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「「お嬢!お帰りなせい!!」」
「ただいま帰りました」
やっと帰宅。
ほんっとに疲れた……
松宮邸の玄関で出迎えてくれた召使いさん達のような華やかさはないものの、迫力だけならどこにも負けない我が家の組員達の作る花道を抜けて、玄関にたどり着けばお兄様が出迎えてくれた。
「おかえり、桃華」
「ただいま帰りました!お兄様!」
お兄様の笑顔を見るだけで、疲れが和らいだ。
やっぱりお兄様は偉大です。
自室に戻り、落ち着いたところでいろいろあった今日を振り返る。
『……お前の本性などお見通しだ』
松宮邸を出る直前、赤城様に言われた言葉が思い出された。
あれはいったいどういう意味なのだろう。
私の本性?
何のことを言っていたのか全く分からない。
すれ違いざまに言われた言葉を聞き返す間もなく赤城様は家の車に乗って帰ってしまった。
そのまま立ち止まってしまった私に松宮様と光が心配してくれたけど、何て言葉を返したのか覚えていない。
おそらく、笑顔と適当な言葉でごまかしたとは思うけど。
時間も時間だったので、帰りは光とは別の車で帰った。
一人になった車の中でも考えていたけど、思い当ることはなかった。
……いや、なかったわけではない。
でもこの考えはありえないことだ。
すっきりしない気持ちを落ち着かせるには、道場で精神統一か素振りでもするのがいいのだけどこの時間では見つかった時に怒られるからできない。
課題を終わらせて寝るしかないかな。
「杏璃ーーーーー桃華ーーーーーおじいちゃんが帰ったぞーーーー!!!!」
……おじい様、玄関から叫んでここまで聞こえるほどの大声って…お母様に怒られますよ?
やりかけの課題をそのままに、玄関へと歩いていけばお兄様に絡んでいるおじい様がいました。
「おじい様、おかえりなさい」
「桃華!!ただいま帰った!今日も無事に帰宅しているようでおじいちゃんは安心じゃ!」
今日も無事にって……送り迎えなのに帰ってこないわけないじゃないですか。
「おじい様、睦峰のお家と仲がよろしかったんですね」
そういえば、と思いおじい様に問えば威勢のいい笑い声が返ってきた。
「そうじゃよーでも沙耶には内緒じゃよ?」
お母様には内緒ってどういうことですか?
……私が話さなくても、すでにばれていますけど。
「……お父さん?また睦峰さんのところに迷惑かけたんですか?」
おじい様の後ろに立つ和服美女は私とお兄様のお母様だ。
高校生の息子がいるとは思えないお母様の美貌とプロポ—ションはそこらのモデルよりも美しく磨かれている。
うちの組の会計担当でもあるお母様は、とても優秀な方で私とお兄様の憧れでもある。
…というかおじい様が睦峰のお家に入り浸ってるのを知らなかったのは私だけだったみたいだ。
お兄様も苦笑されているだけだし。
お母様も、`また,とおっしゃられているし。
「迷惑なんぞかけておらんよ?楽しく呑んで来ただけじゃ!」
楽しくお呑みになられたのですか。
本当に仲がいいんですね。
でも……おじい様ってザルでしたよね?
付き合わされている睦峰のお家の方は大変だったんじゃ……
「お父さん、睦峰のお家にはまた電話しておきますけど、まさかまた物壊したりしてませんよねぇ?」
それは……確かにご迷惑ですよね。
またっておじい様……
「あー……ちょっと畳に懐刀刺した……かも?」
何があったらそういうことになるのですか?
さて、背中が寒くなってきたしお兄様の後ろに隠れる。
お母様の後ろに白い虎が見えます。
「桃華、巻き込まれる前に退散しようか」
「はい、お兄様」
着流し姿のお兄様、素敵です。




