鼻
○
「ヤイク、これをお願い」
「ヤイク、次はこっち」
「ヤイク、その後はあれを」
梅は、少年がひとつの仕事を終えた途端、次の仕事を頼んだ。
「少しは遠慮しろ!」
ぜいぜいと息をきらしながら、ついにヤイクは大声をあげた。
梅は、それに笑いながら首を傾げる。
「いままで、エンチェルクがやっていた仕事をお願いしているだけよ」
配達から、資料の調査。
最悪、各府まで出向いて資料を取ってきたり届けたり。
梅は、あらゆるところに首を突っ込んでいるため、忙しくなろうと思うなら、どこまででもなれるのだ。
「すみません……」
小さくなるエンチェルクは、座って書類の整理をしていた。
その足は、1週間ほど安静が必要だろう。
本当は、家に置いてくるつもりだったのだが、彼女はどうしても同行したがった。
実際に狙われているのは、自分ではなく梅だと知っているからだ。
ヤイクは、一度ギロっとエンチェルクを睨んだが、余計なことは言わなかった。
その代わり、ノッカーが打ち鳴らされた。
近衛兵士2名が、そこには立っている。
「本日より、こちらの警護に任命されました」
あら。
意外な訪問客に、梅は嬉しい驚きを覚えた。
「僕が、叔父上様に進言したんだ」
ヤイクの鼻が、にょきっと伸びた気がする。
これで、万事解決だろう──そう言わんばかりだ。
実際は、ダイからの進言もあっただろう。
彼は、近衛隊長ではあるが、宮殿内部の配置を勝手に変えることは難しいだろう。
東翼長との協議が必要なはずだ。
利用価値があると分かっている人間は、大事に扱ってくれる。
そんな、リサーの性格が、いまは非常にありがたかった。
これで、安全に仕事に打ち込める。
「どうもありがとう」
ウメがにっこりと微笑むと──ヤイクは、ますます鼻を伸ばしたのだった。




