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―――翌朝
昨晩は遅くまでお母様のお怒りの気配がしていたけど、おじい様はご無事なのかな?
朝ごはんの席にはいらっしゃらなかった。
「桃華達のクラスは校外学習はどこに行くんだい?」
「水族館にいきます、お兄様はどちらに行かれましたか?」
今日は学校までお兄様も一緒です。
光は自分の家の車で行っているし、お兄様のお友達もご予定があるとかで今日はいらっしゃらないので2人での登校になりました。
朝から幸せすぎて本日のハイライトですよ!
「一年生の時はどこに行ったかな……確か植物園だったかな」
植物園ですか、それは魅力的ですね。
美しい花々に囲まれたお兄様を見てみたい。
その時のクラスメイトの方が羨ましい。
是非とも私もお兄様と植物園にいきたいです。
「植物園ですか……素敵ですね」
お兄様の言葉で思い出したけれど、今週末はクラス別の校外学習がある。
私たちのクラスは美ら海水族館。
光のクラスは浅草寺。
あの三人のいるDクラスは鳥取砂丘。
日本国内ならどこに行ってもいいという学校の太っ腹さはさすがだと思う。
それにしても、鳥取砂丘って誰が選んだか気になるチョイスだ。
私たちのクラスはせっかくなら遠いところに、という庶民思考で沖縄を選んだ。
自由時間には沖縄観光の予定を女の子達と組んでいるし。
光やお兄様にお土産を買うのが楽しみだ。
お兄様との貴重な時間を満喫して学校へ来れました。
中等部の教室棟まで送ってくださったので手を振って別れました。
周りの視線を集めるお兄様のカリスマ性はさすがです。
「モモーーおっはよっす!」
早朝練習があったのかすでに一汗流した後のようですね。
「桃城くん、おはようございます」
と、桃城くんの視線の先にはお兄様。
「モモの周りの美形率って高すぎねえ?」
そういう貴方も美形ですものね。
「あの人は私のお兄様です」
それも自慢の、お兄様です。
「あー言われれば似てるな雰囲気とか」
「桃城くん……いい人ですねありがとうございます」
お母様に似た派手な顔立ちは、お父様に似たお兄様の清廉なお顔とは少し似ていない。
だから、似ていると言われるのは凄く嬉しい。
「お?おう」
困惑している桃城くんを促し教室へと向かう。
今日は良いことがありそうです。
教室の前で光と会い、挨拶を交わしていたら後ろから制服の裾を引かれました。
「……水無月さん…話…………ある」
昨日より更に話すのが億劫そうな睦峰様の姿がありました。
朝から何の用かと疑問に思う私たちを置き去りに、無言で手を引き始めた。
………ここでは話せないと。
「睦峰様、おはようございます、伺います」
光と桃城くんに行ってきますと言い、睦峰様のあとに続く。
鞄を持って行ってくれた桃城くんには感謝です。
行き先の説明も面倒なのか、無言で手を引く睦峰様。
……周りの女の子の悲鳴が聞こえないんですかね?
刺されたりしないように気をつけないといけないかな。
と、廊下の真ん中で睦峰様の足が止まった。
「優、どこに行く」
……嫌な予感がする。
睦峰様の背中越しに前を見れば、赤城様のお姿。
朝からそんなに恐ろしい顔で廊下の真ん中に立っていたら周りに迷惑ですよー?
「……どこでも…いい」
睦峰様の答えは投げやりなものだ。
よくあの顔を正面に受けてそんな答えが返せますね。
肝が据わっているというか、無感情にもほどがある。
ほら、案の定赤城様のご機嫌が降下しているじゃないですか。
「水無月桃華、これはどういうことだ」
「おはようございます、知りません」
私に聞かれても知りませんよ。
今からそれを聞きに行くんですから。
とりあえず、話の相手が自分から移ったからといって歩き出していいわけじゃないと思うんですよ睦峰様?
せめて私の手を放してくれないとですね、私まで歩かないといけないじゃないですか。
…………赤城様のご機嫌が大変なことになっていますよ?
「優、そいつはやめておけ」
「……龍雅に用事…ない」
「話をきけ」
「………」
ちょっと、誰か助けてください。
周りの視線がいたい。
赤城様の視線が怖いし、睦峰様の握力が赤城様の言葉ごとに強くなる。
もうやだこの人達。
『攻略対象者』の暴走が止まりません。
とりあえず、この二人の保護者はどこに行ったのだ。
無言の睦峰様の足が止まった。
やっと赤城様の相手をするつもりになったのかと、思ったけどこれは違うな。
赤城様を振り切るべく歩いてきたはいいけど、突き当りまで来てしまったと。
「……龍雅…超じゃま」
「優、とりあえずそいつを放せ」
「…龍雅は……関係ない」
「いいから話を聞け」
「……もう聞いた」
……そろそろ決着付けてもらえませんかね?
そろそろ始業の鐘が鳴る。
私までこの人たちと一緒に遅刻するわけにはいかない。
私は、優等生になると決めているのだから!
「お2人とも、時間です」
「は、時間だ?」
「……なんの?」
「遅刻するつもりはないので、これで失礼します」
私の言葉で二人がそれぞれ腕時計を確認している。
その間に踵を返して教室へと歩き出す。
……彼らの口論には付き合いきれないし。
すたすたと歩いていたら、睦峰様が走り追いついてきた。
「……また…昼放課に」
「……はい」
そんなに大事な話があるのかな?
……もしかしておじい様昨日何かやらかしたとか?
昨日の今日だしそれしかないか。
「おい!優!!」
ここまで完全に無視されているのは可哀想ですね。




