ちゃんおかえりーおじゃましてまーす」


リビングの扉を開けつつ声をかければどうやらお客様がいたらしい。

お兄様の前でなんという失態。

今日一凹みます。


と、お客様はいつぞやのお兄様のご友人でしたか。

ぎりぎりセーフですね。


「相変わらずのシスコンだなー杏璃」

「うるさい帰れ」


お兄様の笑顔プライスレス。



「やれやれ、桃華ちゃんが帰ってきた途端これだよまったくー」

「気安く呼ぶな帰れ」


お兄様が手招きしてくださったのでお隣に腰を下ろす。

反対側にはお兄様のご友人がいらっしゃる。


「お兄様?お邪魔でしたら部屋に戻っていますよ?」

「桃華が邪魔なわけないだろう?」


お兄様がっ頭を撫でてくださいました!!!!!

もう今日の疲れなんて吹っ飛びましたよもちろん。


「うわ……杏璃のあんな声初めて聞いたわー砂糖吐きそう」

「だまれ帰れ」


これ以上はお邪魔になるだろうし部屋に戻ることにしようかな。


「お兄様、私道場の方へ行ってきますね」

「そう、ケガをしないようにね」

「はい!ご学友の方もごゆっくりお過ごしくださいませ」

「はーい桃華ちゃんありがとー」

「桃華を見るな帰れ」




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