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「……輝石たちに…言う」
「それがいいと思うよ」
「やっぱり言うんですか」
難しい話はここまでにして、おやつタイムに戻ろうかと言っていたところなのに。
松宮様達も知っていた方がいっそ睦峰様の負担は減る、かな?
そう考えれば言ってしまうのが……と思ったけどそもそも他の生徒に言わなければいいのでは?
まだ光にしか言ってないわけだし。
まぁ……この二人の勢いからしてその案は通らなさそうだけど。
「発表はいつにするの?」
「……帰ったら…母さんに頼む」
「諦めますから過程は言わないでくださいね」
あの元気なお母様から確実に我が家に伝わることは間違いない。
せめて、という思いが伝わったのか過程については話さないでいてくれるらしい。
圧倒的不利な状況に溜息が漏れるのをこらえておやつに意識を集中させることにした。
現実逃避?上等ですよ。
「ところで優、龍雅って桃華の事嫌いなの?」
「……知らない…俺も知りたい」
二人の視線が私に向く。
光の目が、また桃華は何かやらかしたの?と言っている。
絶対、私が何かしたと思っている目だ。
失敬な……何もしてないですよ!たぶん。
「初対面の時からあんな感じです」
気のせいかと思っていたけど……確実ににらまれてたと思うし。
最近は露骨に態度に出ている。
……あのお土産については謎だけども。
「そういえば龍雅からもお土産貰ってたよね?仲直りしたの?」
「いえ、そもそも喧嘩をした覚えもないです」
あの可愛いお人形は私の部屋の人形たちに混ざって床の間にいますよ。
「……輝石が…言ったから」
なるほど。
松宮様も私と赤城様のおかしな関係に気付いていたと。
そういえば一度足止めに使われていたっけ睦峰様に。
……もしくは打算的なそれを入れ知恵しただけかもしれないけど。
「かめさん、可愛かったです」
赤城様とは似ても似つかないそれは完全に切り離して愛でてますよ。
「……かわいいの…すき?」
「はい、もふもふとか好きです」
あ…
「睦峰様に頂いたお菓子とってもおいしかったです」
お土産気に入らないと思われてはダメですよね。
実際本当に美味しかったし。
さすがお菓子好き仲間の選んだ逸品です。
「……水無月さんのも…おいしかった」
それはよかった。
私からは紫芋のタルトをあげた。
試食がとても美味しかったので。
「もちろん光から頂いたものも美味しかったです」
私の言葉に、睦峰様も頷く。
睦峰様もお菓子をもらったのかな?
「二人ともありがとう」
光の悪意のない笑顔です。
私には貴重なそれですね……かなしいことに。
「で、龍雅の事だよね?初対面っていつ?」
「はじめてサロンに行った日です」
お三方との遭遇は光と同じタイミングですよもちろん。
なかなか不本意だけども。
『攻略対象者』との出会いは総じて不本意。
出会ってしまったばかりでなく、知り合ってしまった今となっては皆さん友人だと思っているけど。
袖触れ合うも他生の縁。
これも運命だと受け入れるしかない。
私の精神衛生上。
「……龍雅…水無月さんの事悪い人……っていう」
睦峰様が少しうつむいて言う。
無表情だけど視線には感情があるのだから伏せられた目からも伝わるものはある。
睦峰様が悪いわけではないのに。
そもそも赤城様の態度に関して私はなんとも思っていないし。
「桃華が悪い人ねぇ?」
光の含みを持たせた言い方に、私と睦峰様が震える。
すごく怖いんですけどー。
「私個人としては全然気にしてないですが」
「俺が気にするよ、桃華は頭が足りない時も多々あるけど悪い子ではないし」
光の言葉に睦峰様も頷く。
……気にしてくれることを喜べばいいのかナチュラルに貶されたことを怒ればいいのか。
睦峰様まで私を頭が足りない子だと思っているなんて心外だ。
そんなに可笑しな行動はしていないはずだけど。
「……知ったら…龍雅ぜったいうるさい」
それに関しては想像つく。
あれだけ近づくな云々言われていたことだし。
「龍雅の態度も謎だよね……何がそんなに気に入らないのか」
「多少うるさいのは今も同じですからしょうがないです」
廊下ですれ違うたび噛みつかれるのも慣れてきた今日この頃。
睦峰様や松宮様が一緒にいるときはうるさいのは視線だけだけど。
「一度しっかり話してみたら?」
「いやです面倒ですから」
まともに会話になるか怪しいじゃないですか。
「……龍雅…しつこい」
「面倒ですよね」
睦峰様もその辺は心当たりがあるらしい。
私たちの様子に光はため息を吐いているけどしょうがない。
面倒な人と難しい話をするなんて嫌だもの。
「じゃあ保留ってことにしとくよ?」
「はい」
そのうちに、とは思ってるし。
今じゃなくてもいいはず。
それから、二人には気が向いたら睦峰様が話すことになりこの日は解散となった。
いつもよりゆっくりと帰って来てくださった金色先輩には感謝だ。
*****
「お母様、今よろしいですか?」
「ん~いいわよ、桃華どうしたの?」
帰宅後、事務仕事中のお母様の元を訪ね婚約を発表したいことを伝えた。
外野にいたお父様やらお兄さんたちやらがざわざわしていたけど気にしない。
「そうね、こないだの手紙のこともあったしそろそろかなとは思ってたのよ」
「はい、睦峰様とは話してあります」
「なら由良と電話しておくわね」
おじい様たちはやっぱり通さないのか。
だからお母様に直接言いに来たのだけど。
そんなわけで、誠に不本意ながら婚約発表されることになりました。
平和な学園生活から遠のく足音がする気がする。
……挽回しなくては。




