大人の人間関係
☆
翌朝。
猛烈な、町の人たちの見送りにあった。
宿屋から出るなり、陽気な人たちがわいわいと騒いでいる。
まだ、早朝だというのに。
扇動しているのは、果物屋の男。
太陽の果実を持ってきた、幸福の使者だとでも思われているのだろうか。
景子は戸惑いながらも、周囲を見渡した。
決して、裕福ではないけれども、満たされた顔の人々。
果物屋は、まだ騒いでいる。
『強い』という単語も混じっている気がするので、もしかしたら昨夜の出来事も、武勇伝のように尾ひれがついているのかもしれない。
あ、あは。
変な伝説にされそうで、景子は軽く汗を浮かべた。
そんな彼女の手を、アディマが軽く取る。
さあ、行こうと言わんばかりに。
ああ。
景子は、その瞬間がとても幸せだと思った。
自分を、菊や梅とは別の意味で必要としている人がいる。
日本人組を除けば、アディマだけが彼女を必要とする素振りを見せてくれるのだ。
他の人は、別にいてもいなくても関係ないか、少々煙たいと思っていることだろう。
だが、アディマが自分を気遣って、優しくしてくれるのはとても心が温かくなる。
それを幸せと言わずして、何を言うのか。
にこっと笑いながら、アディマの手を取ったら。
ごほん、っとリサーが咳払いをした。
煙たがっている人の代表だ。
このまま、アディマの手を取って歩いたら、景子が彼より前を歩くことになってしまう。
子供ならざる者に、困った笑みをひとつだけ向けて、景子はリサーの後方へとさがった。
勿論、シャンデルよりもっと後方に。
「前を歩けばいいのに」
菊は、肩をそびやかす。
ソウハ、イカナインデスヨ──大人の人間関係とやらに、景子は慣れ過ぎていた。




