読書/蝸牛くも『ゴブリンスレイヤー』
ゲーム「ドラゴンクエスト」シリーズに〈彷徨う鎧〉というモンスターがいるのをご存じだろうか。『ゴブリンスレイヤー』の主人公は、それによく似た薄汚い甲冑を装着して、毎日毎日洞窟という洞窟を歩き回っている。主人公はゴブリンスレイヤーと呼ばれているが、職業上の呼び名で本名は不詳だ。
さて、主人公は辺境の町のギルドに登録する冒険者の一人なのだが、そのギルドは〈冒険者〉と呼ばれるならず者たちに宿と仕事とを提供している。ギルドが冒険者たちに出す依頼は、モンスター・ハントや山賊討伐だ。
主人公のターゲットは、他の冒険者たちが見向きもしない、子供の背丈と知恵しかない、ひ弱なモンスター、小鬼だ。ところが、ひ弱なモンスターであるはずの小鬼の群れの中には、ゴブリン・ロード、ゴブリン・チャンピオン、ゴブリン・シャーマンといった変異種が現れることがある。こういう変異種が群れを率いるようになると、軍隊化してしまい、手慣れた冒険者でも生命の危険にさらされることになる。
小鬼討伐の依頼にギルドにやってくるのは村落農民ばかりで、依頼額が余りにも少ない。小鬼退治は、冒険者たちにとって、「ひ弱」というイメージが先行しているため、倒しても自慢にもならないので、主人公以外、引き受ける者がない。主人公は、そんな低額ハイリスクな仕事を一手に引き受けていた。事情を熟知しているギルドは、全十級ある冒険者階級のうちの第三級〈銀等級〉に序列した。――他の冒険者たちはゴブリンの恐ろしさを知らないので、ギルドのランキングに疑問を持つと同時に、主人公を蔑んでいた。
主人公が小鬼に執着するのには理由があった。少年時代の主人公は辺境農村に住んでいたのだが、両親を早く亡く、優しい姉の手で育てられていた。ところがある日、突如村に襲い掛かって来た小鬼によって姉を殺されてしまったのだ。このとき姉は主人公を地下収蔵庫に隠したのだが、板の隙間から彼は姉が凌辱され原形が残らないくらいに身体を刻まれている様を見てしまったのだ。それ以来、主人公は剣の腕を磨き、策術を駆使してゴブリンを狩るようになりスペシャリスト化してゆく。そうしてゴブリンスレイヤーになったのだ。
片や王都周辺では、世界を破滅させようとする魔王の軍団が襲い掛かろうとしていた。ところが主人公は、派手な仕事は勇者となる冒険者グループに任せ、自分はひたすら地味に、ゴブリンのみを駆除してゆくのだった。暗闇で復讐の赤い眼光を揺らしながら……。そしてイカレた奴になりかけていたそのとき仲間に出会った。同じ只人族の神官少女、見かけは少女だが齢二千歳の弓使いのエルフ、錬金術系の魔法を扱うドワーフ、戦闘力・魔力ともに高い蜥蜴族僧侶たちだ。主人公は、彼らと出会い冒険をすることで信頼感を築き上げ、人間性を取り戻してゆく。
著者の蝸牛くも氏が後書きにも述べているように、主人公は世界を救うチート系勇者ではなく、どこにでもいそうな頼りになるお兄さんなのである。私は本作を読んでいる最中、頭の中で、中島みゆきの「地上の星」が流れてきた。
なお本作は、ライトノベルであり、漫画化およびアニメ化されていることも付け加えておく。
ノート201900127




