銃刀法違反
☆
さっきまでの威勢はチリと消え、景子はその場にへなへなと座り込んだ。
そ、そんな。
ほっぺたが、ジンジンする。
予想外に強くつねっていたようだ。
しかし、その痛みを感じれば感じるほど、ここが現実だと思い知るだけで。
「菊……」
梅が自分の姉妹を呼び、空を指す。
茫然しながらも、景子もそれにつられていた。
満点の星空。
田舎、というだけでは済ませられない星の海。
違う。
それくらい、彼女にも分かった。
そこにあるのは、景子の知る空ではなかったのだ。
浮かんでいるのは黒い月。
新月とは違う、黒々とした月だった。
その黒で際立つように、星々が光るのだ。
そして空には──オリオン座もカシオペア座も、北斗七星もなかった。
第一。
寒くない。
涼しくはあるが、あの花屋にいた時と、気温が明らかに違うのだ。
だからといって、夏の星座が空にあるわけでもなかったのだが。
「まさか……」
これが夢でないというのなら。
景子の頭に、最悪の事態が浮かぶ。
その声に引っ張られるように、姉妹が彼女を見つめてくる。
「まさか……私たち……地震で死んじゃった、とかじゃないよね」
それなら、ここは差し詰め死後の世界。
誰もが想像でしか知らない、三途の川の別形態なのかも。
景子の意見に、二人は一瞬長物に視線を落とした。
そして、菊は草の葉の遠い向こうを、すぅっと見やる。
「ここが死後の世界というのなら……」
布を閉ざしている紐を、彼女はゆっくりと解き始めた。
「やってくるのは……閻魔か鬼か」
草原の光の彼方に──別の光が混じっていた。
※
「抜くの?」
梅が、夜風にかき消されるほどの声で囁く。
景子は風下にいたおかげか、かろうじて聞き取れた。
「そのための物だろう?」
菊の声に、微かな高揚感が混じっている気がする。
その事を、彼女はいやがってはいないのだ。
抜く?
何のことか分からない景子の前で、菊は美しい布の袋を取り払った。
ああ。
布は、光を失う。
そのまま、梅の手に力なく落ちてゆく。
光っていたのは、その内側の美しい長物。
菊の手の中に、それはあった。
純粋な、まっすぐではない。
若者の背のように、美しい反りの曲線を描いている。
刀?
本物を見たことのない景子は、ついつい疑問形になった。
しかし、見惚れずにはいられない、業物なのだけは分かる。
「でも……それは……」
梅は何かを言いかけたが──そこまでで止める。
こんなものを、持って歩いていたのだ。
警察官に職務質問され、中身を改められたらお縄になるようなもの。
何か、よほどの理由があったのだろう。
そう言えば。
弟が生まれたと言っていた。
年の離れた弟だ。
その誕生の祝いに、梅は桜の苗を買いに来た。
そして。
菊の手には、刀があった。
何か、弟の誕生と関係があるのだろうか。
余計なことを考えていた景子に、菊が振り返る。
「梅を……頼む」
菊の瞳に気おされて、彼女はこくこくと頷くことしかできなかった。




