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青々とした樹木が風に揺れ爽やかな音を奏でる今日この頃。
眩しいほどの晴天の下、いつかのガゼボで私は1人物思いに耽っていた。
なぜ私がこの場に1人なのか。
それは放課後のこの時間、この季節に外に出られるのが私だけだからだ。
今は放課後、部活動を行う時間すなわち緑化委員(仮)の活動時間だ。
私達の部活には植物を愛でる以外にも活動があることがわかったのはつい先日。
黄金先輩の言葉で発覚した。
いわく、この裏庭には野生の動物が何種類かいるらしい。
その子達が新入生のざわつきに慣れるこの時期裏庭のこの辺りにも出るようになるとか。
そしてこの動物達に餌をやるのも私達の活動の1つなのだという。
なるほど。
そういえば入学当初、私達が活動内容を聞いたときに緑化委員の活動とかいろいろと言っていたような気がするしこれがそのいろいろの部分なのだろう。
それはわかった。
動物も好きだから活動自体は構わない。
でも、この学校って動物舎もありましたよね???
飼育委員ももちろん存在していたはずだ。
そもそも野生の動物が何種類かいる、っていうのがおかしい。
言い方と持たされた餌を見るに野良猫や野良犬の類いだけではなさそうだ。
だって猫も犬も皮のついたまるごとリンゴなんて食べないはずだし。
そもそも、そんな未知の状態で私が1人ここにいることもまたおかしい。
先輩と光、睦峰様はなぜここにいないのか。
理由は2つ。
まず睦峰様はとてもとても人見知りである。
それは、人に限らないらしく……動物に対しても発揮されるらしい。
人見知りって言葉に当てはめても良いのかは謎だけど。
とにかく、人懐っこい動物でも突然寄ってこられると盛大に嫌なんだとか。
………どっちが野生の動物かわからなくなる。
と、いうことでひとまず今回は部室からこっちを双眼鏡で見ているとか。
部室からここは一直線、木々の隙間を通してこっちの様子は向こうから見ることができるとのこと。
そしてもう1つの理由はあとの二人にあてはまる。
彼らは今時期外には出られない。
『花粉症』という季節の弊害によって。
スギ花粉が終わってから発症するらしい二人は初めてであった同志に手を取り合って辛さを分かち合っていた。
ちなみに私はアレルギーの類とは縁のない人生を送っております。
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さて、諸々の事情はさておきいい加減待ちくたびれて眠ってしまいそうだ。
暖かい日差しと爽やかな風、耳に心地好い木々のざわめき。
気持ちよくお昼寝が出来る環境以外の何物でもない。
机に突っ伏したいのをこらえて眠たい目をこすっていると後ろから背中をつつかれた。
「……」
「………」
突いてきた生き物と目があった。
「えっと……野生の…ゾウ?」
そんなまさか。
野生で生息するものでしたっけ??
むしろなぜ今まで一度も遭遇してこなかったのか謎すぎる。
とりあえず、まるごと一個リンゴを与えておこう。
器用に鼻で掴み食べてくれた。
うん、可愛いかもしれない。
無言のままリンゴやらバナナやら与えていると、木々の奥から更なる動物たちが姿を現した。
犬、猫、ウサギ、リス、鹿、イノシシ。
最初のお客さんが衝撃的過ぎてあまり驚きはない。
近寄ってくるものには手から与え、そうでないものには少し離れたところに置き食べてくれるようにする。
それぞれ十分に食べてくれているようで何より。
食べ終わりじゃれてくる動物を撫でつつ思いだした。
『睦峰優』を攻略した時のエンドロールには、ここにいる生き物たちとガゼボをバックに戯れている画像があった。
なるほど、こういう事だったのか。
そのうち睦峰様もこの子達になれる時が来るってことがわかっただけかな。
もふもふ好きな私としては、この動物たちとの時間は中々有意義だ。
睦峰様もはやく慣れればいいのに。
携帯で写真に収め部室の面々に送信する。
癒しのお裾分けです。




