枝
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「少し、見栄えをよくしようか」
景子の相談に、菊はそう言った。
「……?」
景子の手にある枝に向かって、彼女はそう言うのだが、意味が良く分からない。
希望としては、この木をあの中庭の木に接ぎ木したいというものだ。
持ち主の神殿とやらに、どう話を持っていくか。
相談は、それだったのに。
「もう少し水を吸わせて、生き生きとさせよう」
菊の言う言葉は理解できるし、それに近いことは可能だ。
だが、枝の見栄えを上げて、どうしようというのだろう。
「私たちは、その枝を持って神殿へ行く。元々、櫛なんて持ってきてないんだし」
菊は、自分の半端に伸びてきた髪の先を、指ではじいた。
ああ、そうか。
櫛も持たずに、捧櫛の神殿という名の場所に、どうやって巡礼する気だったのか。
目的が別のものだっただけに、景子はすっかり失念していた。
「そして、こう言うんだ。『太陽の木の枝を捧げに参りました』、と」
神社で玉ぐしを捧げるように、菊の両手が何かを額の上に掲げるしぐさを見せる。
「果物の騒ぎを、景子も見ただろう? あのリサーでさえ、目の色を変えたんだ。その木が、神殿の持ち物なら尚のこと……あの神殿も、太陽の木を大事にしているに違いないよ」
ようやく。
ようやく景子は、菊の言わんとしていることが分かってきた。
太陽の木を捧げに来た。
そう言えば、神殿は彼女らを招き入れるかもしれない、と。
そして、接ぎ木の説明でも何でもするがいい、と。
みなの愛する太陽の木が、一枝だけとは言え、この町に入り息づくかもしれない。
「それで断られたら……また、別の木を探せばいい。無理に、ここの木に固執することもないさ」
菊は、聡明だった。
そして、潔かった。
彼女にそう言ってもらえると、他の木がまた見つかりそうな気になるから不思議である。
「そうね、やってみる」
だめでもいいのだと分かったら──景子は、すっかり気が楽になってしまった。




