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違和感

「ひゃっ……はぁ……!」


 こけつまろびつ。


 景子は、坂道を転がるように駆け下りていた。


 足はいまにももつれそうだし、喉もちぎれそうだ。


 な、なんで!?


 後ろから迫る、大きな四肢の生き物。


「グワオオオオ!」


 とか、巨体を震わす咆哮を上げながら、景子を追うのだ。


 なんで、こんなことになっちゃったのよぉーー!


 遡るのは、ほんの10分ほど前でいい。


 山越えの途中、アディマ一行は、食事を兼ねた休憩に入ったのだ。


 これ幸いと、景子は少し離れた茂みに向かった。


 生理現象である。


 休憩中、女性が一人で短い間集団を離れるのは、暗黙の了解的なものがあった。


 菊にちらとアイコンタクトだけを残し、彼女は『花を摘みに』行ったワケだ。


 さあ、元の場所に戻ろうと思った時。


 パキっと、枝の折れる音がした。


 その折れた枝が、上からぱらりと降ってきたのだ。


 えっと顔を上げると。


 そいつが、ズシィィィンっと飛び降りたのである。


 運の悪いことに、景子とアディマ一行の間に。


 ク、クマ?


 正確には違うが、要するに見るからに獰猛な獣が、景子の目の前にいたのだ。


 食べられる!?


 そう本能で察知した次の瞬間。


 景子は、走り出していた。


 獣の方に走るなんて、出来るはずがない。


「きゃあああああああ!」


 反対に向かって、命の限り駆け出したのだ。


 頭によぎるのは、菊とダイ。


 こんな時、一番頼りになるはずの二人である。


 しかし、二人とも近接武器だ。


 逆方向に逃げる景子や獣に追いつくには、時間がかかるだろう。


 いやー! 死にたくないー! たすけてーー!


 彼女は、人生の中で一番速く走るしかなかったのだった。



 ※



 ドォンッ!


 大砲が炸裂したような大きな音が、後方であがった。


「グギャインッ!」


 そして、猛った生き物の叫ぶ悲鳴。


 ドスン、バタン、ゴロゴロゴロ。


 その生き物は、大きな身体をもんどり打たせるように、斜面を転がり落ちていった。


 景子は、側の木の幹にしがみつくようにして身体を止めながら、その光景を信じられないまま見ていた。


「な……なに……?」


 ひゅーひゅーぜーぜー。


 全然足りていない酸素の中、興奮したままの彼女は、それを何とか音にした。


 斜面の上を見上げると、菊が滑るように駆け下りてくるところで。


「大丈夫? 景子さん? 怪我は!?」


 手には、鞘ごとの刀を握ってはいるが、抜いてはいない。


 コクコクと頷いて、無事を伝える。


 菊が、ほぉっと脱力したようにため息をついた。


 ダイは、アディマを支えるようにゆっくりと降りてくる。


 その後から、残りの二人。


「───!」


 怒っているのは、リサーだった。


 ダイが顔を顰めるくらい、大きな声で怒りの声をあげている。


 早口で、さっぱり聞き取れないが、ダイが怒られるようなことをしたのだろうか。


 自分に向いている怒りではないことに、景子が驚くほどだ。


 リサーが一行の主なら、彼女などとっくに放り出されているだろうから。


「───」


 アディマが、景子の安全を目にしながら、ほっとしたように何かを言う。


 そこで、リサーはぐぅと言葉を飲み込まされた。


「ご、ごめんなさい……」


 皆が、予定外の道を下ってきたことに、景子は青ざめながら謝りを入れる。


 悪いのは獣なのだが、冷静に対応できなかったせいで、余計な手間をかけたことは間違いないのだから。


 リサーは、忌々しそうに顔を横に向けた。


「ケーコ……大丈夫?」


 まだへたりこんだままの彼女に、アディマが心配そうな声をかける。


 あれ?


 何だろう。


 景子にもうまく説明出来ない違和感が、そこにはあった。

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