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 図書室。


 ケイコは、きょろきょろと視線を動かした。


 窓もない地下室は、燭台を持っていなければ何も見えはしない。


 ここで、ウメが消えたというのだ。


「ケイコさん」


 後方から声をかけられ、びくっとして振り返ると──菊がいた。


 それと、アルテン。


「探してくれてるんだね、ありがとう……こっちもアルテンが来て、ようやく動けるようになった」


 菊は、ため息をつく。


 宮殿内部は、部屋やエリアによって許可制で、菊一人ではここに立ち入れなかったのだろう。


 背の高いアルテンが、燭台を上に掲げると、遠くまで照らすことが出来るのが、とてもありがたかった。


「本当に、密室だな」


 菊が、顎を巡らせながら呟く。


 窓も扉もない。


 ここから、梅は消えてしまったのだ。


 どうやって?


 失踪の現場に来てはみたが、手掛かりらしきものも見当たらない。


「やはりもう……ここから連れ出されたのでしょう。ウメの護衛の兵士が疑わしい」


 アルテンは、踵を返した。


 護衛の兵士が嘘をついているのだと、彼はそう考えたのだ。


 梅の身を、誰かに売ったと。


 非常に都合のいい、背の高い燭台が遠く離れた時。


 あれ。


 それは──見えた。


 本は、生きていない。


 生きていないものは、普通は光らない。


 けれど、一番奥の本棚の隙間が、微かに明るい気がしたのだ。


 勘違いかと思うほど、わずかに。


 慌てて、景子は自分の燭台を吹き消した。


 ああ。


 かぼそい、かぼそい光。


 だが──命の光が、そこにあった。



 ※



 アルテンと菊が、強引に本棚をこじ開けた。


 棚の陰にあったのは、下り階段。


 その階段の途中に──梅が倒れていた。


「梅さん!」


 景子は、驚きと悲鳴で駆け寄ろうとした。


 その身体を、菊に止められる。


「階段は狭い……アルテン、連れてきてくれ」


 彼女の言葉は、冷静だった。


 景子が駆け寄ったところで、何が出来るわけでもないのだ。


 はらはらしながら、アルテンが梅を抱きかかえてくるのを待つしかできない。


 だらりと下がる白い腕が、怖いほどだ。


 だが。


 景子には、見えていた。


 光が。


 彼女は、まだ生きている。


 ちゃんと、生きている。


 この目に、景子は感謝した。


 これで、また元の三人に戻れる。


 そう。


 思ったのに。


 梅は、執務室に運び込まれた寝台の上で、意識を取り戻さないまま、長い間高熱にうなされた。


 アディマが時折、金の炎で助けてくれたおかげで、熱は何とか下がったものの、梅は目を覚まさない。


 静かに、静かに横たわるだけの梅。


 水分だけは、何とか与えているが、元々細かった梅はどんどんやせ細ってゆく。


 つきっきりのエンチェルクも、どんどんやつれていった。


 そんな最中でも。


 時は無情に過ぎ、結婚式の日がやってきてしまう。


 一日もずらすことの出来ない、重要な国の祭りなのだ、これは。


 景子は、行かねばならなかった。


「梅なら、行って欲しいと願っているよ」


 菊の言葉の後押しに、彼女は後ろ髪をひかれながらも部屋を出ようとして──振り返った。


 うすぼんやりと光り続けている、梅の命の火を見るために。


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