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命の光

 お天道様の目。


 景子の頭の中に、祖母の言葉がよみがえる。


 彼女の目を指して、そう言ったのだ。


 そして、ついさっき。


 アディマに、太陽の目と言われた。


 彼が言葉にしたのは、単なる比喩なのかもしれない。


 しかし、彼は不思議な血を持つ人で──そういうものまで分かってしまうのかも。


 景子は、居心地悪くもじもじした。


 昔の記憶が、彼女の足かせになっている。


 しかし、アディマも不思議な血筋らしいから、言ったところで悪く思われることはないのかもしれない。


 だけど、でも、あの、その、あうう。


 足踏みをする彼女に。


「いいよ……無理に言わなくても」


 彼は、少し寂しそうに笑った。


 胸が、きゅっとしめつけられる。


 ああ、違うの。


 そうじゃないの。


 景子は、もどかしさで足をジタバタさせた──心の中で。


 アディマを信用していないとか、そういうことじゃない。


 ただ、臆病に輪がかかっているだけなのだ。


 子供の頃から、だんだんと厚くなったその殻。


 それを破るには、固くなりすぎてしまった。


 苦しい喉に、何か大きなものが詰まって、彼女から声を奪う。


「大丈夫だよ……ケーコ。太陽は、なくなったりしないから……雲に隠れても、夜になっても、また必ず出てくる」


 泣きそうな、顔になっていたのかもしれない。


 アディマの声は、優しくてまるで子供をあやすような音をしていた。


 ずっとずっと年下の彼に、こんな声を出させてしまうなんて。


 自分が、とても幼稚な生き物に感じた。


 がん、ばれ、私。


 景子は、空気しか吐き出せない駄目な唇を、奮い立たせようとした。


 厚い殻も、喉に詰まった塊も──全部景子が作り出したもの。


 それが、アディマに距離を感じさせたのだ。


「あの……ね……命の……光って……あるのか……なぁ」


 喉がカラカラで、声が掠れて消えていきそうになった。



 ※



「命の……光?」


 アディマが、確認するように復唱する。


 それだけで、景子は身がすくんでしまいそうだった。


 身体が縮こまって、動けなくなるのだ。


 彼の言葉に、頷きさえも出来ない。


 しかし、これでも景子は、言葉に大量の逃げ場を用意したのだ。


 少しの嫌悪でも見せられたら、彼女はダッシュで遥か後方に逃げ散らかす気だった。


「ああ……」


 ふと、アディマは何かを思い出した声をあげる。


 それだけで、景子の寿命は3年は縮んだ。


「だから……あの時、ダイエルファンを出し抜いた彼らが分かったのか」


 その上、彼は少しおかしそうに笑い出すではないか。


 は?


 景子は、話の飛躍にすぐにはついていけなかった。


「あの後の、ダイエルファンは本当に気難しい顔をしていてね。おそらく落ち込んでいたんだろう……あんな彼を見たのは、あの時が初めてだよ」


 あの時。


 景子は、一生懸命記憶を探って、該当するものを探そうとした。


「えっと……太陽の木の実の……町の……こと?」


 気配のない、二人の刺客に襲われた時のことくらいしか、思い当たる節がなかった。


「そう……あの時。あの時、ケーコがいてくれなかったら……僕も無傷では済まなかっただろうね」


 ええと。


 どんどんと進むアディマの言葉に、景子はついていけてなかった。


 彼は、いともあっさりと『命の光』なる言葉を飲み下し、その先の話に駆け抜けていたのだ。


 ああ、えっと、あの……。


 景子の方が、アディマをちょっと立ち止らせたくなるほど。


「あの……えっと……気持ち、悪く、ない?」


 おそるおそる。


 景子は、それを口にしていた。


「ケーコは……僕が気持悪いかい?」


 困ったように笑う、アディマ。


 そんな!


 景子は即座に、首を横に振った。


 振りすぎて、顔のパーツがどこかにすっ飛んでいってしまいそうなほど。


 何とか、顔のパーツは無事だったが。


「そういうことだよ……」


 アディマの優しい声に対応しきれず──変な角度で身体が固まってしまったのだった。

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