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そうしてバタバタと過ごし週末。
校外学習の日を向かえました。
私たちのクラスは沖縄、美ら海水族館。
「桃華様!あちらに触れ合いコーナーがございますわ」
「桃華様のお鞄素敵ですわね」
「まぁ初めて生きているうにを見ましたわ」
「桃華様、可愛いですわね」
最近取り巻きの数が増えていっている気がする。
うん、お友達がたくさんなのは良いこと。
良いことだよね??
浅瀬の生き物と触れ合えるコーナーに来たものの、女の子達は水に触れることはない。
都会っ子ですもんね、海外の海でもないのに潮水に手を入れるのは嫌ですか?
「と、桃華様!お手手が汚れますよ?」
「タオルをお使いください!!」
案の定、私が水の中に手を入れてヒトデをつつけば大騒ぎだ。
「ざらざらしていています……意外です」
こんな体験海水浴場ではできませんよ?
スキューバダイビングで触れ合うのはお魚ですし。
「桃華様は勤勉ですのね」
「書面の知識だけでなく実体験からも学ぶ、改めて尊敬いたしますわ!」
「さすが桃華様!!」
「わ、わたくしたちも体験……してみるべきですわね」
ただ単に私が触りたかっただけなのに何かいいように勘違いされたらしい。
……面倒だからこのままにしておこう。
恐る恐るといった様子で彼女たちも水の中の生物に触れていく。
良家のお嬢様にはいい経験になりますよきっと。
こうやって庶民が知っている当たり前のことを多くの場合私たちは知らずに生きていくのだから。
あ、ナマコだ。
「……うぇ」
これは……少し触ったことを後悔しました。
何とも言い難い感触ですゾワッとします。
「桃華様……ソレは??」
「ナマコです」
「奇妙な見た目ですわね」
「桃華様の探求心に感服いたしますわ」
女の子たちの顔が少しひきつっているけど気にしない。
それからこの子達が感想を言いあうのを聞き、手を洗いその場を離れた。
「……モモはやっぱすげーわ」
少し離れた位置の桃城くんがそんなことを呟いていることには気付かなかったけど。
*****
それからいろいろな場所を見て回り、メモ帳に記していく。
校外学習ですから、学習したことの報告会があるんですよ。
私的にはジンベエザメが可愛いかった。
お土産コーナーで大き目の人形を買ってしまうくらいには。
家の皆にお土産を選ぶのはとても楽しい。
黄金先輩やサロンのみなさんにも買わなくては……これから観光をするのだからここでまとめて買わなくてもいいか。
早々に買い終わった私は外の水槽を見にひとりお土産屋さんを後にした。
……少しして戻ればいいよね?
ふらっと自由に一人で外を歩くことは中々できない。
「モモ?一人か??」
桃城くんと遭遇。
この人も一人ですか。
「はい、桃城くんも?」
「おう!はぐれた!」
……携帯電話持ってないんですかね??
二人して亀のいる水槽をのぞきこめば甲羅干しをしている大きな姿が見えた。
「モモはさ、すごい家のお嬢様なんだろ?」
「……少々大きな家ではありますが凄いかはわからないです」
桃城君はいつも唐突に話が始まりますね。
「なんかさ他の奴らと違って見下した態度とか絶対しないよな」
……本当に唐突ですね。
確かに貴族思考のようなものは持っていないと思っている。
というよりは持たないようにしてきた。
それはいつか自分の身を亡ぼすだろうから。
「今ある地位は自分で手に入れたものではないです。威張る理由もありません」
自分の手柄でもないのに威張っても恰好つかないと思うのはおかしいですか?
「さっきもさ、お嬢様達は水なんて触らないと思ったのにモモが動いたから他も動いただろ?」
あー……見られていたのか。
ってことはナマコを触った時のうぇって顔も見られたのか。
変な顔してないといいけど。
「触れ合いコーナーですもん……ヒトデ綺麗だったんです」
「そういうとこ、ほんとすげーなって思ったよ」
いつもより少し静かなトーンの桃城くんが大人びた笑みで私を見ていました。
「当たり前にできることがすげーんだって」
「気持ち悪いって女子なんか触らないって皆思ってたのにさ」
「ヒトデつつきながら笑うんだもんな」
「他の女子まで最後は楽しそうに触ってたし」
そんなに褒められることをした覚えはないけど……
桃城君は嬉しそうだからこのままにしとこう。
「……ありがとう?」
「おう!」
桃城君は、真っ直ぐな人だ。
眩しいくらい綺麗な笑顔だと思う。
*****
「沖縄は楽しかった?」
「はい!お兄様とても楽しかったです」
自由行動の観光では国際通りでショッピングをした。
女の子たちとおそろいのブレスレットを買った。
皆にお土産も買った。
買い食いとかしたことないこともたくさんした。
「本当に……楽しかったです」
「良かった桃華が楽しそうで」
お店の影にはスーツ姿のお兄さんが立っていて、警備されてます感はあったけどそれでも自由な時間を過ごした。
有意義な校外学習だったと思う。
私や多くのお嬢様にとっては。
家の皆に買ったお土産は私が帰って来てすぐに家に届いた。
それを皆に手渡しすれば随分と喜ばれた。
おじい様は早速自慢しに家を出ていかれたし、お父様には泣かれた。
お母様も抱きしめてくださったし、お兄様は頭を撫でてくださいました。
若い衆やお手伝いさんたちもとても喜んでくれた。
……本気の男泣きには少し引いたけどこれは心にしまっておこう。
学校の方々にも明日は配るものがある。
荷物が多いから誰かについてきてもらわなくては……
皆強面だから誰と行くかは迷いどころだけど。




