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城下町は変わらず煙に包まれています。
これだけくらいのなら雨が降ってほしいです。そうすれば火の勢いは弱まります。
生きている人は全然見あたりません。
この国の人を殺したのは敵国の兵士の人たちです。
おとうさまがやったわけじゃないので、隠れていて助かった人がいないかと探しているのですが見つからないです。
わたしが歩いているのは貴族街というところです。お金持ちの人たちが住んでいたお城に近い、安全だった場所です。
おそってくる兵隊さんは強盗です。強盗さんならお金のあるところから攻撃します。だからこの辺は市民街や貧民街よりも徹底的に壊されている気がします。
キラキラきれいなガレキが、靴の下でぱりぱりと壊れていきます。
また道に倒れてしまっている建物がありました。貴族の人は大きな建物が好きなのです。これも元々は高い塔だったみたいです。住んでいたらしい貴族の人は、崩れた塔の下から骨の見えた腕だけを出していました。もう助けられないみたいです。
そんなのを乗り越えてふんずけて、市民街が見えるくらいまでやってきました。
あちこちから声が聞こえ始めます。生きている人がいるみたいです。やっぱりお金持ちの人たちは優先的に持っていかれたみたいです。
市民街の広場までたどり着いたのですが、初めて見る人混みにくらくらしてしまいます。
わたしが歩いてきたのは全滅していた貴族街や王宮がある方向です。靴にも髪にも血が飛び散っています。ドレスはもう染めあげたみたいに鮮血の色です。
有志の方らしい武器を持った大人の人に囲まれるのはあっと言う間です。
わたしは殺されてしまったおかあさまとおねえさまから、おとうさまの錬金術で生まれました。生後1時間です。子供です。
でも、それを正直に言ってもきっと信じてくれないと思います。わたしだってそれくらい分かります。
なので頭を下げることにしました。助けてください。おねがいします。
困ったことがあったら人に頼るのです。おとうさまの教えです。
お城に来た兵隊さんは錬金術師様がやっつけてくれました。でも、錬金術師様も死んでしまいました。そんなことを話します。本当です。嘘じゃないです。
周りの人たちはどよどよとし始めました。泣き崩れた人もいます。さすがおとうさまです。死んでしまったのに人気です。死んでしまったのが悲しいです。
広場の人をまとめていた人がやってきました。わたしの知らない人です。おねえさまが会ったことがあるみたいです。お友達のおとうさんです。冒険者さんです。
お城や高級住宅街がどうなっているのか訊かれます。ぼろぼろで誰も生きていなかったと教えてあげます。
王様も、兵士長さんも、お姫様も、メイド長さんも、お妃様も、門番の人も、大臣さんも、そしておとうさまも、みんな死んでしまっていました。
王様のことはおとうさまから聞いています。他の人はみんな自分で確認したので間違いないのです。女の人はひどかったです。ぐちゃぐちゃです。
自分のことは正直に言えないです。信じてもらえないです。なので王宮の下働きです。偶然生き残ったことにしておきます。偶然です。
おねえさまのお友達のおとうさんはつらかったなーと抱きしめてくれます。おひげがちくちくです。
そういえば、おとうさまが死んでしまったのにあんまりつらくはないです。おかしいです。やっぱり普通の人とは違っている気がします。
おひげのおじさまはそんな様子を見てなぐさめてくれます。つらすぎて麻痺してるだけだそうです。
つらくて麻痺するというのはよくわからないです。けれど今のわたしは普通の人と変わらないみたいです。気にしなくてもきっと大丈夫です。
人が見つかりました。これからどうしたらいいでしょうか。困ります。
困ったときは人に訊きます。おとうさまの教えです。
おじさまは国が無くなってしまったので、隣国の田舎に帰ってのんびりするそうです。冒険者業で食べるのに困らないくらい稼いだそうです。おじさまの奥さんも、おねえさまのお友達も無事で、一緒に帰るそうです。
それからわたしも一緒につれていってもらえるそうです。こんな時こそ助け合いだ、ということです。いい人です。かっこいいです。
その前にまだ城下町にいる人たちを助けるのだそうです。わたしもお手伝いです。
ひとりでも多くの人を助けます。おとうさまの教えです。