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光のお怒りをどうにかこうにか黄金先輩が抑えてくださいまして、今は車の中です。

隣に座っているのは光。

反対側の隣には松宮輝石様。

……なんでこんなことになっているのだろう?

車内の空気が重い。

主に隣の光と松宮様の向かいに座る赤城様のせいで。


「お二方との友好を深めたいと思いまして、我が家のディナーに招きたいのですが、今日これから予定はありますか?」


門を出る手前で松宮様に捕まり、謎の展開に呆気にとられるまま連れていかれた先には十人は余裕で乗れるリムジンが停まっていた。


そうして半ば強制に近い状態で乗せられた車内には睦峰優様と赤城龍雅様のお姿。

睦峰様は黙々とお菓子を食べ、赤城様は不機嫌な

顔で窓の外を睨む。

なるほど、この二人も一緒にディナーなわけですか。


光の次に乗り込むのと同時に赤城様からきつい視線が向けられた。

……やっぱりこの人に何かしたのかな?

怪訝に思う私をそのままに視線はそらされたのだけど。


光がご機嫌斜めなのは私のせいでもあるのでこっちはしょうがない。

松宮様のお相手は私が引き受けるべきだろう。

にっこりを装備して状況の確認を取るべく松宮様に話しかける。

「突然のお招きに少々戸惑っています。なぜこのような状況になったのですか?」

動き出した車の中は個性的な面々によって醸し出される雰囲気で混沌としている。


「なぜ、と言われても……お二方とは仲良くしたいですしねぇ」

苦笑を作った顔で首を傾げている……この人がやっても可愛くない。

むしろ怪しさ倍増だ。


「仲良くしましょう。それは私たちとしても嬉しいです」

でも、私はなんでこんな強行に繋がったのかを聞きたい。


「お二方と我々の交友はお互いに得るものも多いですからね」

「私達の家と皆さんの家のより良い関係のため、ですか」

同学年の生徒達の中では私達の家が上位を占めるから……

私達の交友にそれぞれ損はない。

むしろ、この5つの家と友好関係にあれば学園での立場も将来も約束されたも同然だ。


でも私にとっては。関わりを持つことで危険が増す訳であって……

あまり関わりたくないんですよねー。


「はい、それもありますね。まぁそういうことを抜きにしても水無月嬢のような可憐な方とは是非仲良くしたいですがね」

「松宮様ともあろう御方からそのように言ってもらえて嬉しいです」

でも私は御免被りたい、切実に。


「水無月嬢はなんというか落ち着いていますね」

他のご令嬢とは反応が違いましたか?

残念ながら貴方の笑顔と甘い言葉ではドキッともクラッともしませんよ。


それにしても、優しげな笑みを至近距離から受けても乙女の思考にならない私は少しおかしいのだろうか?

「大人しい、ですか……つまらないですよね?」

困り顔で少し俯いて見せれば手を取られた。

ぎゅっと両手で握られる。

「そんなことはありませんよ、こんなに可愛いお嬢さんとお話ができるだけでも光栄ですから」

この人……見かけによらずプレイボーイな発言をさらっとする。

車内の空気が冷えてきた。


「…………ありがとうございます、こちらこそ光栄です」


松宮様の笑顔が至極楽しそうだ。

この腹黒さんは不穏な空気を楽しんでいるらしい。


会話をはじめてすぐの頃から赤城様は怖い顔でこっちを見ている。

松宮様が手を握った時には、それはもう仇を見るかのような視線が飛んできていた。


と、同時進行で光のお怒りもぶり返したらしい。

松宮様の方に顔を向けているから顔は見えないけど、変な圧力がかかっている。

今振り向いたら確実に視線に射すくめられる。

蛇とカエルの構図の出来上がりだ。


さっき警戒心うんぬんで怒られた矢先のこれだから怒るのもしょうがないと思うけど。

でもこれは……私の心構えとかそういうのではなく成り行きだったのだから私は悪くない、と思う。

自然と伸びる背筋と、硬い笑顔になっているだろう顔をそのままに松宮様のお相手を続ける。


「着きましたね、エスコートさせてもらえますか?」

車から降りるときにもまた手を貸してくれました。

そしてその手を放す前にこの問いですよ。

「よろしくお願いします」

スカートの裾を少しつまんで礼を返す。

この人のお遊びに少しだけ付き合うとしましょう。


……後ろの三人が状況に置いてきぼりとか気にしたら負けな気がする。


ご立派なリムジンに運ばれてついたのは、おそらく松宮邸。

大きな洋風建築の豪邸ですね。

お庭のバラが見事です。

大きな玄関を通ればずらっと並んだメイドさんと執事の方々。


我が家の門から玄関までの間にならぶスーツの男の人達にもこの華やかさがあればいいのに。


「ようこそ、どうか寛いでいってくださいね」


松宮邸に入ってからはいつものように光の隣の定位置に戻る。

先頭を歩く松宮様、そのあとに赤城様と睦峰様が続き、一番最後を私と光が続く。

赤城様達は、訪れたことがあるのかな?

お屋敷の中を進み、広間へと通される。


大きなテーブルにそれぞれ席に着く。

真ん中の所謂お誕生日席には松宮様、そして右側の奥から順に睦峰様、赤城様。

左側の奥から光、私。

……私の正面は赤城様ですよ。

気まずいことこの上ない。


「それでは、突然の招待に応じてくれた四人には感謝します短い時間ではありますがどうか楽しんでいってくださいね」


松宮様の声と同時にメイドさんたちが飲み物とオードブルを持ってきてくれます。

なるほど、フレンチですか。

我が家は和食、膳が出てくるのでお箸食。

マナーはできるので、ナイフもフォークも使えるけれど使う度にお箸の偉大さを実感する。


あ、このお魚とても美味しい。


「水無月嬢はとても美味しそうに食べますね」

松宮様の笑いを含んだ声が聞こえてくるけど、今は食事に集中したいのでスルーしよう。

美味しいものを食べているときはおしゃべりしない主義です。

「桃華は食べることが大好きだもんね」

光はとりあえず怒りを鎮めたみたいだけど、その言葉はあれかな?

私を食いしん坊だと言いたいのかな?


「幸せそうに食べていますもんね」

幸せですもん。

美味しく食べているので、こっちを見るのをやめてくれないですかね。

正面の仏頂面をしている人も、ですよ?


光と松宮様がクラスの様子などを話している。

話が振られれば答える形で私と睦峰様、赤城様は食事を進めていく。

どの料理もとってもおいしいです。


「……水無月さん」

「はい……?」

睦峰様から呼ばれました。

デザートのアイスを食べていたスプーンを片手にこっちをじっと見ている。

え、君まで私を凝視するんですか?

一体なんですか、私の顔になんかついてる?


「今日……水無月家の当主がうちに来てる」

うちのおじい様が?

睦峰の家は……確か御当主である優様のお祖父様が警察庁長官でご家族や一族のほとんどの人が警察関係者のはずだ。


……うちのおじい様は組の経営に後ろ暗いところはないはずだけど。


「おじい様がどうして睦峰のお家に行かれるのですか?」

「……さぁ?知らない、でも昔からよく来る」


おじい様が昔から??

さらにわからなくなりましたね。

でもよく行かれるのなら問題はないでしょう。

我が家の人達は少し変わっているし……おじい様の行動が私に理解できるわけないから。


「そろそろ時間も遅くなってきたしお開きとしましょうか」


松宮様の声でこの会食もおしまいとなった。

とても美味しいお食事でした。

ご馳走さまです。


広間から出て玄関ホールへと歩く。

光と松宮様が会話を続けているため私は少し離れて歩く。

どうやらお互いに趣味のはなしが合ったらしい。

……中学生の趣味が株ってどうなんだろう。



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