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キキュ

 夜明け間近に町を抜けると、辺りは深い森になった。


 朝日が昇ってきたらしく、少しずつ光は入ってくるものの、そこは薄暗い。


 しかし、景子には朝に目覚めた木々が、生命力豊かに輝いているのが見えている。


 見なれない種類の木々、植物。


 彼女は、アディマたちとはぐれてしまわないよう、気をつけなければならないほど、周囲の植物に夢中になった。


 途中、やや斜面がかったところにハート型をした葉を見つけ、抜いてみたい衝動にかられる。


 イモ系の葉に、とてもそっくりだったからだ。


 あの地面の下に、同じようなイモがあるのではないか。


 そんな好奇心を押さえられなかった。


 だが、旅は進む。


 心を残しながらも、景子はアディマについて行くのだ。


「なあ、ダイ……どこへ向かってるんだ?」


 当たり前のように日本語で話かける菊に、ダイが反応するより先に、もう一人の男が振り返った。


「───」


 少し険しい表情と言葉。


 何か、説教をしている風にも聞こえる。


 景子が反応できずにいると、菊が嫌そうにあらぬ方を向いた。


 男はため息をつき、しぶしぶと言った感じで、己の胸に触れる。


「リサードリエックリンバー……」


 彼が、どうやら自己紹介をしているということに、ようやく気付いた。


 やっぱり長い。


 フルネームだとしたら、どこで切ったらいいのか分からない。


 そして、同時に景子は気づいた。


 菊が、これまで一度も名乗っていないことを。


「菊」


 対する日本人の名前の、なんと短いことか。


 リサーは、呆れた顔をした後。


「キキュ……」


 見事に──噛んだ。


 ぶふっと。


 あのダイが、笑った。


 アディマも、笑った。


 女性だけが、違う方を向いたまま歩いているが、微かに耳が赤くなっている気がした。


「ゴホン……」


 リサーは、大きく咳払いをして何故か景子を睨んだ。


 何で私にとばっちりーーっ。



 ※



「キキュ……───」


 やっぱり発音できないまま、リサーが歩きながら説教の続きを始めたようだ。


 名前を知ろうとしたのは、呼びかける手段がなくては注意を引けないと思ったからなのか。


 真面目そうな人だ。


 景子にも、だんだんリサーの性格が見えてきた。


 この旅のメンバーの中では、アディマの次に身分が高く、そして旅そのものの仕切り役のようだ。


 だから、不確定要素の菊や景子を、若干警戒している様子が見てとれた。


 アディマの言うことには従うが、それ以外は彼の言うことに従わなければならないのだろう。


 ダイは、完全なる護衛。


 そして女性は、おそらく身の回りの世話をする人、と言ったところか。


 景子は、この女性を見た。


 さっき、一瞬だけリサーについて笑っていた気がしたが、また彼女はつんと澄ましていて。


 視線に気づいたのか、女性はちらと景子に瞳を投げる。


「ケイコ」


 自分の胸に触れて自己紹介すると、彼女は表情を曇らせた。


 呼んだり名乗ったりしなければならないのだろうか──その段階から不満なようだ。


 しかし、アディマがちらりと彼女を見ただけで、態度が豹変した。


 コホンと咳払いをした後、長い指を自分の襟元にあてたのだ。


「シャンデルデルバータ」


 また長ったらしい名前が出たので。


「シャン?」


 そう復唱したら。


「シャンデル」


 ぴしゃりと修正が入った。


 そう呼べばいいらしい。


「ありがとう、シャンデル」


 景子は、応えてくれたのが嬉しくなって笑顔になった。


 ぷいと、彼女は向こうを向いてしまったが。


 アディマ、リサー、ダイ、シャンデル、菊──そして、景子。


 やっと、全員の名前を知ることが出来たことになる。


「アリガトウ……」


 また、アディマが呟いていた。


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