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目の中の太陽

 アディマたちは、西へと向かっていた。


 太陽の沈む方だ。


 最初の旅の時は、太陽が昇る方に向かっていたので、このまま進めばまた梅のいる領地に戻れるのだろう。


 その前に。


 神殿から、ひとつ西の領主の屋敷に立ち寄ることとなった。


 そこには──シャンデルがいるのだ。


 領主の挨拶の後に現れたシャンデルは、まずアディマの姿に驚いていた。


 頭では分かっていたのだろうが、驚かずに済むという話でもない。


「神殿までお供できず、本当に申し訳ありませんでした」


 深々と腰をかがめる彼女の足は、もう問題なさそうだ。


 そんなシャンデルが、次に驚いたのは──おまけの二人である。


 あ、あは。


「お久しぶりです……」


 景子は、おそるおそる話かけた。


 前よりしゃべれるようになりましたという意味と、また戻ってきちゃいましたという意味で。


「ああ……そうですの」


 ツン、とシャンデルは一瞥しただけで、あらぬ方を向いてしまう。


 その次の瞬間。


 ダイが、くっと一笑した。


 笑わずには、いられなかったように。


 すぐさま、シャンデルに睨まれて、ダイは唇を閉じた。


 何か、ダイにしか分からない事情でもあるのだろうか。


 景子が「?」になっていると、アディマがこう教えてくれたのだ。


「シャンデルは、二人がいなくなってから、すごく気落ちしてね……再会出来て、あれでも喜んでいるんだよ」


 言葉に驚いて、彼女はシャンデルの方へと視線をブン投げてしまった。


 何を言われたのか分かったのか、シャンデルが一瞬で耳まで赤くなる。


 目だけ、一生懸命景子を睨んでいるが、まったく迫力がなかった。


 しかも、告げ口した相手がアディマなのだから、彼を睨んだり責めたりできるはずもなく。


 ププププイッ!


 顎で、大きく弧を描くので精いっぱいのようだった。



 ※



「男ばかりの旅で、気苦労があっただろうからね……やはり、他に女性がいるのは心強かったのだろう」


 アディマの部屋。


 領主宅で過ごす夜、訪問した景子に、彼はシャンデルの話をしてくれた。


 勿論、本人のいないところで、だ。


「男の供は二人と決まっているが、女性は数には入らない。彼女は、リサードリエックの遠縁でね。僕の身の回りの世話に、と連れて来たんだよ」


 ああ、そうか。


 アディマの説明に、リサーの気持ちが少し分かった。


 少なくとも、神殿に着くまでのアディマは、子供の身体だったのだ。


 歩みも遅いし、疲れるのも早い。


 そんな身体の小さな彼の世話を、無骨な男だけでは出来ないと思ったに違いない。


 自分の遠縁であれば、もし女の身のシャンデルが旅を続けられないと判断した場合、置いていく決断もしやすいだろうし。


「でも……女性は数に入らなくてよかったよ」


 ふと、アディマが小さくそれを呟いた。


「え?」


 想像中だった景子は、うまく耳が音を拾えていない気がして、彼を見る。


「女性の数が決まっていたら、ケーコたちを連れては行けなかったろう?」


 優しい、けれども吸い込まれそうな猫目石の瞳。


 ああ、そうだ。


 最初にこの瞳に、目を奪われたのである。


 子供の外見とは裏腹な、深い深い瞳。


「何で……」


 景子は、瞳に吸い込まれながら、そう唇を開いていた。


「何で……私たちを連れて行こうと思ったの?」


 アディマの旅とは、彼女らはまったく無関係だ。


 連れて行く必要性の方が、ないように思えた。


 アディマは──両目を閉じる。


 何かを思い出すように、少しの間そうしていた。


「初めて会った時……ケーコの目の中に……太陽が見えたからだよ」


 瞳が、開く。


 琥珀金の瞳が。


 景子は。


 ドキッとギクッを、同時に抱え込むこととなったのだった。


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