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睦峰のお家と婚約が勝手に結ばれた日から数日。
この何日かは大変でした。
まずおじい様の勝手な挙動にお母様だけでなくお父様やお兄様までお怒りになりまして……
それはもう家の中が大騒ぎ。
私は睦峰優、本人との約束もあることだしと納得していたのだけど。
そんなこんなで家族会議の末、
今週末にお母様とおじい様、それに私で睦峰のお家に顔を出すことに。
お母様は向こうの方々とはおじい様ほどではないにしろ交流があるらしい。
向こうのお家も純和風な使用らしい。
で、今日はそのご挨拶の日。
本当なら殿方の側が来るらしいけど前回おじい様がご迷惑をかけたこともあって、こちらから尋ねるらしい。
若草色の着物を着て、いざ参りましょう。
……どうにでもなれという気持ちが強すぎてテンションがおかしなことになっています。
黒塗りの車が横付けされた睦峰のお屋敷はまさしく純和風。
うちの家と少し似ている。
もちろん全然別ものではあるけど。
「桃華、ご挨拶できるわよね?」
「はい、お母様」
隣を歩くお母様は黒い着物。
上げられた髪が白い項を見せている。
相変わらずの色気です羨ましい。
……私のどこにこの血が流れているのだろうか?
いや、顔は似ているけど。
屋敷からご当主……睦峰様のおじい様が出てこられた。
おじい様が親しげに挨拶を交わした後、お母様と私も挨拶をする。
厳格そうなお顔をされているけど、おじい様と似た雰囲気だ。
きっとお優しい方なのだろう。
「相変わらずお前のとこの娘さん方は綺麗じゃな」
「ふっふっじゃろ~?」
おじい様、得意げですね。
お屋敷に通され、客間でお茶とお菓子を出された。
部屋の中には睦峰様と、睦峰様のおそらくお母様が先にいました。
随分と……お若く見える。
お姉さま、というわけではないと思うけど。
「沙耶!久しぶり~」
「あいっかわらずの童顔ね、由良」
お母様、仲が良いみたいですね。
「その子が桃華ちゃんでしょ?かぁわいーー」
きゃっきゃとはしゃぐ由良さんは大目に見ても女子大生。
貴女の方が随分と可愛らしいですよ。
「うちの子可愛いでしょ?顔は私なのに性格は旦那様に寄ったから完璧よね」
お母様まで何を言っているんですか。
苦笑をこぼしつつお母様を抑える。
「そうね、完璧ね!」
由良さんまで……
「優くんも大きくなってイケメンね~」
「でしょでしょ?ちょっと無口なんだけど顔は私に似たから~」
「優くんも性格はパパ似か~完璧ね!」
……この二人、仲良さげなのにお互いの性格が嫌いなのかしら?
「……水無月さん…出よ……?」
睦峰様も何となく疲れた雰囲気だ。
「お母様、いいですか?」
隣を窺えば満面の笑みが返されました。
「「ごゆっくり~」」
お母様たち息ぴったりですね。
睦峰様について部屋を出てお庭に面した廊下を歩く。
「…母さんが……ごめん」
「いえ、こちらこそお母様がすみません」
和服で歩幅の小さい私に合わせてくれているのかゆっくりとした歩調で進む。
お庭が本当に見事ですね。
蹴鞠とかしている人がいても驚かないかもしれない。
「……お菓子…食べる?」
「はい、いただきます」
私たちだけでは会話は持たないですね。
お互いあまり口数は多くないし。
っというか、そもそも今日の顔合わせには何の意味があったんだろう?
*****
「おかえり、桃華」
「ただいま帰りましたお兄様」
お昼をご馳走になってから睦峰の家から帰ってきました。
お母様達のテンションが高すぎて疲れました。
おじい様はいつの間にかいなくなっているし…
お兄様の笑顔で幾分回復しましたけどね!
と、お兄様はいいのです。
結局のところこの婚約は何だったのだろう?
記憶にある知識との誤差はどこで生まれたのだろう?
……いい方向に向かってるということ?
それとも…
赤城様の発言もいろいろと気になるところだ。
なぜあんなにも突っかかってくるのだろう?
彼との接点は今日までほとんど何もないはずだ。
彼も誤差の一つ?
というには何かがおかしい気もする。
……三年の間で人はそんなにも変わるのか?
それを言えば桃城くんも同様なのかな。
……考えたところで答えは出ない、か。
甘いものが食べたくなてきた。
おやつもらいに行くかな。
「お嬢!おかえりなせぇ!」
「ただいま」
「お嬢、相手の男はどんな奴でしたかい?」
「学校の友人だからどうもこうも……」
「お嬢のお気に召さない野郎なら俺らが消してきやすぜ?」
「こら」
廊下を歩けば我が家の若い衆とすれ違う。
年齢はお父様よりも上の方もいるけれど、皆私の兄のような存在だ。
黒いスーツが少し厳ついが根は良い人たちだ。
私の婚約には大反対みたいだけど。
今日も相手の男に釘を刺すとか何とかでついてくると言って騒いでいたけどお母様に一括されてしぶしぶ引き下がるということが出掛けにあった。
ほんとに闇討ちとかしそうで怖いな。
「今日のおやつは何かわかる?」
「今日は水羊羹とショートケーキがありやすぜ」
「水羊羹!貰いに行ってくるわね」
「お嬢、お部屋にお持ちしましょうか?」
「んーん、じぶんでいくわ」
自分で行くとおまけとか、夕食の味見とかさせてもらえるし。
水羊羹、楽しみ。




