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太陽

 菊は、神殿の中にこそ入れなかったが、おかげで気楽に周辺を観光することが出来た。


 観光そのものに、さしたる興味はないのだが、やはり神事を行う場所である。


 建物の質は、自分の知るものと全て違うというのに、同じ気を感じるのだ。


「この世界も、やっぱりアマテラスか」


 微かに、笑みさえ浮かぶほど。


 太陽信仰は、本当に強いな、と。


 神殿の周りをぐるりと回っていると、さっき入口に立っていた護衛神官と同じ服装の連中がいた。


 こちら側には、彼らの詰め所でもあるのか。


「何者だ?」


 義務的な、誰何が飛んでくる。


 こんな場所、誰が来てもさして問題ないだろうに、そうやって聞かずにはいられないほど、毎日警備の仕事ばかりなのか。


「神殿……客……連れ」


 カタコトで、菊は答えた。


 この神殿の客という時点で、彼らにとっては大きな印籠をかざすようなものだろう。


 そう思ったのだ。


 一般人なら、最初の門番で追い返されているだろうから。


 ああ、と。


 彼らは納得したようだったが、次は少し珍しそうに、菊の腰の物を見る。


「面白い形──見せ─」


 またか。


 定兼に興味を示され、菊はすぐさま手で拒否を表した。


 そして、トラブルを避けるため、彼女は踵を返すのだ。


 さっさと、表へ戻ろうと思ったのである。


 曲がり角を、表側に曲がった瞬間。


 誰かとぶつかりそうになって、菊は反射的に飛びのいていた。


 ぎりぎりまで、気配が分からなかったのだ。


 護衛神官にも、手練れがいるんだな。


 そう思いながら、菊は態勢と衣服を整えた。


「……」


 視線を、感じる。


 菊は、整え終わり顔をそちらへと向けた。


 いま、自分がぶつかりそうになった相手だ。


 そして。


 目を細める。


 ダイ──だった。



 ※



「やっぱ来てたか……元気そうで何より」


 ダイだと分かるや、菊は日本語全開になった。


 その太い腕を、ぽんぽんと叩いて再会を確認する。


 腰には相変わらず剣をはいていて、彼も神殿の中に入れない組であることを知るのだ。


「ということは、御曹司は中か……ちょうどよかったな」


 お互い、無事で何よりだ。


 菊は──いまの自分は少し饒舌だな、と思った。


 予想以上に、この再会が嬉しかったらしい。


 半分は、景子のために。


 半分は、やはり自分のためか。


 このうすらデカイ男を見ると、非常に安心してしまうのだ。


 男の目が、菊の頭の上を左右にさまよう。


 誰かを探している様子だ。


 ああ。


 菊は、すぐに分かった。


「景子さんなら……中」


 彼女は、親指で神殿の方を指す。


 その指を目で追った後、ダイは少し考え込んでいるようだった。


 そして。


 太陽を見た。


 正確には、太陽の角度か。


 いま、何時かを知ろうとしているかのように。


 太陽は、頂点を過ぎようとしていた。


「大丈夫か?」


 珍しく長考している様子に、菊は呼びかける。


「もうすぐ……──終わる」


 視線が、神殿を見る。


 ああ。


 神事が、もうすぐ終わるのだろう。


 ということは。


 景子は、御曹司と神殿で再会出来るかもしれない。


「それは、よかった」


 菊が、穏やかに日本語でそう言っても──ダイは、まだ複雑な表情を解けないでいた。



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