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むかしむかしあるところに、優れた錬金術師の男がいました。
男は本当に優秀でした。天才という表現が控えめに感じられるほどでした。
そして彼は誰にもできなかったことをいとも簡単に成し遂げ、その功績を認められて王宮に仕えることになりました。
男に出世欲はありませんでしたが、最高の環境で研究を続けられることを喜び、王様に感謝し、国からの依頼もこなしながら錬金術の研究を更に深めました。
男は最高の環境で研究ができるだけで十分幸せでしたが、周りの人間たちはそれで済ませることはできませんでした。
最も国に貢献した人物が、机上の英雄ともいえる働きをした者が、いつまでも独り身でいることは認められなかったのです。
そんな理由ではありましたが、男は一人の女性を選び、彼女を妻に迎えました。
錬金術だけを生き甲斐にしてきた男は、結婚して子供ができてからもあまり変わることなく研究を続けました。
ただ、妻がお弁当を持ってきたり、娘に錬金術を教えたりする姿が見られるようになったりと、独りでいた頃より幸せになったのは間違いなかったようです。
そして、国が滅びました。
他の国が、男の研究成果を、そして優秀な錬金術師である男自身をほしがったのです。
まず国を守る兵が殺されました。
次に国に住む民が殺されました。
更に貴族の首が並べられました。
王様は死体も残りませんでした。
最後には妻と娘が壊されました。
男にはなにも残りませんでした。
そして男は攻めてきた敵国の軍隊を皆殺しにしました。
男自身が武勇を持つことはありませんでしたが、錬金術というものは物を作ることもできれば壊すこともできる技術でした。
そして、男には天才という言葉も霞むほどの、錬金術の才能がありました。
そして静かになった王城の研究室で、男は妻と娘を作り直そうとしました。
二人の遺骸を材料に、錬金術を行ったのです。
足りない部分は、いくらでも転がっている他人の死体を使いました。
けれど、最初に作ろうとした妻は失敗してしまいました。
いくら男に才能があっても、絶対にできないことというモノはあったのです。
男はなにがいけなかったのか、失敗の原因は何だったのかを考え、そして答えをあっさり見つけてしまいました。
死んだ人は生き返らない。ただそれだけだったのです。
それに気づいた男は、娘の復活を諦めました。
そして、妻と娘の死体を使い、足りない部品は他人の死体をつぎはぎし、全く別の、新しい娘を作り出したのです。
妻本人でもなく、娘そのものでもない、新たな生命を生み出した男は、その娘に身を守るためのすべといくつかの言葉を残した後、笑ったまま自分の首をかき切りました。
残された少女は、もらった言葉を大切に生きていきます。
もらった言葉は3つ。
ひとつ、一人でも多くの人を助けなさい。
ふたつ、どうすればいいのか分からなければ誰かに訊きなさい。
みっつ、できる限り長く幸せに生きなさい。
そして少女は血塗れの真っ赤なドレスを纏い、血で染まった王宮を抜け出して、幸せに生きていくことにしました。
一人でも多くの人を助けましょう。
困ったら人にたずねましょう。
それから幸せになりましょう。
おとうさまからそう言われたのです。精一杯、生きていきたいと思います。