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血の証明

 セルディオウルブ卿は、一足先に荷馬車での帰路についた。


 再会したリサーは、朝から不機嫌だった。


 しかし、再び彼らの旅と、道をひとつにしたのだ。 


 その喜びを、景子は心の奥底からかみ締めていた。


 ただ、最初の旅と違うことがいくつか。


 シャンデルは怪我のため、手前の町の領主のところに預けられている、ということと──アディマの身長、だ。


 正確には、身長だけではないのだが、とにかく景子は、まだそれには慣れていなかった。


 それと、景子の言語能力。


 前と違い、会話が分かるということは、とても旅に安心感が出る。


 しかし、リサーと話をしていると、彼は時々顔を歪めるのだ。


 どうやら、農村で覚えた言葉も多いため、ところどころ変な訛りがついたらしい。


「田舎者らしいな」


 リサーに、容赦ない一撃を食らってしまう。


「リサードリエック、歩きながらケーコと話をしたいんだが……」


 アディマは、旅路の途中でそう告げた。


 リサーの視線が、一瞬後方の景子に飛ぶ。


 しかし、主君の言葉は、許可を取っているという意味合いではなかった。


 そうしようと思っているが、反対はしないよな?


 そんな、念押しに聞こえたのである。


「勿論ですとも……我が君」


 前半部は見事な棒読みで、リサーは道を開けた。


 ああああ、視線が痛い。


 景子の背中に突き刺さる、心配性のお供の視線を浴びつつ、景子はアディマの斜め後ろに立った。


 さすがに、真横に並ぶのはまずいよなあ、という配慮のせいだ。


 思えば、昔は何も知らない、言葉も分からないということで、相当アバウトだった気がする。


 このアディマと、すぐ横で眠ったことさえあるのだ。


 あれ?


 景子は、自分の記憶に、首を傾げた。


 何か、変だったのだ。


 あ。


 心当たりにぶちあたった時、彼女は一人奈落に落ちてゆくこととなる。


 景子は──姿は子供だったとは言え、18歳の男に寄り添って眠っていたのだ。



 ※



 その影響は、モロに夜に現れた。


「久しぶりに、側で眠るかい?」


 野宿の準備の済んだ火の側で、アディマに呼ばれたのだ。


 その時の景子ときたら、敵から逃げるエビよりも素早く後方へぶっ飛んだのである。


「ダ、ダメデス! 絶対ダメデス!」


 そして、力の限り断固拒否したのだ。


 おかげで。


 菊に、肩を震わせてまで笑われるし、アディマはちょっと呆然とした顔をしているし。


 だが、たとえ笑われようとも、菊にべったり貼りついているしか出来なかった。


「当然です」


 リサーは、そんな景子の行動に頷いている。


「我が君は、もはやその御姿になられたのです。前のようには参りません」


 きっぱりと言われたアディマは──自分の両手を見た。


 このサイズに慣れていないのは、彼もまた同じようだ。


「どうして……18歳なのに小さかったの?」


 旅の途中、こっそり景子はアディマに聞いてみた。


 リサーに聞かれると、何だか怒られそうな話題に思えたのだ。


「僕らの一族は、髪に力を蓄えるんだよ」


 そんな風に、彼の言葉は始まった。


「ただ……余り伸ばすと、髪の力が大きくなりすぎて、身体の成長が非常に遅くなる」


 景子の頭の中では、アディマが重い帽子をかぶって、背が伸びなくなってしまった図が浮かんだ。


 間抜けなデフォルメだが、まあ似たようなものなのかもしれない。


「髪を切ると……抑えられていた力が解放され、こうなったわけだよ」


 アディマは軽く微笑みながら、両手を広げて見せた。


 は、はあ。


 不思議な血を、お持ちのようだ。


 景子は、自分も不思議な力を持っているくせに、なかなか現実味のあることとして、彼の言葉を受け止めきれずにいた。


 だが、アディマの笑みは苦笑に変わる。


「血を誇示するための行事でもあるからね……神殿詣では。髪を切って、突然大きくなるなんて……この上ない血の証明だろう?」


 ああ、そうか。


 言葉に、景子は納得した。


 誰も真似できない、そして、誰の目にも明らかな事象。


 それは、他人に畏敬の念を抱かせるには、十分すぎる材料に見えたのだった。


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