麗しい因果
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『捧櫛の神殿より……櫛を一対お贈り致します』
梅は、何かを聞いていた。
静まりきった世界に響き渡る、涼やかな声を聞いていた。
『それと……』
梅は、何かの香りに気づいた。
甘い甘い何かの香り。
『朝日の木に接いだ、太陽の枝の果実を……お持ち致しました』
空気が、揺らいだ。
人が何人かいる。
言葉に、彼らが微かに心を動かしたのだ。
『先ほど婚姻の儀が成立し、今まさに正妃になられた御方が接がれた枝でございます』
梅には、何かが見えているわけではない。
目を閉じているせいで、そこがどこかも分からない。
だが、喉の奥からその甘い香りへの渇望が生まれる。
食べてみたいと思わせる欲を、それは駆り立てるのだ。
『これこそ、まさに……太陽と朝日の間の子供でありましょう。このお二人に、これほど相応しい果実はございません』
その欲が。
言葉で、すぅっと引いて行く。
ああ。
『彼女』は、素晴らしい種をまく。
彼女が、よかれと思ってしたことが、彼女のためにより美しくなって戻ってくる。
麗しい因果。
彼女は、正妃になる。
それもまた──麗しい因果。
その因果の輪の方から。
誰かが、近づいてくる気がした。
何も見えないが、空気が震えているのだ。
しっかりとした何か。
それは、息がかかるほどすぐ目の前に立った。
語られたのは。
一言だけ。
『朝だ』
梅は──目を開けた。
白い、獅子がいた。
雄の獅子が、息がかかるほど間近にいる。
その獅子は。
梅に。
口づけた。




