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「と、いうわけでテストお疲れ様会はっじめまーす!」


大きな声で告げられた開会宣言に、キィィィン……と、マイクがハウリングを起こした。

マイクを握るのは桃城くん。

「わ、わー…?」

光の控え目な歓声が応える。

それに合わせて私と松宮君、睦峰様の拍手が贈られた。




ここはそう。

私たちの未開の地、カラオケルームでございます。



流行りの歌手の映るテレビ画面を背に立つ桃城くんに全員の視線が注目している。

あ、睦峰様の視線だけはお食事メニューに釘づけだった。

隣の松宮様をつつき、デザートのコーナーを指さしている。

松宮様もメニューを見て目を丸くして睦峰様に笑顔を返し、たぶん少し待つように伝えていた。

赤城様はソファーの角に収まり桃城くんの様子を観察しているみたいだ。


「えーっとここがカラオケだってのはわかってくれたみたいだから次の説明するな?」

桃城君の苦笑に少し同情してしまう。

ここに来るまでもまた大変だったからだ。


まず現地集合にしたのが間違いだったのだと思う。

それぞれが自分の家の車でここまで来たのは良いのだけれど、次々と来るリムジンやら海外の高級車やらに人だかりができてしまい、一時の混乱を招いてしまった。

それでカラオケ店の店長さんが出てきて、学生のグループに対するにはおかしいのだろう仰々しい接客を受けることとなった。

桃城くんが普通でいいと交渉してくれたので普通のお客さんのようにカウンターで手続きをすることとなり、諸々の手続きは彼が全てやってくれた。


ちなみに他の人達は私も含めて、お店の外の喧騒は気にならず始めてきた場所に興味深々。

店長さんや店員さんの視線は放置して店内の様子にはしゃいでおりました。

外の人ごみは私たちの誰かの家の人達が散らしてくれたと思うたぶん。


フリードリンクの制度に驚き、いくつも部屋の並ぶ様子に驚き、感じたことのない雰囲気にそわそわしながら部屋へと移動した。


それから各自ソファーへ収まり冒頭の桃城君のスピーチへとつながるのだ。



「――……と、そういう訳だからまずは何か歌おうぜ!」



桃城くんがしてくれた説明によるとここの部屋はそれぞれ防音設備が整ってるから盛大に騒げると、そして他の食事処と違い密室のため少々羽目を外しても咎める人間がいない。

だから学生や若者、時には大人もこのカラオケという場所を利用して騒ぐのだという。


桃城君の手にした機械を使えば歌いたい歌を探すことができるらしい。

ほい、と光に手渡すと松宮様と睦峰様のところへ行き料理の頼み方を教えている。

二人の様子に気付いていたのか。


ふむふむと聞いていた松宮様は了解したとばかりに頷き、出入口のそばの受話器を手に取った。

「はい、注文です。バラエティパックとイチゴパフェ、ホットケーキと焼きプリンそれから……」

どれだけ頼むんですか。

唖然として隣の睦峰様を見れば、意図は伝わったらしい。

「……ひとまず…溶ける」

あ、まだまだ序の口ということですか。

「そうですか…」


そんなことを話している間に光が一曲目を入れたみたいだ。

某有名アイドルが歌う今期のドラマの主題歌、だったか。

桃城君からマイクをもらって歌いだした。

……上手いですね。


「モモは何歌うんだー?」

桃城くんが機械の画面を見せつつ聞いて来ました。

「私ですか……今までに貸していただいた歌手の曲なら歌えるかと思います」

桃城君はよくCDや漫画を貸してくれる。

前回は恋の歌がたくさん入った女性のアーティストだった。

ちなみに今は海賊王を目指す少年が主人公の漫画を借りている。

「じゃー適当に入れとくな!」

「ありがとうございます」

桃城君はカラオケ玄人なのか機械の操作もお手の物ですね。


私たちの会話の間にも光は歌っているし、赤城様は興味深げに料理のメニューを見ている。

松宮様と睦峰様は次々と運ばれる料理達を食べているし各自楽しんでいるみたいだ。


私の元を離れた桃城君は赤城様のところに話しかけに行った。

桃城くんには気を遣わせてしまっているし、彼にも楽しんでほしいのだけど…

「次、桃華が歌うんだよね?」

はい、と光がマイクをくれた。

桃城くんの事を言えば、光は少し考えて何かにひらめいたらしい。

「桃華がとびっきり可愛く歌ってあげたらいいんじゃないかな?」

「光……何を言いだすんですか」

この人私が思っていた以上にハイテンションだったみたいだ。

素敵な笑顔で言ってることがちょっとおかしい。

「僕も桃華の可愛く歌ってるところ見たいし」

なんとも反応に困る。

「それにあの曲なら踊りもできるでしょう?」

そういえば前にテレビで光と一緒に見ましたっけ。

「……頑張ったら褒めてくださいね」

「もちろんだよ、いってらっしゃい」

満面の笑みの光に送り出されるのでした。

「モモやる気だな!がんばれー!」

桃城くんの声援に応えつつ、さっきまで彼がスピーチをしていた場所にたち曲に合わせて動く。


「桃華もテンション高いね」

「……光…楽しそう」

「桃華嬢の意外な一面ですね~」

「……」

「いいぞーモモー!歌上手い!!」


せっかくなので、盛大に羽目を外すのもいいでしょう。

私たちしかいないこの空間なら多少の事は許されそうですし?

こんな風に歌って踊るのもとても楽しいから。

自分の番が終われば、桃城くんや他の人達も歌う。

光がマラカスやタンバリンを見つけて、それを触りつつ楽しんだ。





*****




「やー楽しかったな!」

会計を終えてお店から少し歩きつつ話す。

最初の時のことを思って車は少し離れたところに来てもらう事にしたからだ。

「また来たいですね~」

「…まぁまた来てもいいな」

「……龍雅…楽しかったって」

睦峰様たちもそれぞれ楽しんだみたいだ。

主に、食事を中心にたまに歌いつつ。

赤城様の歌う洋楽も松宮様の歌うバラードも睦峰様の演歌も皆さんお上手でした。

一部、ものすごく意外な選曲の人もいたけど。


三人は帰りは同じ車で帰るらしい。

車で帰っていくのを見送り私たち三人もうちの車に乗り込む。

桃城くんと光も送っていくことになっている。


「今日はありがとうございました」

「大樹のおかげですごく楽しかったよ」

最後まで私たちのために気をまわしてくれていたし、本当にお世話になった。

「いやー勉強見てもらったし、俺も楽しかったからお礼なんていいよ!」

桃城くんは本当にいい人ですね。

「また、一緒に来てくれますか?」

「もっちろんだろ!また皆で来ような!」

笑顔で返してくれた。

光も嬉しそうだし、本当に今日は楽しかった。


次はゲームセンターにでも案内したら面白いだろうなーと、笑う桃城くんの言葉に次の約束をして今日は別れた。

次の試験期間が待ち遠しい。






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