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二度目のさようなら

 朝。


 無言で、身体を揺すられる。


「ん……?」


 身体は、まだ寝足りないと訴えるが、景子は何とか目を開けた。


 旅の日々に、寝足りる日などありはしないのだから。


 目を開けると、まだ辺りは暗い。


 メガネをかけて、自分を起こした人をよく見ると──菊だった。


 呼びかけようとしたら、人差し指で声を出してはいけないと伝えられる。


 あ。


 菊の神妙な表情に、反射的に意味を理解した。


 前もって、彼女に言われていたから尚のことだ。


 起きているのは、ダイだけ。


 いつ寝ているのか不思議な彼は、じっとこっちを見ている。


 ああ。


 菊は、静かに旅立つ準備を始めていた。


 景子はすぐに動けないまま、目だけでアディマの寝ているところを見つめた。


 最近、リサーの機嫌が特に悪いので、側で寝るのを遠慮していたのだ。


 アディマもまた、彼の機嫌の悪い理由を理解しているのか、甘んじてそれを受けているように思えた。


 菊が勝手に思い立って、動いたとは思いづらい。


 ということは、このことを少なくともリサーは知っているのだろう。


 ダイの様子からも、それが見てとれる。


 不審に思う気配も、止める気配もないのだから。


 準備なんて──すぐに出来てしまう。


 景子は、足を戸惑わせた。


 もう一度、アディマを見る。


 マントをかぶっているために、よく顔が見えない。


 そんな景子の肩を、ゆっくりと菊が触れた。


 でも、だって。


 お別れも言ってない。


 こんなに素晴らしい旅を、共に出来たお礼も言えてない。


 動けない彼女を、菊は引っ張ってゆく。


 引っ張った先にいたのは──ダイ。


 彼の前に、菊は景子の身体を押し出すのだ。


 ああ。


 言いたいことがあるのならば、彼に伝えていけばいいと。


 そう、菊は言いたいのだろう。


 あうあう。


 頭の中に、たくさんの言葉が渦巻く。


 しかし、景子が捕まえられた言葉は、たった一つの日本語だけ。



「さようなら……」



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