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銃刀法違反

 さっきまでの威勢はチリと消え、景子はその場にへなへなと座り込んだ。


 そ、そんな。


 ほっぺたが、ジンジンする。


 予想外に強くつねっていたようだ。


 しかし、その痛みを感じれば感じるほど、ここが現実だと思い知るだけで。


「菊……」


 梅が自分の姉妹を呼び、空を指す。


 茫然しながらも、景子もそれにつられていた。


 満点の星空。


 田舎、というだけでは済ませられない星の海。


 違う。


 それくらい、彼女にも分かった。


 そこにあるのは、景子の知る空ではなかったのだ。


 浮かんでいるのは黒い月。


 新月とは違う、黒々とした月だった。


 その黒で際立つように、星々が光るのだ。


 そして空には──オリオン座もカシオペア座も、北斗七星もなかった。


 第一。


 寒くない。


 涼しくはあるが、あの花屋にいた時と、気温が明らかに違うのだ。


 だからといって、夏の星座が空にあるわけでもなかったのだが。


「まさか……」


 これが夢でないというのなら。


 景子の頭に、最悪の事態が浮かぶ。


 その声に引っ張られるように、姉妹が彼女を見つめてくる。


「まさか……私たち……地震で死んじゃった、とかじゃないよね」


 それなら、ここは差し詰め死後の世界。


 誰もが想像でしか知らない、三途の川の別形態なのかも。


 景子の意見に、二人は一瞬長物に視線を落とした。


 そして、菊は草の葉の遠い向こうを、すぅっと見やる。


「ここが死後の世界というのなら……」


 布を閉ざしている紐を、彼女はゆっくりと解き始めた。


「やってくるのは……閻魔か鬼か」


 草原の光の彼方に──別の光が混じっていた。



 ※



「抜くの?」


 梅が、夜風にかき消されるほどの声で囁く。


 景子は風下にいたおかげか、かろうじて聞き取れた。


「そのための物だろう?」


 菊の声に、微かな高揚感が混じっている気がする。


 その事を、彼女はいやがってはいないのだ。


 抜く?


 何のことか分からない景子の前で、菊は美しい布の袋を取り払った。


 ああ。


 布は、光を失う。


 そのまま、梅の手に力なく落ちてゆく。


 光っていたのは、その内側の美しい長物。


 菊の手の中に、それはあった。


 純粋な、まっすぐではない。


 若者の背のように、美しい反りの曲線を描いている。


 刀?


 本物を見たことのない景子は、ついつい疑問形になった。


 しかし、見惚れずにはいられない、業物なのだけは分かる。


「でも……それは……」


 梅は何かを言いかけたが──そこまでで止める。


 こんなものを、持って歩いていたのだ。


 警察官に職務質問され、中身を改められたらお縄になるようなもの。


 何か、よほどの理由があったのだろう。


 そう言えば。


 弟が生まれたと言っていた。


 年の離れた弟だ。


 その誕生の祝いに、梅は桜の苗を買いに来た。


 そして。


 菊の手には、刀があった。


 何か、弟の誕生と関係があるのだろうか。


 余計なことを考えていた景子に、菊が振り返る。


「梅を……頼む」


 菊の瞳に気おされて、彼女はこくこくと頷くことしかできなかった。



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