目の中の太陽
☆
アディマたちは、西へと向かっていた。
太陽の沈む方だ。
最初の旅の時は、太陽が昇る方に向かっていたので、このまま進めばまた梅のいる領地に戻れるのだろう。
その前に。
神殿から、ひとつ西の領主の屋敷に立ち寄ることとなった。
そこには──シャンデルがいるのだ。
領主の挨拶の後に現れたシャンデルは、まずアディマの姿に驚いていた。
頭では分かっていたのだろうが、驚かずに済むという話でもない。
「神殿までお供できず、本当に申し訳ありませんでした」
深々と腰をかがめる彼女の足は、もう問題なさそうだ。
そんなシャンデルが、次に驚いたのは──おまけの二人である。
あ、あは。
「お久しぶりです……」
景子は、おそるおそる話かけた。
前よりしゃべれるようになりましたという意味と、また戻ってきちゃいましたという意味で。
「ああ……そうですの」
ツン、とシャンデルは一瞥しただけで、あらぬ方を向いてしまう。
その次の瞬間。
ダイが、くっと一笑した。
笑わずには、いられなかったように。
すぐさま、シャンデルに睨まれて、ダイは唇を閉じた。
何か、ダイにしか分からない事情でもあるのだろうか。
景子が「?」になっていると、アディマがこう教えてくれたのだ。
「シャンデルは、二人がいなくなってから、すごく気落ちしてね……再会出来て、あれでも喜んでいるんだよ」
言葉に驚いて、彼女はシャンデルの方へと視線をブン投げてしまった。
何を言われたのか分かったのか、シャンデルが一瞬で耳まで赤くなる。
目だけ、一生懸命景子を睨んでいるが、まったく迫力がなかった。
しかも、告げ口した相手がアディマなのだから、彼を睨んだり責めたりできるはずもなく。
ププププイッ!
顎で、大きく弧を描くので精いっぱいのようだった。
※
「男ばかりの旅で、気苦労があっただろうからね……やはり、他に女性がいるのは心強かったのだろう」
アディマの部屋。
領主宅で過ごす夜、訪問した景子に、彼はシャンデルの話をしてくれた。
勿論、本人のいないところで、だ。
「男の供は二人と決まっているが、女性は数には入らない。彼女は、リサードリエックの遠縁でね。僕の身の回りの世話に、と連れて来たんだよ」
ああ、そうか。
アディマの説明に、リサーの気持ちが少し分かった。
少なくとも、神殿に着くまでのアディマは、子供の身体だったのだ。
歩みも遅いし、疲れるのも早い。
そんな身体の小さな彼の世話を、無骨な男だけでは出来ないと思ったに違いない。
自分の遠縁であれば、もし女の身のシャンデルが旅を続けられないと判断した場合、置いていく決断もしやすいだろうし。
「でも……女性は数に入らなくてよかったよ」
ふと、アディマが小さくそれを呟いた。
「え?」
想像中だった景子は、うまく耳が音を拾えていない気がして、彼を見る。
「女性の数が決まっていたら、ケーコたちを連れては行けなかったろう?」
優しい、けれども吸い込まれそうな猫目石の瞳。
ああ、そうだ。
最初にこの瞳に、目を奪われたのである。
子供の外見とは裏腹な、深い深い瞳。
「何で……」
景子は、瞳に吸い込まれながら、そう唇を開いていた。
「何で……私たちを連れて行こうと思ったの?」
アディマの旅とは、彼女らはまったく無関係だ。
連れて行く必要性の方が、ないように思えた。
アディマは──両目を閉じる。
何かを思い出すように、少しの間そうしていた。
「初めて会った時……ケーコの目の中に……太陽が見えたからだよ」
瞳が、開く。
琥珀金の瞳が。
景子は。
ドキッとギクッを、同時に抱え込むこととなったのだった。




