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四月某日―――希竜峰学園中等部入学式
入学式、ということで高校と大学の生徒会の数名も出席している。
彼らはなんというか……目立つ。
圧倒的な美形の多さにあの辺りだけキラキラしてる(ような気がする)。
ちなみにお兄様は高等部生徒会の書記としてその中にいた。
もちろんお兄様は輝いている。
生徒会の中に限らずこの場の全ての人の中で一番素敵だと思う。
だってお兄様だし。
と、お兄様の隣にいる方と目があった。
にこっと笑って手を振ってくださったのだけど、振り返すわけにもいかないでしょう……先輩なのだし。
とりあえず笑顔と会釈を返す。
そんなご友人の様子にお兄様も気付かれたみたい。
こちらに笑みを向けてくださいました。
まわりの女の子たちと一緒に歓声をあげそうになりました……あぶないあぶない。
後からご友人の方になぜたくさんの新入生の中から私を見つけ出せたのか訪ねたら、理事長の話を聞かずにお兄様を見ている子がいたから目に留まったらしい。
私は知らなかったけれど我が家に遊びに来たこともあるらしい。
それで私がお兄様の妹だと知っていたのね……
壇上の理事ではなくお兄様たち上級生を見ている女子の方が多かったと思うけど……
入学式が終わると各クラスへの移動となった。
中等部の間はクラス分けはランダムらしい。
合格通知と一緒にクラスはわかっているので自分たちで勝手に移動する。
昇降口には上級生の方もいるので困った時には頼る、という形みたいだ。
「桃華はBクラスだっけ?」
「はい、光は?」
「隣、Aクラスだよ」
「そうですか……近くてよかった」
隣を歩く私の幼馴染、ひーくんこと『久東光』から話かけられた。
小学校の高学年のころに呼び方をお互いにひーくんととーかちゃんから改めたのも懐かしい。
おとしごろ、ってやつだねとお互いの両親には生暖かい目で見られたけど。
今日も一緒に来たので、式の間も隣にいたのだけど……存在を忘れていたなんて言ったら怒るだろうなー…
それにしても光とクラス違うのか……ちょっと残念。
小学校は普通の公立学校に行っていたからこの学校に友達はおそらく光しかいない。
知り合いが誰もいない教室というのは居心地が悪いだろうし。
隣り合ったお互いのクラスまで来ると光が真剣な顔をして立ち止まった。
と、がっしり両肩を掴まれる。
「桃華がしっかりした子だってことはわかってるんだけどね?それでも僕の言うことをちゃんと聞いてくれる?」
「へ?あ、はい」
突然どうしたのだろう?
「桃華の家のことで何か言うような子はこの学校にはいないと思う。でもね世の中は目に見えない悪いことのがたくさんあるんだよ」
「体感できる被害だけでなく精神的なものや周囲を巻き込むものなどでしょうか?」
「うん、それもあるね」
光はいったい何を伝えたいのだろう?
「同じようにね好意にもいろんな種類があるんだよ」
「おじい様がよく言っていますよ見返りを求めない好意なんて親子の間にしかないと」
「……うん、まぁそうだね。とにかくむやみに人を信用しないこと」
「善処しますね」
「それは商売の中では取り組まない、って言葉に近い同意だって知ってる?」
「知ってます」
片っ端から疑ってかかれ、と伝えたいのですかね?
「はぁ……とにかく、帰りは僕が迎えに来るから教室の中でまっててね?」
「門からは車なのにわざわざですか?……わかりました、ありがとうございます」
過保護すぎないですか光サン?
うちの若い衆に何か頼まれでもしたのかな?
さて、過保護のかたまりとなった心配性な幼馴染とわかれクラスへと入る。
指定された席は出席簿順か、廊下側に近い教室中ごろの後ろから二番目。
うん、まあまあかな。
「……水無月ももか?」
「水無月とうか、です」
隣の席は男の子か。
私の名前を読めなかったらしい。
小学校の時は友達にももちゃんって呼ばれてたし別になんとも思わないけど。
「桃華か!俺は桃城大樹よろしくな!」
『桃城大樹』って……さっそくですか。
どうやら彼が三人目の私が出会った攻略対象者のようだ。