まっくら
☆
ずれたのは、メガネだけではなかった。
身体が、激しく上下に揺れる。
じ、地震!?
声に出せないほど、景子はその場で跳ねさせられた。
必死でメガネが飛んでいかないよう、両手でおさえる。
店の中の、花やガラスやバケツも跳ねまわる。
ガシャンガシャンと、ガラスの割れる激しい音が響き渡った。
「梅!」
その大きな声に、景子ははっと目の前に焦点を合わせる。
桜の苗を抱いたまま、着物の身体が崩れ落ちようとしているのだ。
あわわわ!
パニックになったまま、景子は両手を伸ばした。
メガネが、顔の上で激しく踊るのも構わず、とにかく梅の身体を捕まえようとしたのだ。
同じことをしようとした人が、もう一人。
菊だ。
両手に長物を持ったまま、彼女は梅を受けとめようとしたのだ。
ドンガラガシャンドガンバンバン!
「……!!」
激しい音と衝撃と痛みと、そして自分がわめくキンキン声。
何を叫んだのか、自分でも覚えていないほど。
しかし、この空間で、声を出しているのは彼女だけだ。
菊も梅も、悲鳴ひとつあげない。
だからこそ余計に景子は、わめきちらした。
恐怖を紛らわす方法など、他に彼女は知らなかったのだから。
最後に覚えているのは。
光。
菊の握っている布から、溢れだした光。
それが何なのか。
理解するより先に。
景子の視界は、まっくらになってしまった。




