表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
232/279

密室

×

 つながら、なかった。


 ダイは、眉間の皺を深くした。


 暴漢たちは、直接貴族とつながっていたなかったのだ。


 中継した人間を締め上げても、また次が出てくる。


 そして、その道は途中で切れたのだ。


 こんな火種を残したまま、婚姻の儀が執り行われるのは非常に心配だった。


 更に厄介なことに──トーも、まだ都にいる。


 まだ、トラブルは起きていないが、ダイはとにかくひとつでも災厄の種を除こううと考えた。


 ようやく、トーを捕捉することが出来た。


 彼は、風のようにどこかへ行ってしまうので、行方を見失うこともしばしばあったのだ。


 ただし、歌っていればすぐに分かる。


 その直後、ダイはトーの前に立ったのだ。


「すまんが……しばらく都を出て欲しい」


『出て欲しい』という言葉を使ったが、おそらく口調は『出て行ってくれ』になっていたはずだ。


 存在そのものが危険なのだ。


 その危険が、都にあること。


 そして、キクの近くにあることを、ダイは良かれと思えなかった。


 トーは、目を細める。


 その細くなった瞳で、しかし、ダイをしっかりと見据えるのだ。


「それは……できない」


 拒絶が来るとは、思っていなかった。


 これまで、彼はあるようにあるだけだったのだ。


 この国と太陽と出会うまで、人が作った風の道を、ただ通ってきたように思っていた。


 だが、ダイの作る道を──トーは良しとしなかったのだ。


「私は……歌いに来たのだ」


 細い目は、閉じられた。


 声には、静かな力がある。


 人の耳を奪い去るほどの、深い力だ。


「もうすぐ……この国が変わる日が来る」


 目が開く。


「それを祝う歌を歌うまで……私はここにいるのだ」


 風をかき分けた先にあったのは──鋼の芯、だった。



 ※



「シケた顔してるじゃないか」


 宮殿内部で、こんな気軽な声をかけてくる人間を、ダイは一人しか知らなかった。


 キク、だ。


 彼女は、近衛兵の詰所と東翼への出入りを許されている。


 東翼には、まもなく正妃になる女性と、その子たちがいるのだ。


 貴族の黒幕も突き止められず、トーも都から出せない男。


 それが、いまのダイだった。


 気分の浮かれようもない。


「疲れた顔をして見えるぞ……シャキっとしろよ」


 腕を、軽くポンポンと叩かれた。


 ふぅと一つ息をついて、ダイは開いている目に力を込める。


 確かに、近衛隊長が疲れているように見えるのは、よくないことだ。


 部下の士気にも関わる。


 そうして、ダイがいつもの自分に戻ろうとした時。


「た、隊長……大変です!」


 一人の兵士が、大慌てで飛んでくるではないか。


 反射的に、ダイはその男が誰か分かった。


 名前や階級ではない。


 どこの担当をしている人間か、だ。


 東翼の、とある執務室の警護をしている。


 その主は、貴族でもなく、この国の国民でもない。


「ウメさんが……」


 男は、上がる息の陰からその言葉を洩らした。


 様ではない、気楽な敬称で呼ばれているようだ──そんな悠長なことを考える思考は、いまはない。


「ウメさんが……消えました」


 不思議な、言葉だった。


 死でも怪我でもなく、誘拐か自分の意思での失踪だというのだ。


 この宮殿内で。


「門から出る、全ての荷馬車を止めろ!」


 ダイの判断は、適切だった。


 一番効果的な、手段だったはずだ。


 だが、兵士はワケが分からないというように、頭を打ち振ったのだ。


「それが……彼女が消えたのは……地下図書室なんです。私は、ずっと扉の前で待っていました! ずっとずっと待っていたのです!」


 地下図書室。


 出入り口は、たった一つの扉のみ。


 窓もなく、綺麗に密封された石に囲まれた世界。


 どこにも──消えられないはずの部屋だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ