憤死寸前
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「ダイエルファン……やっぱり、お前もか」
恨みがましい言葉を、リサーが投げつけてくれた。
やっぱりという言葉が出るということは、彼は分かっていてダイに釘を刺していたのだ。
誰に言うこともなかった、自分でもうまく扱えなかった思いだというのに、分かる人間には分かるのだな、と素直に感心する。
「賢者の妻が異国人など……前代未聞だ!」
リサーの語気が、強くなる。
もっと前代未聞の、この国の御世継ぎがいるのだが、それは彼の中では特別枠なのだろう。
「大体、あの者はこの国の戸籍は持つまい。正式な婚姻など、出来るはずがない」
ああ。
何だと、ダイは思った。
戸籍がないから、正式に結婚は出来ない。
だから、妻にはならないのだと、そう彼は言っているのだ。
相変わらず、手続きや肩書の好きな男だ。
「構いませんし、困りません」
ダイは、妻にしたいと申し出、彼女はそれを受けた。
それ以上の約束など、ないのだ。
キクが受けたということは、彼女自身がダイを夫として決めたということ。
何ひとつ、困りはしない。
「お前は賢者になるんだぞ!」
余りに必死な表情で詰め寄られ、ダイは苦笑してしまった。
リサーの思考の中で、美しく飾られた賢者の椅子。
一代限りではあるが、約束された栄華。
その椅子に座るのに、相応しいものになれと、彼は突きつけるのだ。
「そのことですが……」
ダイは、いつもここで困っていた。
イデアメリトスの御方の期待に応えるため、相応しくならなければならないのだろうと、そう考えていたのだ。
「賢者に相応しくなければ、外して下さい」
言葉を理解しただろう直後。
リサードリエックは、憤死しかけた。
彼に、胸ぐらを掴まれたのは──これが初めてだった。




