表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
233/279

夜までに

 梅が、消えた。


 その言葉に、偶然菊は立ち会った。


 彼女の相方が、図書室から消えたというのだ。


 ダイが言うには、完全なる密室。


 これがフィクションならば、探偵の出番になるところだろう。


 失踪か誘拐か──魔法か。


 最初のひとつは、ありえない。


 だからと言って、後者二つがありえるかと言われると難しいのだが。


 一体、何をやってるんだか。


 さっそく、その図書室とやらに向かおうとしたのだが、菊は止められた。


 彼女が許可されていないエリアに、それはあるのだ。


 入るには、太陽府の許可がいるという。


 簡単に言えば、誰か貴族を通して許可を得なければならないらしい。


 ダイに止められては強行するわけにもいかず、菊はしょうがなく梅の執務室で待とうと考えたのだ。


 中に入ると、エンチェルクが一人でお通夜状態で座っていた。


 よく焼けた肌が、一目で分かるほど青ざめている。


 彼女の足は、まだ腫れが引かず、座っているしか出来ない状態だった。


「わ、私が……私が一緒に行けなかったせいで!」


 彼女が言うには、ヤイクという側仕えはお遣いに出ていて、エンチェルクがこの状態だったため、梅は護衛の兵士を一人伴って、図書室へと向かったらしい。


 兵士がついていたにも関わらずいなくなってしまったのだから、エンチェルクが気に病むことなどないように思えた。


 だが、梅が危険な状態になる時に、自分がそこにいられなかった事実が悔しいのだろう。


「大丈夫……梅は、すぐには死なないから」


 菊は、苦笑しながら彼女に言葉をかけた。


 これは、本当のことだ。


 長い間苦しんだり、気絶することは多々あるが、梅の心臓が即座に止まったことは、これまで一度もない。


 あったなら、今頃ここに彼女は生きていなかったはずだ。


 もし梅が死ぬとするならば、時間をかけて苦しんで、ゆっくりゆっくり弱っていくことだろう。


 夜までに見つかれば、きっと生きている。


 菊は、そう信じていた。


 夜。


 菊の切ったタイムリミットは、残酷なほどゆっくりと、しかし確実に来てしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ