笑い話
△
いい気分で、菊は部屋へと戻った。
ほんの少しの酒で、微かにふわついていたのだ。
酒は、たしなまないほうがいいな、と思いながら。
杯に残った酒は、結局ダイが全部片付けたが。
一瓶開けてもなお、彼はけろっとしている。
相当のうわばみのようだ。
部屋に戻ると、景子がソファに座ったまま、奇妙な顔をしていた。
「景子さん?」
声をかけると、はっと顔を上げる。
「何かあったの?」
向かいのソファに腰掛けながら、菊は聞いてみた。
「あーうん……さっきまで、アディマが来てたんだけど……」
御曹司が、ケーコをお気に入りにしているのは、ちっこい頃から分かっていた。
「ダイさんの話を、いろいろしてくれたんで……聞いてたら……」
そこから先の話は──笑い話だった。
酔いの影響もあるのだろうが、菊は自分でもおかしいと思うほど笑ってしまったのだ。
「え? え?」
分かっていない景子を見ると、なおさらおかしさが増す。
景子が、余りにダイのことを聞くので、彼女がダイを好きなのかと思ったに違いない。
御曹司は、いっちょまえにダイにやきもちを焼いたのだ。
そうじゃないと分かった途端、ほっとして笑い出した、というところだろう。
御曹司はまもなく19歳になると、前に景子に聞いていた。
前に小さかったのが、普通じゃなかったのだと。
元から子供らしくなかったが、ついに中身と身体が一致したのである。
色恋のひとつやふたつ、芽生えてもおかしくなかった。
いや。
大きくなる前から、それは芽生えていたようにさえ思えたのだ。
さてもさても。
どうなることやら。
菊は、目を細めた。
「何がおかしいのー?」
メガネの目を、ぐるんぐるんと動かす景子を前にしながらも、菊は自分の推測を口にすることはなかった。
人の恋路に口出しするのは、野暮天のすること、ってね。




