第一話 主人公が自宅に帰るまで?
方 俊21 めんどうがりの事なかれ主義。物臭だがときに思いがけない行動力を発揮する。喫茶店勤務だが、探偵る。
この話の主人公です。多分
店長 年齢不詳 面倒見がよく、包容力がある。最近は角刈りに凝っているようだ。落語が好き。
高馬時子 21 喫茶店「瑠伽」の常連客。俊の唯一の女友達である。自称有名人。
須賀 由麻 17 高校生。今回の事件の依頼人です。はい。鉱物はライム
鈴由 綾希17高校生。由麻の友人。
葺森 雄氏17高校生。高崎、鈴由、須賀たちと同じクラス。所謂雰囲気イケメン型DQN
私は、事なかれ主義であった。こういわれればまた聞こえは良いが、非常に怠惰な性格であり、手間を嫌った。かといって徹頭徹尾
物臭というわけではなく、一度思いついたら即座に行動を起こすというなんとも奇妙な人間であったと、自覚している。
そんな私にとって、学園生活というものはまさに消化試合に他ならなかったが、唯一倶楽部活動は楽しかったということは憶えている。
大学はそのまま消化していき、現在の私小説家生活に至るというわけだ。
といっても2.3月に一度、雑誌に乗ればよいほうであるという、まさに三文文士である。本業、というわけではないが、喫茶店で働いている。
「しかし、今日も閑古鳥が鳴いていますね、店長」私はそう言いながら店のグラスを磨いていた。
「まあ、仕方ないさ、なんたってこんな辺鄙な場所にたっているんだからね」店長はそういうと、珈琲をカップに注ぎ一気に飲み干した。
私の働く喫茶店「瑠伽」は、東京にこそ位置しているものの、路地に路地を曲がり、ようやくたどり着けるという辺鄙な場所だ。
茶店名も変わっているが立地も変わっている。
「私の分は入れてくれないんですか」「店長を顎で使う莫迦がどこにいる。じぶんで煎れ賜え」一蹴されてしまった。
しかし一番変わっているのは店長だろう。閑古鳥が鳴いているこの経営状況でよく私の様なバイトを雇えたものだと感心する。
噂では副業をしているらしいが、バイトの私は知る気も知る方法もなかった。
「毎回思うんですが、どうして店長は煎れたての珈琲を一気に飲めるんですか」
「まあそれはあれだ、慣れだよ君」猫舌の私には到底理解できないことであった。
「____そういうものですかね」ため息交じりに私が言うと同時に店の扉が思い切り開く。扉につけられていた鈴が勢いよく鳴る。
「どーもっ 遊びに来ましたっ」勢いよく店の中に入ってきたのは、自称トレジャーハンターの高馬時子だ。有名人らしいが、私は世間で彼女の名を耳にしたことがない。
「毎回言っているでしょう。準備中の看板がみえないんですか?そもそも」「まあいいじゃないですか固いことは」
店長の訴えは彼女の快活で明朗な声によってかき消されてしまった。店長は小声で「客が来てしまったし、少し早いが店を開けるか」といい、表に出て行った。
私は彼女に捕まるまいとあわてて厨房の中に引っ込もうとしたが、
「どこいくのよ、暇だし話に付き合ってよ」捕まってしまった。
私は彼女が苦手、というほどでもないが、どうも一歩引いてしまう。そう、彼女もまた、かなりの変わり者なのだ。
彼女は所謂、「黙っていれば」かなり美人なのだ。サラサラとして短くしている黒い髪、大きく小動物のような目、高く整った鼻と、見た目だけなら、
有名人といわれてもおかしくはないが、問題は内面である。男勝りというか勝気というかな剛毅さ、そして何より奇妙な言動が時折周囲をまどわす。
なにより話を聞かないところが始末に負えない。
「いや私は掃除がありますか」「掃除しながらだって聞けるでしょ、ね?」ゴリ押しだ。私は押しに弱い。受けざるを得なかった。
「_____それで?今日はなんなんですか?言っておきますけど私は知恵袋でもご意見番でもカウンセラでもありませんから」
「わかってますって、今日はかくかくしか__」。
話の内容はこうだ。時子の友人がある男に告白され、それを断ったところ、執拗に付け回されたり、酷い時は無言電話が眠れないほどあったそうだ。
「でもそういうものは警察に相談すべきじゃないんですか?何で僕なんかに」
「警察は取り合ってくれないの。なんかあったら来てくれって。なんかあってからじゃおそいっつーの」
「それに物的証拠もないので動きづらいですしね」「でしょ?だから貴方に頼みに来たのよ。」
「それにしたって何で僕なんですか、ほかをあたってください」私は面倒事は嫌いだ。多少つっけんどんに言わねば彼女は止まらない。
「貴方調査っていうかそういうの得意でしょう?」しまった。彼女は自分に都合の悪い話は聞かない性質なのだ。
「僕に頼まなくても興信所とかを使えばいいでしょう。彼らは玄人ですよ」私は当たり障りなくかつ最も適当な提案をした。
「…貴方ね、淑女が困っているというのに見捨てようとするその魂胆いただけないわ」不味い、説教が始まった。
「いやいやそういう問題じゃ」「何?風と雨が貴方の声を遮っていて聞えないわ」
「今日は晴れていますし此処は室内です。それ以前に受け手の匙加減でしょう」私は精一杯抵抗した。しかし、世の中には、どうしても抗えないこと
というものが存在するのだ。彼女の日本刀のような鋭い目線に私は閉口するしかなかった。
「_____わかりましたよ、どこまで力になれるかは分かりませんが尽力します」もう自棄だ。それに確かに困っている人間を捨て置けはしない。
「ふふ、有難う。それじゃ依頼内容は本人も交えて話す必要があるkら三日後のに曜日でいいかしら?」承諾した途端、彼女は満面の笑みでそういった。
「ええ、その日なら特に用事もありませんし、構いませんよ。あ、そうそう」「何?」「その友人のお名前を教えていただけませんか?」
「あら、私としたことが肝心なこと言ってなかったわ」時子は照れるように頭をかいた。
「須賀 由麻、自由の由に麻と書いてゆおと読むの」「中々変わった読みですね」「でしょう?すぐ覚えられて助かったわ」
「そうだ、もう一つ肝心なこと。謝礼はどうなるんです?」これは私にとって死活問題だ。今月はかなり切り詰めて生活している。まぁいつもカツカツだが
やるだけやってただ働きなどということになっては、それこそ私の生活が破滅してしまう。
「成功したら由麻と私の両方から。失敗したら…まぁ一応必要経費に色を付けて私からって感じに。あと貴方の小説のことも私の知り合いに
流しておくわ」「わかりました」これは失敗できない理由がまた増えてしまった。色を付けるというが、色などあってないようなもので、
まだ駄菓子屋の婆様の肩をたたいたほうが割の合うレヴェルだ。
「じゃ、話もまとまったようだし、何か注文でもしてくれ給えよ」ふと見ると、いつの間にか店長が姿を見せていた。
「店長、いままでどちらに」「何、君が捕まっていたようだったのでね、本来は君に頼もうと思っていた買い出しに行ってきたのだよ」
「もしかして逃げるための口実ですか?」「莫迦を言うな。君の代わりに買い出しに行ってやったのだ。少しは感謝したまえ。感謝の印として
伝票整理と厠掃除を頼む」何故だろう、恩恵が帳消しになった気がするが。
「逃げるって何からかしら?まさか私が嫌な客だとでも言うの?」「滅相もございませんお客様。当店はお客様第一を信条としております」
「よろしい」こういう時の私のその場しのぎの技術は胸を張れる。
「__それより注文は?此方は君のために店を早く開いたといっても過言ではないんだがね」店長がため息交じりに時子に尋ねる
「それじゃあ珈琲をいただこうかしら」「わかった、暫く待ってくれ」そういって店長は厨房へと引っ込んだ。
暫く二人は無言状態になった。それが一秒だったか三十分だったか。私はこのような沈黙は苦手だ。暫くして私は話題を無理に作るかのごとく、
「時さんは有名人だと聞きますけど、毎日ここにきて一日の半分を消費するだけですよね、活動をされているようには見えないのですが何しているんですか?出版社のと
方々とも縁があるようですし」と尋ねてみた。かなりの常連であるにも関わらず、私は彼女の名前と年齢、練馬のどこかに住んでいるということしか知らない。
しかしどうやら彼女は聞かれたくないようで、「秘密。まああなたにならもう少ししたら教えてあげてもいいかもね」と受け流されてしまった。
「___そうですか、なら無理には聞きません」「御免なさい、近いうち話すわ」
___再び沈黙が二人を覆う。しかしその沈黙は店長の一声によって払われた。
「珈琲だ」客に対する態度とは思えない扱いだ。常連だからだと気にしていないのだろう。しかし彼女もまた何食わぬ顔で珈琲を飲んでいた。
彼女もまた、そういったアテチュードを気にしないタイプの人間だのだ
結局彼女は閉店となる午後九時迄、珈琲数杯で居座り続け、私たちと他愛のない世間話をし続けていた。普通この手の客は迷惑極まりないのだろうが、一日に数十人入るか入らないかの
喫茶店にとって大した痛手ではない。むしろ数杯とはいえ金を払ってくれたのだから御の字といえるだろう。
帰り際に彼女に「何かあったら連絡するから、これから入用にもなるでしょう」と言われ連絡先を交換した。これが互いを大して知らないもの同士の交換ならば心躍るところなのだろうが
悲しいことに私は彼女の人間性を知ってしまっている。彼女と別れ、私も家路へと急いだ。