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来月初めの日曜日、わたし水無月桃華とお相手の睦峰優様との婚約発表パーティーが開かれることとなりました。
これで私と睦峰様の婚約関係は周知の事実となり、私の平和な学園ライフが脅かされる決定打になるわけですね。
招待状が連名で届いた時点で事は露見するから来週には学園中に知られているだろうし。
お呼びするのはごく一部だけども。
ちなみにこれは婚約発表をする、ということで婚約通知状の形をとるかパーティーを開くかと私のお母様と睦峰様のお母様とが電話で話し合い決まったらしい。
招待するのは若い二人の式だからと私たち二人のそれぞれの友人を中心としてくださるらしい。
それに関してはとてもありがたい。
これで招待客が大人ばかりでは私たちの婚姻は決定的なものとなってしまう。
あくまでも、子供どうしの約束程度にとどまってくれたら一番いい。
……無理だとはわかっているけど。
友人たちなら私たちの中も察してくれるだろうし。
「モモーーおっはよっす!」
「おはようございます昨日はごめんなさい」
「いいって!」
桃城くんとはメールでやり取りしたけど顔を合わせて言いたかったのもある。
それに今日は彼にもお手紙を渡さなくては。
「あの、もしよかったらお越しください」
招待状を手渡す。
どうぞ、と促せば封を切って中を読み始めてすぐ文字を追う視線が止まっている。
これは光の時と同様説明が必要かな。
「桃城くん詳しいことはお昼に光も交えて話します」
私一人で話すのは骨が折れるというか光に任せておけば丸く収まるだろうと踏んで。
お昼の休み時間には隣のクラスに突入しようと思っている。
「お、おう」
ちなみに招待状の多くは家の方へ直接送っているけれど、親しい人たちに関しては手渡しをすることにした。
私が説明しなくてはいけない人は光と桃城くん、黄金先輩くらいだろう。
大変なのは睦峰様の方だと思う。
なんてったってあの面倒な人たちがそろっているのだから。
*****
「……で、どうしてこうなったの?」
「私にはさっぱりです」
私の言葉に続けて頷く睦峰様。
正面には溜息と共に頭を抱える光。
場所は昨日と同じ、『緑化委員会(仮)』の部室。
今はお昼の休み時間。
この時間を使って桃城くんに説明するはずだったのだけど……
少々予想はついたものの考えたくなかった事態になった。
お昼の休み時間が始まると同時と言えるタイミングで睦峰様が光の教室に逃げ込んだらしく……
私と桃城くんが光の元へ行くと、面倒なことになっていた。
光の背に隠れた睦峰様と、半分のけぞりながら松宮様と赤城様の勢いに押される光。
ドアを開けて見えた光景に私も一瞬かたまり引き返そうと思ったのだけど、どうやら私がそこにいたことがすぐにばれたらしく彼らが追ってきたから私と桃城くんが逃げる形でここまで来てしまったのだ。
部屋の中の不思議な骨董品たちに目を輝かせる桃城くん。
窓の外の景色に感嘆を漏らす松宮様。
入り口付近で腕を組みしかめっ面で立っている赤城様。
昨日と同じ場所に腰かけ疲れた表情をしている私たち。
物が多いからわかりづらいがこの部屋は結構広い。
ほかの部室よりも広いからこの人数なら余裕で入れた。
廊下には椅子も大量にあるため人数分の席はすぐに用意できる。
種類はバラバラだから少し不格好だけど。
ここについた時点で光がイスだけは用意していた。
並べた後はいつもの位置で遠い目をしているけど。
「モモ!この花今動かなかったか?!」
「桃城くん、気のせいです」
この子たまに動くんやで~と黄金先輩が言っていた気がするけど私は認めません。
「絶対動いたと思うけどなー…そういや話って?」
あら、意外なことに話を始めるきっかけは桃城くんがくれましたか。
「私は説明は得意ではないので光に任せます」
にっこり光を見れば、あからさまに嫌な顔をされたけど気にしない。
説明はしてくれるみたいだし。
「あぁ…だから巻き込まれたのか。優もそういう事?」
「……ん…ごめん」
なるほど。
魂胆は同じだったらしい。
*****
「――…と、言う事らしいよ」
光が話し始めると桃城くんと松宮様は椅子に座り話を聞いていた。
赤城様はさっきと変わらず扉のところにいるけど。
昨日の帰りの車でおじい様たちの事を含む諸々も話してあったので、それも含めて上手に話してくれた。
持つべきものは優しい幼馴染だね。
光がいてくれてよかったよ。
睦峰様はすでにお昼を食べ始めているし。
ちゃっかりお弁当持参しているあたりこの人結構強かなのかもしれない。
「ほう……それはまた突然なのも頷けますね」
「モモこれからは気をつけろよ?」
気をつけろというのは昨日の事ですよね。
桃城くんにも怒られるかと思ったけれど、やれやれといった様子で私の頭を撫でるにとどまった。
このままではお昼ご飯を食べ損ねそうだ。
「……龍雅」
睦峰様の呼びかけに全員の視線が彼に向く。
赤城様の視線も私たちと同じく睦峰様の方を向いている。
「……来るよね?」
来る、とは婚約パーティーのことか。
睦峰様はしばらく赤城様の目を見返していたけど、しばらくすると手元のお弁当に視線をもどした。
「龍雅と二人、出席しますね」
松宮様が私に笑顔を向けてきた。
三人の中でだけ通じる何かがあったのかな?
良く分からないけど彼らの中では決着がついているみたいだしまぁいいか。
「モモ俺も出席するからな」
桃城くんも来てくれるのですか。
「はい、ありがとうございます」
「……ありがと」
ところで、桃城君とこの三人って初対面だったような。
*****
「じゃあ今日は解散ってことでいい?」
光がお昼食べ損ねた~と、嘆いていたのもつかの間。
お昼ご飯への未練は切り捨てたらしい。
私と同様、放課後にでも食べればいいと思ったのかな?
松宮様と赤城様がどうするのかは知らないけれど、桃城君は午前の授業みたいに授業中に教科書の影で食べるだろう。
「はい」
もう用事は終わったことだし。
次の授業の準備をしなくてはだし。
「光と……えーっと松宮と睦峰と赤城だっけ?またな!」
私が立ち上がると、桃城くんも席を立った。
笑顔であいさつをした後、ドアの外へ。
コミュニケーションが得意な桃城くんらしいというか、名前覚えたんですね。
「お先に失礼します」
ぺこっと、礼をして部屋から出る……つもりだったけど。
ドアの番人と化している赤城様の横を通り過ぎる時に、手首を掴まれた。
「話がしたい」
赤城様の声で空気が張り詰める。
松宮様は苦笑いで呆れているようだし、睦峰様は若干ご機嫌が悪くなった。
光に関しては目が一瞬だけど恐ろしいことになってた。
私には関係ないと、見なかったことにしよう。
「はい、放課後教室で待ってます」
場所も時間も私が決める。
移動はしませんよ。
なぜ私がわざわざ出向かないといけないんですか?
待ってるから来いって話ですよねー。
にこっと微笑みかければ眉間のしわが濃くなったけど。
頷いたということはそれでいいのでしょう?
さーて、放課後が楽しみですね。
「光もお2人も、邪魔しないでくださいね」
部屋の中にも微笑みを向けてから、廊下へと出る。
桃城くんが待っていてくれてました。
「モモの笑顔すっげー不気味」
失礼な。
いつも読んでいただきありがとうございます!
活動報告の方でちみっと設定?短編?あげました。
良かったらどうぞ!




