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梅のまいた種

「大丈夫……抜かないよ」


 菊は、まっすぐにアルテンを見た。


 彼女の相方が、叩き出したであろう男を。


 リサーが、刀に手を掛けない菊に、ほっと安堵した次の瞬間、アルテンは斬りかかってきた。


 雑だが、一応剣術を習ったことのある動きだった。


 だが、余りに遅い。


 自分に振り下ろされる剣の、側面に手を当て――横の力を加えられるほど。


 こちらの剣は、斬るというよりは、鋭い鈍器に近い。


 鍛冶技術のせいか、戦い方のせいか。


 遅いと言うことは、鈍器にとっては致命的だ。


 ちゃんと当てなければ、相手はまた立ち上がるのだから。


「うわぁっ」


 横からの衝撃に、アルテンの手は耐えられなかった。


 剣を、落としてしまったのだ。


 しかし、しびれただろう手をそのままに、彼は剣を拾おうとする。


 へぇ。


 少し、感心した。


 さっさとあきらめる坊っちゃんだと、思っていたからだ。


 剣を拾わせた。


 また、横から落とす。


 また、拾わせた。


 今度は、なんと刃の部分を横にして振り下ろしてくる。


 菊は、しぶとい相手を、内心で喜んでいた。


 これなら、横から弾く手が危険だし、まともに当たっても痛みを与えられる。


 菊は。


 上から振り下ろされる剣の平を――両の手の平で、下から受け止めた。


 相手は、ダイではない。


 腰の入っていない、坊っちゃんの一撃だ。


 しかし、力を流しながらも、それはずしんっと菊の全身に響いた。


 恵まれてるな。


 高い上背、贅肉より筋肉のつきやすそうな身体。


 これで、遅さと精神的なものを何とかすれば、なかなかいいものになりそうだ。


 菊は、まだ剣をあきらめていないアルテンを見た。


「景子さん……」


 顔はそのままに、彼女は後方の景子を呼び掛けた。


「悪いんだけど……私、こいつにしばらく付き合っていいかな?」


 梅のまいた種を、菊は実らせる気になってしまったのだ。


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